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魔王の血を継ぐ娘  作者: 小膳
1.魔王の血
1/35

魔王の血(1/5)

 ルリ・レスコが一年A組の生徒二十人を皆殺しにする日の三ヶ月前――




(みんな死ねばいいのに)


 イトカ・ベルデッツはいつもそう思っている。

 ヨーロッパの小国ローセルマ、サルキヤ地方。その日の学校帰り、イトカは友だち三人とゲームセンターへ寄っていた。


「イケる、イケる……あーっ!」


 クレーンゲームのクレーンでぬいぐるみが落としてしまい、イトカは悔しさのあまり地団太を踏んだ。絶対取れると言い切った直後のことだったので、他の三人は大笑いした。

 イトカはサルキヤのブラーシェフ高校に通う十六才の少女だ。明るいブラウンの髪は当たり障りのないショートカット。爪は短く、化粧は最低限。校則の見本のような当たり障りのない容姿だ。

 ゲームセンターで遊んだあと、四人はコーヒーショップに入った。男友だちのアルタがイトカにキャラメルフラペチーノを奢ってくれた。


「はい。おいしいんだよ、これ」


「ありがと」


 アルタは期待した顔でイトカを見ている。

 イトカはそれをひと口飲むと、笑って見せた。


「おいしい!」


 アルタは嬉しそうな顔をした。

 もう一人の男子、ドミトルがにやりとした。


「な? これが嫌いな女子なんかいねえって」


「だよね」


 そう言った女子生徒はドミトルの彼女、ナディア。この四人がいつものメンバーで、ブラーシェフ高校一年A組の生徒だ。

 四人はしばらく談笑し、帰路についた。

 ドミトルは家が金持ちなので電話一本で高級車が迎えに来る。彼とナディアはそれに乗り、イトカとアルタはバス停に向かった。

 バス停でイトカと二人きりになると、アルタはそわそわした様子で言った。


「あ、ちょっと忘れもの」


「え? 大丈夫?」


「うん! 先に帰って!」


 そう言ってアルタは来た道を駆け戻っていった。

 イトカは不思議そうにそれを見送り、一人で家に帰った。旧市街地にあるテラスハウスだ。

 夕食の席では両親が決めたイトカの進学先について語り、同じ言葉を繰り返す。「お前はいい子だね」「本当にいい子だから」。

 夕食後、イトカが宿題をしていると、スマートフォンにアルタからメッセージが入った。


『窓の外!』


 イトカはテラスに出た。下の路上を見ると、アルタが手を振っている。走ってきたらしく息を切らしていた。

 驚いたイトカが玄関を出ると、アルタはぬいぐるみを差し出した。


「これ。あげる」


 クレーンゲームで取りそこねたぬいぐるみだ。アルタは照れたように笑い、頬を掻いた。


「あのゲーセンに戻ったんだけどもうなくって、それであちこちのゲーセンとか色んなとこ回って探してて。あ、いや、俺が勝手にやったことだから」


 アルタの態度を見て、喜んで欲しいんだろうなとイトカは思った。だから精一杯そういう顔をした。


「ありがとう、アルタ」


「うん……じゃあまた! 学校で!」


 アルタを見送り、イトカは部屋に戻った。

 ぬいぐるみを見ていると胸がもやもやした。別にこんなもの欲しくなかったし、それにキャラメル味のコーヒーも大嫌いだった。


(私はいい子)


 イトカは胸がぎゅっと締め付けられて息苦しくなった。


(みんな死ねばいいのに)


 でも本当はわかっていた。一番嫌いなのは、みんなに嫌われるのが怖くて本当のことが何も言えない自分自身。

 イトカは机の奥から小さな箱を取り出し、ポケットに入れると、両親に気付かれないように家を抜け出した。

 自転車で旧市街地を走った。このあたりはファンタジー映画さながらの石造りの町並みが今も残っている。

 運河沿いの遊歩道まで来ると、箱から小型ドローンを取り出した。ボディを組み立て、スマートフォンのアプリと同期して離陸させた。

 昼と夜の境界が美しいグラデーションを描いている。ドローンカメラの映像をスマートフォンで見ながら、イトカはシャッターを切った。イトカの心にも羽が生えたようだった。今だけは「いい子」の仮面を脱ぎ捨てて、ドローンのように自由になった気がする。

 ふと、イトカはスマートフォンの映像を拡大した。遊歩道に少女ががいて、イトカを見ている。

 イトカは振り返った。そこに彼女がいた。

 明るい茶色の肌に黒い髪をした、背の高い少女。ルリ・レスコだ。同じクラスの生徒だがこれまで話したことはなかった。

 ルリは蒼くて暗い空に目をやり、おずおずと言った。


「好きなの? あの空の色」


 イトカは目をしばたたかせた。


「えっ? えっと」


「私もなんだ」


 ルリは小さく微笑んだ。


「それ、見てもいい?」


「うん」


 イトカはドローンを待機状態にし、ルリにスマートフォンのアルバムを見せた。それを見ていたルリは目を見開き、突然大きな声を上げた。


Swarrowスワロウ? ロウがアール・アール・オー・ダブリューの!?」


 イトカは驚いた。なぜルリが自分のSNSアカウント名を知っているのだろう。

 固まっているイトカにルリは続けた。

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