1-6 チートスキルを生むチートのチート過ぎる所以がチート過ぎてヤバ過ぎる
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絶対余人に口外しないことを条件として、俺は自分と、この世界が置かれている状況について説明した。
この世界にバグと呼ばれる異物が存在していること。
それが世界に影響を与え、いずれ崩壊に繋がるということ。
創造神テン・テルによって俺がその退治に向かうことになったこと。
その一日目に、偶然アニエスを助けることになったこと。
「で、ではアキラ様は創造神の御使い……!?」
ごく自然な流れるような動作で、地に平伏すアニエスさんでございます。
「神の御使い様にお仕えすることができるとは……わたしは、わたしは……ッ」
泣くほど嬉しいのはわかった。
けど話が進まないから立ってくれますぅ?
なんか傍から見ると、女の子土下座させてるド外道みたいに見えるんですけど。
ま、誰も見てないけど。
俺は女の子平服させて楽しむ趣味はあまりないのだ。
「というわけで、俺はこれからとても危険な旅にでることが決定してるわけだ。それについて来るっていうことは、アニエスも命の危険に晒されるってことなんだが……」
「覚悟の上です。――忠誠に目覚めなければ、きっとわたしは躊躇したことでしょう。ですが今なら、むしろ率先してその危険に身を晒し、アキラ様をお守りせねばならないという使命感を覚えています」
目ぇキラキラさせて言われたわ。
有難いんだけど、俺の側にその忠誠を受け取る覚悟が足りてないんだよな。
「ですが」
と、アニエスが顔を曇らせた。
「わたしはただの農民です。覚悟があっても能力がありません。一度だけならこの命を盾にすることもできますが、それまでです。なのでアキラ様。どうか一刻も早く、わたしに代わるお味方をお探し下さい」
しかも肉壁覚悟完了しちゃってるしねもう重ったいよほんとにもう!
「仕方ない、か。……いいか、アニエス。俺が創造神の使いってのもそうだが、それ以上にこれから起こるできるごとを、絶対に口外してはならない」
「……?」
「もしこのことが外部に漏れたら、俺たちはバグ退治どころじゃなくなる。世界中の権力者たちから逃げ回ることになるかもしれない。冗談でもなく、本当にそうなる可能性があるんだ」
だから俺は、昨晩の内に創り上げておいたスキルを使用する。
【禁止Lv5】
ふわりとした淡い光が、アニエスを包み込む。
今はまだ待機状態だが、このスキルを発動させると、
「俺が指定した行動を、対象の人物は一切行えなくなる。例えそれが対象の意思であるかどうかにも関わらず、だ」
例えば栄養摂取を【禁止】すれば、餓死寸前であっても食事を受け付けない。縛り付けて点滴(がこの世界にあるかどうかは知らんが)を打っても、どれほどそれを望んでも身体が拒絶する。
もちろん拷問や催眠術などに類するスキルであっても、スキルレベルが低いとこの【禁止】の効果を超えることはできない。
その説明をしたところで、アニエスの態度は変わらなかった。
「構うことはありません。わたしにそのスキルをご使用下さい」
躊躇いの無い宣言に、俺も躊躇いを捨てることにした。【禁止】をアニエスに使用し、その内容を設定する。
「俺が秘密にすべきと判断した俺自身に関する情報の漏洩を【禁止】する。すなわち『俺が創造神の使いである』、『バグの存在』、『俺が――スキルを創造するスキルを有している』以上の三点」
そしてアニエスの身体に纏わりついていた輝きが一瞬強く光り、そしてアニエスの中に染み込んでいった。
身体の中に生まれた違和感に首を傾げるアニエスに、「試してみろ」という。
「……アキラ様は――……えー、その、素敵です」
「なんだそりゃ」
褒められて嫌な気はせんが、どうしてそうなった。
「言葉が喉のここまで、出かかっているのです。ですがド忘れしたわけでもない、むしろ何を言うつもりか明確なのに口に出せないっていう、不思議な感覚でした。それで別の言葉を探すのですが……」
