第977話 半日の激闘の末に
俺達『チーム一鶴』を包み込む眩い光。
前も見えない中で、俺達は確信をもって前へ前へと進んでいく。
普通であれば、前も見えないのに歩き続ける───ということは危険行為だけど、今おかれている状況においては、止まる方が危険行為だ。
進め、進め、進み続けろ。前に、前に、前へ前へと。
「───ッ!」
歩み続けた俺達を襲うのは、時空の結界の中とはまた違った光。
時空の結界の放つ光は、全身を包むような優しさがあるけれども、今当たっている光は前方から突き刺してくるような、そんな光だった。
「月光徒のアジトは暗かったから気付かなかったけど、もう夕方なのか...」
俺の数歩前にいたユウヤがそんなことを口にする。
俺達は、月光徒から逃げ延びて29の世界にやってきていたのだ。
半日間かけて行われた激闘の末、最終的には「逃亡」という形で俺達の戦いは終わったのだ。
「───敵襲に備えろ」
モンガがそう口にして、28の世界から今いる29の世界まで繋がっている時空の結界の方へ向けて刀を抜く。
もう既に『チーム一鶴』は全員29の世界にやってきている為、この時空の結界から出てくる人物に容赦なく攻撃していい。
もし誰か出てくるのはチューバか、それともチューバの差し向けてきた刺客か。
そんなことを考え、永遠よりも長く感じられる数分を体感した後に、時空の結界がタイムリミットで閉まっていく。
「───誰も来ない...ようだな」
時空の結界が完全に閉まった後、カゲユキがそう口にする。それはすなわち、『チーム一鶴』が月光徒の追手から一先ず逃れきれたと言ってもいい。
また数日後、というか数時間後には来ていてもおかしくはないけれども、今が耐え時だ。
「一度、どこかに宿に入ってこの疲れを取ろう。皆も疲れているだろう?」
「あぁ....回復魔法と『羽休め』で誤魔化してきていたがかなり限界だ」
俺の言葉に、バトラズも同意を示してくれる。見るに、他の皆も同じようだ。
俺も、ノーラの相手をしてチューバと睨みあったことで、かなり精神を摩耗させた。
「それじゃ、宿を取ろう。月光徒が来るかもしれないから、宿は1日ごとに変更する」
「その対策が一番良さそうね、了解」
───ということで、俺達は移動する。
宿を探している間に、俺達は29の世界での予定を確認することにした。
「まず、今日はこのまま宿に行って疲れをとることを最優先だ。できれば、『羽休め』が再度使えるようになる1日は休みたい。急な戦闘も予想されるからこそ、傷が治る『羽休め』は大切だ。それで、明日はアイキーを探す。明日のうちに見つけておいて、明後日俺達は30の世界に移動する。しばらくはこのスパンで移動していく」
「了解でちゅ」
「それとだ。休む───とは言っても、全員眠っていては襲撃に備えられない。時間で1人起きて見張りを行った方がいいと思う」
俺の言葉に、カゲユキがそう付け加える。
全員、その言葉に頷く。
見張りになりその時間に敵襲があったからと言って1人で戦うわけではない。
寝ている皆を叩き起こしてしまえばいいのだ。
「とまぁ、だからいつでも戦えるように準備をしておくことが大事ってことだな!」
「そういうこと」
オルバも俺達の意図に気が付いたのか端的にそう説明してくれる。
「なんだか、今日は眠れ無さそうね。睡眠と戦闘なんて並立できる人いないわよ」
マユミの言っていることも正しい。俺だって、正直言うと今日は眠れ無さそうな気がする。
だけど、ここが正念場だ。
最も安心しているからできる睡眠と、最も警戒すべき戦闘をいつでも行き来できるようにメリハリを付けるしかないのだ。
「私の熟睡のためにも月光徒は早く私達のことを諦めてほしいのだけれど...」
マユミはやれやれと言わんばかりに、その髪を揺さぶる。
「───と、イブさん!あそこの宿はどうですか?」
「問題なさそうだな」
宿探しの方に尽力していたステラが、1つの宿を見つける。あまり大きい所ではないけれども、あまり大きすぎると月光徒の襲撃があった時にあまりに対策しずらいので、こういう少し小さい所の方がいいだろう。
───と、宿のチェックインを行った俺達は、いつものように三部屋に分かれるようになる。
本当であれば、男女混合の1部屋でまとまった方がいいのかもしれないが、そこまでの大部屋は存在していなかった。
戦力が分散してしまうが、仕方ない。
それと、イブは予約できた3部屋の中でできるだけ大地のあるところの近い部屋にした。
そうした方が、大地の魔法をより行使しやすいからだ。
───と、こうして色々と対策は貼ってみたけれども、結局その晩に月光徒の襲来が来ることはなかった。
見張りの時はずっと、来るのではないかとドキドキしていたがそれが嘘のようだった。
ちなみに、あれだけ眠れないと思っていた夜だったが、いざ布団に入る───正確には、ユウヤが用意してくれた俺専用の毛布の中に体を潜り込ませると、睡魔が襲ってきて、一気に眠りに落ちてしまった。




