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チートスキルを生むチート!!  作者: 入江九夜鳥
北のバグ
6/31

1-4 アニエス・アマーハイの人生が大きく変わった二晩の出来事 後編

後編です。


一応注意。

R15指定してあるこの「チートスキルを生むチート!!」ですが、

今回はちょっとグロいシーンがありますのでご注意下さい。




  †




 黒髪の男の人は、アキラと名乗った。

 アキラさんは鍵を見つけ、わたしの手足の枷を外してくれる。

 一晩ぶりに自由になった両手足――すごい解放感が、わたしは九死に一生を得たのだと実感させてくれる。


「それで――どうする?」


 未だ抜身の剣を片手に、アキラさんが尋ねてきた。


 場所は洞窟の外。

 彼の視線の先にあるのは、盗賊たちの死体が三人分。


視線の先には手足を縛られてこちらを見ている盗賊たちが三人。

 今にも出血多量で死にそうになっているのが一人――わたしの見張りに残っていた男のことだ。


 アキラさんには、わたしの事情を簡単に説明してある。

 わたしが農民の娘であること。

 こいつらが昨晩、わたしの家族を殺してわたし自身を攫ってきたこと。

 そしてわたしは違法奴隷として売られそうになっていたということ。

 

 それらを聞いたうえで、彼はわたしに尋ねたのだ。

 こいつらの処遇をどうするのか、と。


「この男の首だけは俺がもらう――文字通り賞金首らしいからな」


 顎で指したのは盗賊を率いていた大男。


「だがこの雑魚たちはそうじゃない。まぁ首を持っていけば幾らかにはなるんだろうが……家族の仇なんだろ。アニエスさん。きみが決めると良い」


 アキラさんが、剣の柄を渡してくれた。

 ずしりと確かな重さを感じる。わたしだってこんな田舎の村で暮らしているのだから農具や、藪を拓くための鉈くらいは振るったことがある。

 

でもそれとは違う類の重さ。


 これが、命の重みということなのだろうか。


 知らずに唾を飲み込んでいた。

 今ここでわたしが言えば、この男たちの命は失われる。

 そしてわたしが言えば、この男たちの命は救われるのだ。


 きっとわたしは凄く顔色が悪かったことだろう。

 怖気づくわたしをみて、黙っていた男たちが口々に命乞いを始めてきた。


「た、助けてくれ!」「後生だから、お願いだ!!」「頼む! 今後きっと悪さはしない! 心を入れ替えて真面目に働くから!」


 その必死の懇願。

 汗と鼻水と涙を垂らして口々に助命を乞う姿に、憐れみすら覚えるほどだ。

 つい数時間前まで下品な笑いと共に酒を煽っていた者たちと同一人物であるとは思えない。


人というものは、立場が変わるだけでこんなにも違ってしまうものなのか。


どうしよう。

立場が変わって、違ってしまったのはわたしも同じだ。


さっきまでの、両手足に枷を嵌められたままだったら、きっとこいつらに情けも容赦も無くこの剣を振り下ろしていしたことだろう。

けれども、今となっては。


揺れてしまっている。

いや、怖気づいてしまっている。


どうしよう――


 縋るような思いでアキラさんの方を見た瞬間、男の一人が、その言葉を口にした。





「いやだ……死にたくねぇ……死にたくねぇよ……!」





 その言葉を聞いた時の私は、一体どんな表情をしていただろう。

 きっと呆けたような、間抜けた顔をしていたはずだ。


 でも、それはほんの一瞬のこと。

 次の瞬間、わたしの心は一瞬で激情に染まった。

 煮え滾る怒りが爆発し、目の前が真っ赤に染まる。


「死にたくないなんて……当たり前だぁぁぁああああああああ!!」


 怒りとともに、「死にたくない」と泣いた男の頭に剣を振るい、刀身を叩きこむ。

 

「ひ、ぎゃあ!!」


剣術なんてしたことないから、ちゃんと刃が立っていなかった。斬れずに殴っただけ。それでも金属の塊で無防備な頭を力任せに殴ったのだ。


 バッと血と、骨の欠片と、脳の一部が飛び散った。

 絶叫。悲鳴。命乞い。


「父さんも!!」


 剣を振るう。

 血が舞う。


「母さんも!!」


 血が飛び散る――命が飛び散る。


「アランだって!! 死にたくなんてなかった!! アランは……アランなんてたった七歳だったのに!! ……その命を! 笑いながら! 奪ったお前らが!! ――お前ら盗賊が、『死にたくない』だなんて!! 口に、するなぁぁぁあああああああッ!! ああ! がああああッ!!」


