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第972話 炎が消えた日

 

 ノーラの死亡。

 それは、講堂での戦いの終結を意味していた。


 既にサタナキアやフルーレティの戦いは幕を閉じており、講堂を包んでいた炎の海も揺らめきながらその姿を消していく。

 ノーラの能力である『飛んで火に入る(ファイヤー)夏の無知(ダンサー)』は、ノーラが死亡されたら解除される部類の能力だったようで、ノーラが死亡すると一緒にその面影を無くしていく。


 炎が蒸発する。

 小さくパチパチと音を立てながら、先ほどまで血気盛んに燃えていたのが嘘だと言わんばかりに灰色の煙になって虚空に蔓延する。

 もう、ノーラは死亡した。俺達が殺した。だから、この炎はエネルギーの供給源を失ったのだろう。

 まるで鎮魂歌のように小さく音を立てながら消えていく。


「勝った...」

 俺は、その様子を見ながら小さくそう呟く。

 炎が消えゆき、ざわめきが静寂に変わっていく中で、俺はそんなことを口にする。

 先程まで死線に立っていたからか、それとも強敵だったノーラをこうして倒したからか、それともまだ完全に勝利しておらず敵地の真ん中にいるからかはわからないが、俺は勝利したという実感があまりなかった。


 だからこそ、弱弱しい声で勝利を口にしたのだ。すると───


「うおおおおおおおおおおお!!!」

「勝った、勝ったぞぉぉ!」

「皆の犠牲は無駄じゃなかった!」

「ついにあのノーラに勝ったんだ!」

「強かったノーラを殺した!」

「万歳!万歳!」

「「万歳!万歳!」」

「「「万歳!万歳!万歳!」」」


 熱狂が、熱烈が、熱望が、俺を中心に湧き起こる。

 皆、勝利した実感がなかったのだろう。きっと、まだ敵地の真ん中にいるから勝利した気分に酔えていなかったのだろう。だけど、俺の発言がトリガーとなり、皆を「勝利」に導いたのだ。


「───勝った、勝ったんだ!」

 俺も、周囲に巻き込まれるように「勝ち」というものを次第に自覚していく。勝利。勝利。勝利。


 ───これにより、『付加価値(アディショナルメンツ)』のメンバーは残り数名にまで減った。


 残っている『付加価値(アディショナルメンツ)』のメンバーは、俺を一方的に蹂躙した『古』であり『趣味嗜光』の二つ名を持つ最強、オイゲン。そして、俺も一度しかあったことがない『壱』であり『自意識無情』という二つ名を持つボクサーのような恰好をした人の言葉を喋らない男、ヴァレンティノ。

 それと、25の世界で勝負したけれども途中で勝負を中断させられた『肆』であり『私の影を踏まないで』という二つ名を持つ全ての攻撃が一撃必殺になりうる女性、アイン。そして、『×』であり『裏切者(エネミー)』の二つ名を持つ何から何まで規格外の、何を企んでいるのか全くわからない紳士、カールの4人であった。

 他に残っているのは、9体のオレとチューバであるから、合計5人と9匹ってところだろう。


「結構数も減って来たな...」

 勝利の余韻に浸りながら、俺はそんなことを口にする。すると───


「参上───したはいいものの、もう戦いは終わってやがる...」

 そう口にしながら建物の中に入ってきたのは、バトラズとモンガの2人。

 どうやら、エレンを討伐して帰ってきたようだった。


「勝ったのか?だなんて愚問だな。2人が揃っているのならもちろん勝ったんだろ?」

「その通りさ。まぁ、負けるわけねぇわな」

 バトラズはそう口にする。


「そっちも随分と余裕そうじゃないか」

「まさか。かなり激しい戦闘で生死を彷徨ったよ」

「本当かな」


 ───と、バトラズとモンガの2人が帰ってきたことにより、『チーム一鶴』がこの講堂に勢揃いしたことになる。


「スラン。一回、月光徒の一般兵士をまとめてくれ」

「了解」

 俺は、スランにそんな指示を出した後に『チーム一鶴』のメンバーに指示を出す。


「よし、全員いるな。死者がいないのは何よりだ。もう犠牲は出したくないからな」

「それもそうね」

 俺の意見にアイラが共感を示してくれる。やはり、俺達が気にするのは直近に死亡したぺトンのことだろう。


「───それで、俺達はこれからチューバを追う」

「その必要はない」

「───ッ!」


 俺がチューバを追うことを皆に伝えたと同時、俺達の真上から声がする。

 この講堂に2階は無かったはずだが、宙に浮いているのは1人の男───月光徒の三大幹部であり、現在生き残っている唯一の幹部であるチューバであった。

 俺達が探し求めている男は、こうして目の前にやってきてくれたのだ。


「───ッ!チューバ!どうしてここに!」

「どうしてここに?教えてやる。お前たちを殺しに来た」

「───ッ!」

「『熱光線』」

「避けろッ!」


 俺は咄嗟にそんな声を出して、俺達『チーム一鶴』は蜘蛛の子のように散って逃げる。


「月光徒は今ここに『満月派』と『三日月派』の二つに分割したことを宣言する!ボスを中心にする俺達少数精鋭が『満月派』で、それに反駁するお前らが『三日月派』だ」

「『三日月派』...」

「そして、お前らは異端だとボスから正式に命令が下った。それにより、これからお前らを殺す」


 ───これまでは、部下だからという理由で殺害できなかったスラン達一般兵士。


 だが、月光徒のボスであるステートから正式に指示があったため、これからは攻撃対象に含まれるのだ。


「全員死ねよ」

 チューバのそんな言葉と同時、天井が崩落する。


 ───チューバの本気が、俺達を襲う。

最終話を捉えました。

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