プロローグ「恐怖の幕開け!」
祐は何気なしにPCを開いた。,
いつものネットタイムである。
ふと広告に目をやると、いかにもな美少女キャラクターが、まるでこちらを誘うかのように作られた笑顔で微笑んでいた。
祐は何気なしにメールを見やる。
いつものようにヤフーの広告メールだけが並んでいる。
ふと気になるものがあり、祐の目線はそこに釘付けになった。
昨日ネット通販で届いたものと同じも品物が写った通販メールの広告だ。
特に不思議ではない。
PCの閲覧経歴から対象者が興味を持つ品物が、広告として現れるのはよくあることだ。
しかし奇妙だと祐は思った。
その商品(美少女キャラクターの絵柄入りの抱き枕)は職場のPCを使い購入したものであり、自分のPCからはその商品どころか美少女キャラクター自体検索はしない。
自分だけが使う検索履歴などは誰も見ていないPCではあるが、心なしかそういったものに恥ずかしさはあった。
なので新しいPCにしてからここ数年、アニメやゲームに触れることはなかった。
ネットでも検索はしない。
するのは生活に必要なものか、職場に関係するものくらいであった。
職場のPCで美少女キャラクターを買ったのは、酒だけがお供の寂しい夜が続いたからと、ちょっと昔のゲームやアニメが好きだった頃の自分に戻りたかったという気持ちが、どこかしらにあったからだろう。
ふとヤフーメールのホームページ内に羅列している広告を見やる。
祐と同じくらいの年齢の中年の男が、祐と似たような上下の服を身に着け、祐と同じように正座をしてこちらを寂しげに見つめていた。
広告文字を見ると、そろそろ婚活を!本気になって!と書かれていた。
婚活…実は今日部長や同僚に「そろそろ婚活をしてみてはどうだ?寂しいだろう?」と言われていた。
祐は不思議な気持ちになりながらも、その広告にマウスを合わせる。
するとその広告が唐突に変わった。
本当に唐突に、何の前触れもなく。
ネットのブラウザの「更新」ボタンは押していない。
変わった先の広告は缶ビールの広告であった。
祐は今自分が右手に握っているものを見やる。
同じメーカーの缶ビールがそこにあった。
下のほうにある他の小さい広告に目を移す。
祐と似たような顔の男性の顔がアップになった写真があった。
眉毛のお手入れの広告である。
祐は自分の眉毛を指先で触る。
もうそろそろ眉毛の手入れをと、そう思い始めてはいた。
その下の広告に目を見やる。
カメラの広告である。
無機質なレンズがじっとこちらを覗いていた。
祐は、自分のPCのカメラに思わず指先を当て隠す。
心臓の鼓動が早くなっていた。
一度電源を切り、ガムテープでそこを隠す。
不安をかき消すようにタバコに火をつけ煙を吐く。
そしてまたヤフーメールを開いてみた。
すると一番大きい広告に祐と酷似した後ろ姿が写っていた。
その後ろ姿はPCを前にしていた。
後ろ姿でも祐本人ではないと分かるが、それでも気味が悪かった。
広告内の文字には「いつまでもPCばかりが恋人では…そろそろ婚活を」と書かれていた。
もう一度更新する。
今度はたばこの広告が姿を現した。