なるほど。
秘密を連想されそうな言葉も出なかった、ということか。
思った以上に強い強制力があるようだ。
さておき、ようやく本題である。
「たった今俺の秘密として指定した内容だが、俺は自在にスキルを生み出すことができる。そういうスキルを有している」
バグの存在はバレない方がいい。
バレると世界が混乱に陥る可能性がある――まぁ、俺が間に合わない時の最終手段として積極的に広めるというのもアリだ。上手く有力者なんかに信じさせることができれば、人海戦術が使えるかも知れないからな。
まぁ今はまだそれは置いておこう。
俺が神の御使いであることもバレると拙い。
神テン・テルに聞くところ、この世界にも宗教は複数あって、崇める最上神がそれぞれで違う。
大体はテン・テルの同僚とのことだが、現地宗教で対立している場合がある。
ヘタにバレると俺が宗教戦争に巻き込まれたり担ぎ出されたり狙われたりするのだ。
これまた宗教勢力を利用できる手段になりうるので、一考の余地はある。
その後に訪れる面倒くささを想像するだけで嫌になるので採りたくない手段だ。
だが。
バグの存在も創造神の御使いであることもぶっちぎって、もっとヤバいことがある。
【創造・力】。
これだけは俺が絶対に余人にバレてはならないスキルだ。
ヤバいとかマズいとか、もうそんなレベルの話ではない。
自分で貰っといて何だが、本当にコレは危なすぎるということに昨晩気が付いたのだ。
正直、今からでもクーリングオフできないか真剣に検討すべきかもしれん。
だから俺に絶対忠誠を奉げるというアニエスの心意気を信じたうえで、その行動を縛ってでもバレてはならない。
何がヤバいって、その効果は勿論の事だが、本当にヤバいのはソコだけではないのだ。
なぜなら、このスキルの使用対象は俺自身に限定されていない。
そしてスキル創造自体に殆ど時間がかからず、なんのエネルギーの消費も無い。
回数の制限すらないのだ。
つまり、俺はあらゆるスキル――この世界に存在しないものであっても――を好きなだけ、どんな人物に対しても、その場で与えることができるのである。
これは最早スキルという言葉の枠に収まらない。
創造神テン・テルの力の一端と言うべき能力なのである。
だが、全くの制限が無い訳ではない。
創造神の力の一端であるからには、創造神にできない事はできない、らしい。
創造神は複数いて、それぞれでこの世界を維持運営しているわけだが、その世界創造の取り決めの際に幾つかの制限を自分たちに課している。
その制限は、それぞれに重要な理由があって定められたものだ。それを超えることは創造神であってもできないし、もしそんなことをしたら『現在の世界が崩壊する』とのことだ。
逆に言えば、その幾つかの制限以外に俺は、あらゆるスキルを生み出し、しかもそれを誰にでも授けることができるのだ。
「ともあれ、俺はアニエスに戦う力を授けることができる。向き不向きはあるがな。【剣術】? 【斧術】? 何なら魔術でも覚えてみるか? まずは軽く二属性ほど」
「と、飛んでもない能力ですね……秘密にしなければならない訳がわかりました」
俺の軽い調子に、アニエスがたらりと冷や汗を流した。
実際、内容さえ決まれば、これくらい軽い感じでスキルを与えることができるのだ。
もし俺が権力者で、【創造・力】を使えるなり使える人間を確保できたとしたら真っ先に軍事増強を図るだろう。
兵士たちには戦闘技能身体能力上昇関係ありったけ。
臣民たちには生産系研究系開発系スキルをしこたま与えて、その全員に裏切りと情報漏洩と離反を【禁止】する。
かかる費用はゼロで、超絶富国強兵の完了だ。
商農工軍学のあらゆる分野で周辺諸国を圧倒する超大国だって夢じゃないな。
いや、俺に【絶対服従】とか【忠誠】とかでもいいな。
国民全てが俺に心酔する、裏切りの心配が一切存在しない独裁国家も実現できる。
