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第999話 因縁のある引きこもり

 

「ここは、ステラに行かせてください!」

付加価値(アディショナルメンツ)』の『肆』であり『私の影を踏まないで』という二つ名を持つ紫髪の怠惰な少女───アインの前で、そう宣言するステラ。


「イブさん、いいですよね?」

 恋人であるイブに確認を取るステラであったが、イブは表情を一切変えずに───。


「あぁ、構わない」

 ステラが戦うことにイブは許可してくれる。


「どうする?イブもここに残るか?」

「あぁ、できればそうしたい」

 バトラズが気を利かせてイブにそんな提案をすると、イブもその優しさを甘んじる。


「ここなら、天井も近いから大地も操りやすそうだし、いいんじゃないか?」

 俺も、2人のその意志を尊重してアインと、彼女が呼び出した魔獣の相手をすることを承諾する。

 そして───


「───提案だ。ここにリミアも残したい」

「それってつまり?」

「一番の回復役を最後に設置することで、全ての戦闘後に回復ができるという算段だ」

「そうか、戦闘が長引けばリミアだけが残って、他の人は最下層の方に向かっちゃえばいいもんな」

「そういうことだ」

 カゲユキの提案により、『羽休め』という1人1度だけ使用できる回復を持っているリミアもこの戦場に残ることになった。


「それじゃ、決定だな」

「ん~、話し合いは終わった?できれば早く消えてほしいんだけど」

「消えることは無理だが、お前を消してやることはできるぞ」

「───戦うために必要な虚栄はだけは十分か。つまらないね、何故ならば近付いてほしくないから」

 冷たい床に横になりながら、アインはそんなことを口にする。その言葉と同時に、俺達とアインとの間に割って入る紫色の魔獣は唸り声をあげながら俺達を睨む。


「それじゃ、決まったから早くいってくれ」

「はい!ここはステラ達に任せてください!」


 イブ・ステラ、そしてリミアという『チーム一鶴』の中でも比較的新参に位置する3人がここに残ることが決定した。俺達は、その3人に人嫌いの引きこもりの相手を任せて先に進む選択を取る。


「それじゃ、俺達は先に進ませていただく」

「ん。もうこっちには戻ってこないで、何故ならば近付いてほしくないから」

 アインは俺達にそんな言葉をかけるけれど、俺達は振り返らない。前進あるのみだ。


 ───そして、俺達は部屋の隅にこの階に昇ってこれないように鉄板が溶接された階段を見つけ、俺の『破壊』でそれを破壊して先へと進む。


 アイン達の戦闘を地下1層とすると、次は地下2層だ。そこに待ち構えていたのは───


「───あぁ、こんにちは。生き生きしてますか?」

 そんなことを口にするのは体中から多種多様な花を生やした男。目から耳から、肩から腕から背中から、季節を問わない花を生やしながらその男は微笑む。


「───お前は、何者だ?」

 ここに来て初対面の人物が俺達の前に現れたけど、そいつが月光徒の伏兵であることは間違いない事実だ。


「芸術家です」

「───は?」

「そう、私は芸術家。卑しくも己の名前を後世にまで轟かせるために、己の真実芸術を追求し続けるアーティスト!」

 焦点の合わない目なのに、俺のことをしっかりと捉えてそんなことを口にする一人の男。できれば放置したかったが、相手をしなければならないだろう。


「芸術家だと?」

「はい、そうです。芸術家の中でも私は特に傲慢な部類でしてね。植物という、現在もこうして生命活動を行っている生物を己の芸術に取り込み、生命を使用して生命を表現すると言う何とも傲慢で強欲な行為を行っている芸術家です」

 そう口にして、俺達のことを舐めるように睥睨するその芸術家を気取った男は、俺達の中の1人に目を留める。


「───おっと、お嬢さん。お美しいですね。お花を挿してもよろしいですか?」

「え、私?」

 指されたのはマユミだ。


「はい、そうです。その体に花を挿したらどれだけ美しいことか。肉を裂き根を張り花弁を開くその姿、想像するだけのアートで終わらせるには勿体ない!」

「──その提案、お断りさせていただきまちゅ」


 戸惑っているマユミの代わりに、返答をするのはセイジであった。


「どうして、貴方が返事をするのですか?貴方の問題ではないのですが──」

「ママは僕のママだからでちゅ」

「──ママ?」

 その芸術家気取りは、セイジの「ママ」と言う単語に呆気に取られたような顔をするけれども、すぐに破顔する。


「はっはっはっはっはっ!面白い、実に面白い!血の繋がっていないどころか、自分よりも幼い少女のことをママと呼称し、自分の母親として崇拝する姿、芸術と呼ばずしてなんと呼ぶべきか!素晴らしい、素晴らしいアート!」

「──リューガ達はママを連れて先に行ってください。このエセ芸術家はぼくが相手をしまちゅ」


 そう口にして、セイジは一歩前に出る。

 彼の行動原理は、いつだって一貫している。ママを──マユミを守る。それだけだ。


「エセ芸術家とは失礼な。私にはオリリスと言う芸術的な名前があります」

 その生花の芸術家は、オリリスと名乗る。


「あなたの名前は?」

「セイジ」

「セイジさん、ですか。アナタを素晴らしい作品に変えてあげましょう」


 オリリスはそんな宣言をする。

 俺はセイジの背中を見て、俺たちは下層へと階段を下って先に進む選択をしたのだった。

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