 感情の赴くまま、力任せに剣を振り回した。

 悲鳴は直ぐに聞こえなくなった。それでも泣きながらわたしは剣を滅茶苦茶に振り回し、最後は地面に剣を突きさして、それに縋り付いて泣いて。


 いつのまにか気を失っていた。




  †



 どれだけ眠っていたのだろうか。

 とても暖かい夢だったようにも思えるし、とても寂しい夢をみていたようにも思える。


 ぼんやりと目を開けば、薄暗い洞窟の中だった。

 視線をさ迷わせれば、直ぐそこが外だった。身体にかけられていたマントを抱いて、わたしは外に出る。


 とっくに日は暮れていた。

 洞窟の前には、黒髪の男の人――アキラさんがいた。

 焚火を起こして、森猪だろう肉を木の枝に突き刺し、炙っている。


 彼はチラリとこちらを見ると、手にした肉をわたしに差し出す。


「食べるか?」


 湯気を立てて脂の滴る骨付き肉。

 先ほど昼間の出来事を思い出し、わたしつい目を逸らしてしまった。


 だけど。


「そうか。ま、飢えて『死にたい』なら食べなくてもいいさ」


 その言葉に、カチンと来た。


「食べないなんて言ってません。有り難く頂戴します」


 わかりやすい挑発だ。

 だけど今のわたしは、そんなことでも受け流す余裕なんてなかった。

 アキラさんの横に座って、肉を受け取り齧りつく。




 そして口の中一杯に広がる――血生臭さ。




「……おいしくないです。これ、ちゃんと血抜きしました?」


 アキラさんが目を逸らした。

 視線の先には、森猪を解体した跡……というか、残骸らしきものが。

 焚火の火に照らされるそれを見るに、なんというか未経験者が聞きかじった知識で獣を解体したらこうなりました、という感じになっている。


 毛皮に脂が沢山残っているし。

 っていうかわたしの手にしている肉に、毛皮が残って焦げ固まっているし。


 父さんだったらもっと上手に解体できるし、母さんだったらもっと美味しく焼いてくれる。そしてわたしとアランは滅多に食べれないごちそうに手を叩いて喜んで――


 気が付けば泣きながらわたしは肉に齧りついていた。

 口の周りをべとべとにして、何本も肉をおかわりして、お腹いっぱいになるまで食べて。


 それから思いつくままに話をした。自分のこと、家族のこと、父さんのこと、母さんのこと、アランのこと。

 迷惑かなって思ったけど、アキラさんはゆっくり相槌を打ちながら全部聞いてくれた。


 お腹いっぱいになって、色々あって感情的にも疲れてしまっていたわたしは再び眠りに落ちた。それもアキラさんに寄り掛かって、だ。







 二人で一枚のマントに包まって夜を明かす。

 朝日が森に差し込んで、わたしは目を覚まし――アキラさんの横顔を見て。


 唐突に理解する。

 昇る朝日の様に、わたしの中に芽生え、そして確固とした思いが生れていた。


 犬人種は時として、強い恩義を感じた相手に対し心からの忠誠を誓い、決して裏切ることなく生涯かけて仕える本能的な習性があるのだという。



 ああ、これがそれだ。


【犬人の忠誠】だ。

アキラさまこそわたしが一生仕えるべき主なのだ。

 

少し眠そうにしているアキラさま。わたしはまずは決して忘れることの無いよう、アキラさまの匂いを胸いっぱいに吸い込んで、心に刻み込む。


 そして忠臣たる第一歩として、


「おはようございます」


 と挨拶をする。


 さぁ、最初の仕事にとりかかろう。


 アキラさまのために、できるだけ美味しい朝ご飯を作るのだ。

母さんほどじゃないけど、わたしもそれなりに料理はできる。……ろくな材料があればいいのだけれども。


わたしがちゃんとアキラ様にお仕えできるかどうか、見守っていてね父さん、母さん、アラン。


昇る朝日の輝きに、わたしは「むん」、と気合を入れた。






 これがわたし、アニエス・アマーハイの人生が大きく変わった二晩の出来事の顛末だ。

 


 農民の娘として穏やかであった生活は終りを告げて、波乱万丈なんて言葉では言い表すことのできない日々、その一日目の始まりだった。


次回は12/4 午前中の更新予定。

チート過ぎるチートスキルが、

作者が想定していた以上にぶっ壊れであることが判明します。

プロット切ってて「……いやいや、嘘だろコレ」とセルフツッコミしていました。



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