バグ退治どころか世界征服すら可能じゃないか、これ。
「それをしないのですか?」
そうアニエスに尋ねられた。
言外にバグ退治とやらに有利ですよね、と言っている。【禁止】事項に引っかかってい口に出せないんだな。
だが、俺は首を横に振った。
「恐らく創造神たちによって阻止される。彼らはこの世界を正常に運営するのが目的で、そのためにバグ退治なんて俺に依頼したわけだから。それでこの世界のあるべき姿が歪んでしまったら元も子もない」
最終手段としてテン・テルに許可を貰えれば可能かもしれないが。
仲間を増やすにしても、少数精鋭であることが好ましいだろう。
俺自身も世界どころか一国だって征服して支配するとか面倒な事したくないしな。
「さて、アニエスはどんなスキルが欲しい? 後から幾らでも追加できるから遠慮なんていらないぞ」
「え、えええ~」
俺の余りに軽い調子に、アニエスが力の無い笑みを浮かべた。
結局アニエスは、俺に宣言した通り俺に迫る危機を直接払うという方向を選択した。
†
「アニエス! そっちに行ったぞ!」
「はいっ!!」
森から街道に出た俺たちは、何度目かの魔物との戦闘を行っていた。頭に角の生えた大型の猫、ホーンキャットである。素早い動きと回避能力、そして額の鋭い角を振るって攻撃してくる厄介な敵だ。
っていうかもう虎じゃねえのこれ。
その角猫が三体、俺たちのことを囲んでいる。
「うおおおっ」
アニエスが剣を振るった。
しかし刃は空を切るだけ。
その隙をついて、角猫が額の角を振るった――が、【創造・力】によって動体視力と反応速度を限界まで強化しているアニエスには通用しなかった。
左手の盾で角を受け止める。ばかりか、その細い身体とは裏腹の膂力を発揮し、数倍は体重差のある角猫を弾き返した。
……猫の驚愕した顔って、あんなんなんだな。
「でやっ!」
逆に隙を晒してしまった角猫の横っ腹に、アニエスの剣が叩きこまれる。
同時に氷雪の魔術を発動させ、内臓をかき回された角猫は絶命した。
一方の俺はというと、【操剣術】を用いて角猫二体をあしらっているところだ。
空中を自在に舞う五本の剣。
盗賊団たちから奪ったそれが間断なく角猫を襲う。猫たちは必死に防戦していたが、味方が倒れたのを見て決定的にビビった様だ。
それまで何とか俺を攻撃しようと隙を伺っていたのに、動きが逃げること前提のそれとなってしまっている。
「【操剣術】のいい練習になったよ。ありがとさん」
だが申し訳ない。
生かして返すつもりは無いんだ。そっちから襲って来たんだから文句言うなよ。
一番最初に放っておいて放置されっぱなしの短剣二本が突然飛び出し、角猫どもの脚に突き刺さる。それで致命的な隙を晒した二体に、俺は止めを刺すことにした。
不可視の力に操られる剣がヒュンと空気を裂いて、角猫の一体の頸を切り裂く。そして別の剣が腹から心臓を刺してお終い。
同時にもう一体を指すと、新たに習得したスキルを使用する。
「【雷撃】」
体内の魔力が消費され、雷光が指先から迸って宙を駆け抜ける。前脚に刺さった短剣に着弾。
「ギャン!」
体内に直接強力な電撃が見舞われたにも関わらず、流石魔獣だ。タフだな。まだ死んではいない――俺は一気に駆け寄ると、最大出力の【雷掌】をその身体に叩き込んだ。
巨体がビクンと跳ねてその命が潰えた。南無。
【感探】で周辺を探るが、敵性存在は無し。
角猫の死体を回収すると、アニエスの方に向かった。
「どうだ?」
「なんというか……不思議な気分です」
「そうだろうな。俺も同じだよ」
聞いたところ、角猫が村に出たら、大の男たち数人掛かりで柵を使ってようやく追い返すような凶暴な魔獣なのだそうだ。
冒険者であっても中級が三人がかりで角猫一体をどうにかといったところ。
ほとんどド素人の俺とアニエスが二人で三体を、それもコンビネーションも無しで倒せるような相手ではないのだ。
本来は。
森からこっち、俺たちは【創造・力】によって様々なスキルを身に着けていった。
