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第970話 炎天の弱点

 

 メラメラ。

 バチバチ。

 グワラグワラ。


 火の海は燃える。燃え続ける。燃え続けるからこそ、火の海である。

 ノーラの能力である『飛んで火に入る(ファイヤー)夏の無知(ダンサー)』によって生み出された炎は絶対だ。

 ノーラが定めた「燃やしたいもの」を跡形もなく燃やし尽くすまで、『飛んで火に入る(ファイヤー)夏の無知(ダンサー)』で生み出された炎は無くならない。

 だからこそ、絶対的で完璧だ。


 そこに何が入り込んでも全てを燃やし尽くすだけ。勝つまで勝負を続ければ、終わったころには絶対に勝てている。それと一緒で、燃やしたいものを燃やすまで燃え続けるなら、終わったころには燃やしたいものは絶対に燃えている。


 ───その強力すぎる能力には、ノーラも苦心した。


 まず、模擬戦で使えない。

 要するに、知り合いを練習で使うことができないのだ。味方を燃やし尽くしてしまうから、実戦でしか利用できないのだ。

 同じ理由で捕虜も作れないし、生け捕りにも向いてない。拷問なんてものとは縁もゆかりもない能力だ。


 強すぎる───それは、決して便利なのではない。不便なのだ。

 ノーラは、この不便な能力だったからこそ今のような実力を手に入れることができたと言える。

 生半可な汎用性があれば、ノーラはおれになまけて、もしくはかまけてその中途半端な異能に依存していただろう。


 燃やすだけなら、タイマンも多対一も簡単だ。負ける理由がない。

 嘲笑と傲慢は努力の副産物だ。敗北の味を知っているから生まれる強者への同族嫌悪だ。

 己を皮膚を犠牲に殺した最愛の男への餞だ。それなのに。それだってのに───。


「───『チーム一鶴』!どうしてお前らは、そうやって何度も何度も!」

 諦めるのが常だろう。焼かれて死ぬのが基本だろう。絶望するのが基礎だろう。

 だってのに、『チーム一鶴』は逃げる。逃げる。逃げ惑う。


 月光徒の一般兵士を肉兵に使用して炎の進行を食い止めつつ、しげしげとそのあくどい双眸でこちらへの攻撃チャンスを狙っている。

 遠距離攻撃は鬱陶しい。あのオルバという男は先程から数発ずつ銃弾を撃ち込んできている。

 連射ではないし、ここは喧噪に包まれているので発砲音が目立たない。現状、100発以上の回避に成功しているものの、タイミングが嚙み合わなければすぐにでも打たれてしまうだろう。


 そして、『チーム一鶴』のリーダーを名乗る忌々しきヒヨコ───リューガもウザったい。

 アイツの分体が『付加価値(アディショナルメンツ)』に組み込まれていることも知っているし、練習などと口にしてイライラした時のサンドバックにもしているからその弱さは知っているはずだ。


「それだってのに、それだってのにぃぃ!」

 こうして戦場を駆け回っているリューガは、こちらのリューガとは格が違う。

 これまで以上に死線を越えてきたのか、その動き方に迷いが見えない。優しさと冷徹さが共存し、己の正義を疑わない傲慢さが含まれている。


「嫌いだ、嫌いだ。嫌いだァ!」

 飲み込め。埋め込め。包み込め。


 怪物を殺すため、『飛んで火に入る(ファイヤー)夏の無知(ダンサー)』を周囲一帯にばら撒く。

 燃やすのはもちろん『チーム一鶴』。足元で鳴るバチバチという炎がはじける音を踏みにじり、リューガの方を睨む。


「───大嫌いだ。本当に」


 ***


「大嫌いだ、本当に」

 ノーラは、俺の方を向いて解けてきている包帯を握りつぶしながらそんなことを口にする。

 随分と嫌われているようだが、まぁいい。俺だってノーラのことは嫌いだ。相思相嫌だ。


 ───と、嫌われているのはきっと戦いが千日手になってきているからだろう。


 俺がチクチク攻撃してみても、オルバが『羅針盤・マシンガン』を放ってみてもその攻撃はノーラに当たらない。一方で、ノーラの攻撃も俺達には当たらない。主に月光徒の一般兵士が庇ってくれているおかげだ。

 このままでは、俺達の戦いはどちらかが疲労で倒れるまで続く───はずだったのだが。


「ここだぁぁぁぁ!」

 怒声。


 俺達の聞き慣れない声と同時に、部屋に入ってくるのは大量の男衆。

 その中には、リミアやカゲユキの姿も見えた。どっかからか、これだけの同胞を集めてきたようだった。


 ───と、俺がよそ見をしていると。


「油断炎上!『飛んで火に入る(ファイヤー)夏の無知(ダンサー)』だ!」

「───ッ!」

 そんな言葉と同時、俺の方へと迫ってくる渦巻状の炎。この炎に当たれば、俺は一瞬で唐揚げになってしまうだろう。この炎はなんとかして止めないとまずい。


「『破か───」

「『回収』」


 俺が、その場しのぎな『破壊』を放とうとしたその時。割り込むようにして入ってきたその少女は、『回収』を使用して、『チーム一鶴』を燃やし尽くすまで消えない炎を異空間に転送した。


「───アイラ!」

「めっちゃギリギリだったじゃない。私が助けに来てなかったらどうしてたの?」

「こ....この女ぁ!」


 助けに来たアイラのことを認識し、炎を消したという異常事態に驚きつつも、ノーラは攻撃の手をやめない。

 炎が通用しないのなら、肉弾戦。


 そういわんばかりに、アイラの虚を突いた蹴りを披露し───


「───っと、すまん。アイラは肉弾戦の戦闘員じゃないんだ。殴り合いがしたいってんなら、俺が相手してやるぜ?」

 そう口にして、ノーラと、ノーラと俺と間に割り込んできたアイラの間に割り込んできたオルバの肉弾戦が始まったのだった。


 おれは ヒヨコの姿なので肉弾戦はできない。だから俺の仕事は見守るだけだ。

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