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第974話 戦闘の境地と逃亡の余地

更新全然できておらずすみませんでした...


 

「───外に逃げよう。室内に留めておこうとするってことはイブの大地の魔法は相当な脅威になるらしい」

 ユウヤのそんな提案。俺は、それに対して静かに頷いて外へ逃亡する方法を画策する。


「おいおい、天下の『チーム一鶴』様がまさか逃亡だなんて選択はしねぇよな?」

 そう口にするチューバ。


 これまで「戦略的撤退」と称して戦いから逃げてきたことだったり、逃亡することが理由で最終的に勝利を掴んだり、不必要に責め立てず自分たちの主張を通せるところまで戦えた場合はそこで終わりにする───という現実を上手く選び取っては来ていたが、今回はそう上手くいきそうにもない。


 第一、月光徒の幹部の1人であるマフィンを討伐できたのだって、俺達の中では正攻法ではない苦肉の策だ。

 相手の視界が悪い所で『回収』を使用し、有無も言わせず異空間に送り込む───などと言った方法が正攻法であってはたまらない。


「───あぁ、天下の『チーム一鶴』がその逃亡をするぜ。逃亡の余地はあるもんでな」

「逃亡の余地だぁ?そんなもの、ここには無い」

 そんな言葉がトリガーとなり、チューバが俺達の方へ迫ってくる。


「───ッ!『破壊』ッ!」

「『追跡車(チェイスカー)』」

「───俺じゃないッ!」

「当たり前だ、お前の『憑依』よりもずっと『回収』の方が危険だ」

 チューバは、俺の方へと迫ってくる様子を見せながらも、俺がタイミングよく『破壊』を使用すると、チューバはそれを見極めていたのか、それとも俺の間合いに入るつもりは毛頭ないのか、『追跡車(チェイスカー)』という『透明』を変形させた能力によって避けられる。

 狙いは俺ではない。マフィンを戦闘不能にした『回収』を持つアイラだ。


「アイラ!」

「───『羅針盤・マシンガン』!」

「『銃刀法違反射』!」

「───マジかよッ!」

「下がれッ!」


 狙われるアイラを守るように、チューバの方へと『羅針盤・マシンガン』を放つオルバ。だが、チューバは放たれた銃弾を、『銃刀法違反射』で反射してしまう。

 攻撃から一転、防御に、ピンチに陥ったオルバであったが、そこに割り込んだのはバトラズ。


 バトラズは刀を振るい、その銃弾を全て切り落としたのだった。


 ───と、これでも尚、アイラに危機が迫っているのは変わらない。


 アイラの方にチューバの腕が伸び───


「『回収回収』」

「───やば」

 チューバが『透明』を『回収回収』───即ち、『回収』を回収する能力に変化させたのをその安直な能力名から察する。

 そして、マフィンを戦闘不能に陥れた『回収』を奪い取るため、チューバはアイラに触れ───


「そんな攻撃はさせないよ」

「───ッ!」


 チューバの腕をバッサリと切り落とした───いや、切り離したのはユウヤ。

 何らかの能力がかかっていて、硬質化されていたとされていたとしてもユウヤの持つ『鳳凰の縫合』があれば、切り離すことができる。


「───クソッ!アザムの!」

「利用させてもらってるよ」


 チューバの腕が切り離されたことにより、アイラに襲い掛かる脅威が一瞬止まる。

「今がチャンスだな」

「うわぁ!」


 そう見極めたモンガが、アイラを抱えて逃亡を決する。

「イブさん、行きましょう!外に出ちゃえばイブさんの魔法が使えます!」

「そうだな」


「クソッ!逃がすか!」

「そうだそうだ!逃がすわけないだろ、チューバ!」

「───ッ!」


 ───と、俺達の所に助太刀としてやってきたのは、スランを先頭にした月光徒の一般兵士であった。


「皆!」

「『チーム一鶴』の皆さんに続け!俺達の勝利は、俺達でつかみ取るぞぉ!」


 月光徒の一般兵士と、月光徒の牢屋に捕らえられていた強者が束となり、チューバ1人へ襲い掛かる。

 俺達が助太刀として月光徒の一般兵士を助けているはずだったのに、いつの間にか俺達が助太刀される側に変わっていた。


「リューガ!ここは俺達に任せて外へ!外の方が戦いやすいんでしょう!」

「───ありがとう、そうさせてもらう!」


 スランがどうしてその情報を知っているのかは知らなかったが、俺達『チーム一鶴』は外へと逃亡する。

 あれだけ人がいれば、チューバをしっかりと足止めすることができるだろう。


「───それじゃ、俺達は外に逃げよう」

「でも、出入り口がどこにあるのかわからない!」

「なら、道を作ればいい!『破壊』だッ!」


 "バキバキッ"


 俺は、『破壊』で壁に穴をあけて、無理矢理道を用意する。どこのどんな部屋に辿り着いたとしても、その奥の壁に穴をあけ続ければこのアジトから脱出することができるのだ。


「皆が足止めしてくれているうちに、急ごう」

 そう口にして、俺は先頭を走る───いや、浮遊する。

 月光徒のアジトの壁に『破壊』を使用して俺の何十倍もある大穴を開けて、アジトの外を目指す。


 入り組んだ廊下や、一般兵士の個室と思わしき部屋を抜けた先には───


「───よし、出れた!地面だ!」

「そうだな。よかったな」

「───ッ!」


 俺達がアジトの外に出た矢先。そこにいたのは、月光徒の一般兵士達の相手をしていたはずのチューバであった。


「どうして、ここに!皆はどうした!」

「皆はもう殺した。次はお前たちの番だ」


 ───強敵チューバはそう口にして、その冷酷な視線を俺達に浴びせたのだった。

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