だがスキルとは例えば便利な道具であって、道具を使いこなすにはそれなりの経験が必要になる。
というか、逆だな。
【肉体強化】は身体を鍛え続けたり肉体労働に従事したりすることで発現するスキルだ。だからただの農民であったアニエスも、俺と出会う前から持っていた。
【氷雪魔術】や【雷光魔術】も同様だ。
呪文を唱え魔力を意識して操作し、魔術を発現する。その魔術を使い続けてようやくそのスキルとしての【魔術】が身に付く。
だから【犬人の忠誠】のような特殊発現条件スキルでない限り、身に着けたスキルを使いこなせないなんて本来ありえない――使いこなせるからスキルが発現する、それが当たり前なのだから。
だけど今の俺たちは、【肉体強化Lv5】にしろ【氷雪魔術Lv5】にしろ持て余し気味であった。軽自動車しか乗ったことの無い奴が、突然最高時速300㎞のレーシングマシンに乗せられたようなもんだ。
とりあえず動かせはするけど、そのポテンシャルが凄すぎて使いこなせていない。
恐る恐るアクセルを踏んでみたりする。途端に急加速し、慌ててアクセルを離す。
でも自分の中にあるものだから急速に馴染みつつある、そんな不思議な気分。
俺たちが感じている違和感とは、そういうことだ。
「ま、これから慣れていくしかないさ」
「はい、アキラ様」
そうして俺はアニエスを連れて、ようやく異世界最初の街――ノーストの街に向かって歩き出すのだった。
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使用スキル
【創造・力】
オリジナルスキル。
スキルを創造することができる。ただし創造神たちが定めた禁忌に触れるスキルは創造できない。
ある程度強力で複雑な効果のスキルを作成するのに数十秒の時間を要する場合がある。
また作成時に、アキラが作成するスキルの効果を十分理解し細部まで想像できなければスキル創造自体が途中で止まることもある。
それら以外の制限――作成回数やスキルを与える対象などは特に設けられていない。
【操剣術】
ユニークスキル
【剣術】系スキルにおける最高峰の一つ。剣を思い通りに操ることができる。
操作する剣を一瞬でも所有する必要があるが、その後は手に持っているかどうかに関わらず自在に操作することができる。
一度に操作できる剣の数は使用者の熟練度次第。
切れ味が強化されるなどの付加効果は無い。
【雷光魔術】
レアスキル。
【風魔術】の上位スキルであり、【風魔術】を極めた適性者のみが操ることのできる雷光魔術がスキルと化したもの。体内の魔力を電撃として自在に操ることができる。
【氷雪魔術】
レアスキル。
【水魔術】の上位スキルであり、【水魔術】を極め、更に【風魔術】に適性を持つものが至る氷雪魔術がスキルと化したもの。氷と雪を自在に操ることができる。
【禁止】
レアスキル。
対象の、指定した行動を禁止する。
禁止された行動は、同レベル以下の拷問や催眠術などの支配系のスキルであっても行わせることができない。
また対象の意思に関わらずその行動を拒絶するようになる。
ただし効果が十全に発揮されるには対象人物が指定行動の禁止に同意する必要があり、
使用者に対し敵対的な意思を持っていると発動自体ができない。
下位互換に【抑制】というレアスキルが存在する。
【農業】
コモンスキル。
あらゆる農作業行為に対し効率化補正。またわずかながら農作物の出来が良くなり、病害や虫害に強くなる。効果についてはレベル依存。
愛情を持って農作物に向き合うと発現が早くなると言われている。
【料理】
コモンスキル。
文字通り料理が上手になる。スキルレベルが高いと初見の料理であってもそれなりのものが作れる。
意中の男性がいる場合、このスキルによって作られた料理を食べさせることで好感度上昇補正が付く。
このスキルの持ち主が女性で独立して離れて暮らす子どもがいる場合、その子どもは時折無性にその女性の料理を食べたくなることがある。




