第997話 地下のアジト
俺達が月光徒の最後のアジトの入り口である摩天楼の地上1階に到着した時、そこに広がっていたのは死屍累々の阿鼻叫喚。
月光徒の死体が積もってあり、容赦なく確実に息の根が止められているのか誰一人として動いていない。
「これ...全部『ゴエティア』の魔神が?」
「はい、地上階の敵は全て掃討します。ご安心を」
摩天楼が崩壊しており、その残骸が俺達の右手側に連なっているけれども、そっちにいる敵は『ゴエティア』が人知れず相手をしてくれるらしい。
俺達は、壁の役割をしていただろう月光徒の崩れた摩天楼の1階部分に侵入するが、そこには誰の姿も見えない。
人だった者は散らばっているが、生きた人の姿は本当にどこにも見えないのだ。
かなり残酷なことではあったが、それだけ『ゴエティア』が俺達に協力的であることを明らかにしてくれる。
「───って、これだけ強かったら俺達必要なくない?」
「いえ、そんなことありません。私達が相手をしたのは、月光徒の上層にいた相手だけ。まだ、地下にいる人物は倒せておりません」
「───地下?」
俺は、辺りを探してみるけれども地下に入れそうな入り口は見つけられない。
「入り口はどこにも見えませんけど」
「そうです。だって入り口はないんですから」
「───は?」
俺は、クロエの言う事が何のジョークかわからなかった。入り口が無いとは、どういうことか。
「このアジトの地下に、生命反応があるのは確かなので、地下には数人がが隠れています。『ゴエティア』の生物探査が可能な能力を持つ魔神に探させましたので、疑うのは葉野暮です」
「普通に、地下のアジトまで攻撃できないんですか?」
「できません」
「どうして?」
「外部からの能力による攻撃ができないように結界が貼られています。誰かの能力です」
「そんな能力が...」
まだまだ、月光徒にも俺達の知らない能力を持っている人がいるのだな───と、感心してしまうが、すぐにその絶対防御に気が付く。
「能力による攻撃ができないってマズくないですか?」
「はい。そう言っています。攻撃手段を能力に頼りきりの私達『ゴエティア』は無力なんです」
どうやら、『ゴエティア』は月光徒の地下のアジトへの第一関門が突破できないようだった。
「まぁ、月光徒の狙いとしては地下にアジトなんかあると思わないから、摩天楼の最上階へと誘い込むつもりだったんだろうけどな」
月光徒の思惑と、摩天楼を打ち壊してくれたのは全て『ゴエティア』のおかげだ。その活躍を無視して、『ゴエティア』は役立たずだだと罵るつもりはないし、そんなことは微塵も思っていない。
「───と、質問だ。その能力を通さないバリアは、魔法は使用できるのか?」
「試していない───というよりかは、試す術がないが正解です。そのため、『チーム一鶴』の皆さんにお願いしたいのです」
カゲユキの質問に、クロエは懇切丁寧に答える。
「ここは早速俺の出番のようだな」
そう口にするのは、大地の魔法を持つイブであった。イブならば、この状態をなんとか解決できるだろう。
「行けるか?」
「今、大地を動かしているけれど確かにこの下には縦に長い空洞がある。そこの最上層にならこのまま直下で行けそうだ」
「じゃあ、それで行くか」
「そうしましょう!」
イブの大地の魔法により、地下に月光徒の秘密基地があることが確実になる。このまま、イブの能力を使用すれば移動できるようだった。
「では、地下迷宮は『チーム一鶴』の皆さんにお任せします。私は、他の『ゴエティア』の幹部と合流しないといけませんから」
そう口にすると、俺達が有無をいう前にクロエは倒れた摩天楼の方へと行ってしまった。
「行っちゃった...」
「まぁ、クロエなんてそんなもんでちゅ。『ゴエティア』の幹部でちゅち、ぼく達がいるなら自分から死地に踏み込むことはしないでちょう」
「それもそうだな」
それに、地下にあるアジトが外部からの能力による干渉を無くすだけでなく、内部でも能力の使用を制限するものだったら、最強の『ゴエティア』だって弱体化してしまうだろう。
「それじゃ、アジトに侵攻するけどその結界を貼っている能力者を探すのを最優先にする必要がありそうだな。まぁ、今決めたところで地下の荒れ具合によっては朝令暮改もあり得るけどな」
そんなことを言いながら、俺達はイブの周辺に固まる。そして、イブは俺達の立つ地面を沈ませていき、地下へ地下へと進んでいく。
「本当に便利だよな、イブの魔法。エレベーターみたい」
「エレベーターか、懐かしい」
16の世界で、ユウヤ達はエレベーターに乗った思い出がある。それを思い出しているようだった。
───と、そうし、数十秒くらい降下していくと、ふと動きが止まる。
「このすぐ下に、部屋のような空間がある。大地そのものが天井の役割をしているようでこれ以上下がると落下する」
「そうか。なら、突入開始ってことか?」
「そういうことだ。リューガ、合図を」
イブがそう口にしたことで、皆の視線が俺に集まる。少しくすぐったい視線だったけれども、俺は一つ咳払いをしてから、息を大きく吸い込み───
「『チーム一鶴』、勝つぞ!」
「「「おー!」」」
鶴の一声と言わんばかりに、皆は俺の合図に従い声をあげて、それと同時に俺達の足場だった地面が消えて、月光徒の地下にあるアジトの最高層に着地したのだった。
 




