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チートスキルを生むチート!!  作者: 入江九夜鳥
北のバグ
31/31

エンティング

本日二話連続投稿の二話目です。






  †



 星暦1911年12月13日――プラクトアースの南極点付近。


 見渡す限り白銀の大地が彼らの前に広がっている。

前日までの猛吹雪が嘘のようだった。彼らの偉業の達成を見届けるべく、天上の至高神がその偉大なる御手で空の雲を振り払ってくれたかの如き青空が広がっている。


「いよいよだな……!」


 誰に言うでもなく、彼――アンセム・ロアは呟いた。

 周りを見れば、ここまでの苦難を共にした四人の男たちがいる。彼らの顔には希望があった。勇気があった。なにより、確信があった。

 アンセム自身もまた、同じ顔をしてることは鏡を見ずとも分かっていたことだった。

 

彼らは慣れた手付きでテントを片付ける。逸る気持ちが心を高ぶらせる。極地の冷たい空気はこれまでの旅で障害となったが、今は熱い気持ちを鎮めるのに心地よいばかりだ。


二十五頭の吹雪絶犬(ブリザードドッグ)が引く犬橇(いぬぞり)で、およそ三十キロほどに近づいた極点へと向かって彼らは出発する。


アンセム・ロア南極点到達隊。

それが彼らのチーム名であり、人類史上で初めて南極点に到達することが彼らの目的であったが、その旅路は苦難の連続だった。

そのために莫大な資金と、数年の準備期間を費やした。

南極大陸に至ってからも気候に慣れるための習熟期間や、大陸外延部に住まう魔獣との戦いに多くの時間と資材を費やす必要があり、吹雪絶犬や仲間たちが死傷することすらあったのである。


そんな苦難を乗り越え、ここまでやってきた。


逸る気持ちはどんどんと強くなる。だが、ここまでなんども苦難を乗り越えた彼らは油断をしなかった。白銀の雪に覆われた大地は、目に見えない罠を張り巡らせていることがある。


「おい、雪裂(クレバス)があるぞ! 気を付けろ!」


 仲間の言葉にアンセムは橇を引く犬たちに向けて鞭を鳴らした。

 訓練されここまでの道のりを共にした犬たちは、言葉が通じないとは思えない程機敏に、そしてアンセムの思い通りに動いてくれる。

 

雪原に突如口を開いている雪の裂け目クレバスは、深さ数百メートルに及ぶこともある。落ちれば這い上がることは難しい。

何の指標も無いまっ平らな雪原では遠近感が狂って、見えているクレバスでも近づきすぎてしまうことがある。また、薄い雪庇が蓋のように覆っていることもあるし、吹雪や霧が出ていれば視認することすら難しい。


南極の最奥、最早魔獣すら住まうことのない極地において、彼らの行く手を幾度となく拒む天然の罠だった。


彼ら一行の行く手には、丘があった。

機材を用いて何度か測量し、その丘の向こうこそが、前人未到の南極点であると彼らは確信する。 


 そして慎重に、しかし確かな喜びと共に雪丘を登った彼らは、信じられない物を見た。


「あれは――!?」


「ど、大竜の骨(ドラゴンボーン)!?」


 丘の向こうの盆地に、それはあった。

 風雪に埋もれることなく、この距離からでも視認できる程巨大な竜の骨格が盆地の中央にうずくまっているのだ。


 巨大な竜――おそらく、南極大陸の支配者として南半球の幾多の伝説に名を轟かす、極点の竜(ポーラ・ドラゴン)に違いない。


 だが、三百年前の記録にあるのが最後の出現とされている。

 力ある魔獣の中でも、特に知性や魔力が高いと言われ、創成神の御使いとしての役目を負うと言われる大星獣の一体である極点の竜(ポーラ・ドラゴン)

 数百年もの間姿を見せないのは何かの気まぐれであると言われていたが、


「ほ、骨……? まさか、ポーラ・ドラゴンは死んでたっていうのか……!?」


 そんなばかな、と誰かが呟いた。

 それは、その場にいた全員の気持ちを的確に表していた。



  †



 あり得ない。

そんな馬鹿な。


このふたつの語句を、彼らアンセム・ロア南極点到達隊は幾度となく呟いた。一生分呟いたのではないか、というほどの数である。


「――間違いなく、ここが南極点です……が、その……これは、……そんな馬鹿な」


 測距儀を手にした隊員が力なく報告する。

 アンセムもまた彼と同じ気持ちで、その報告を聞いていた。

 だが何と答えればよいのか判らなかったので、弱々しく頷き返すだけになる。


 ポーラ・ドラゴンの遺骸。

 その直ぐ傍にある一点こそ、彼らが命がけで目指した南極点である。


 だがそこには、彼らにとって悪夢のような――絶対に認めたくない現実が存在していた。


 明らかに、人の手による石碑が建立してあるのである。

 

 アンセムの腰程の高さの石碑は、土石系の強力な魔術で創られたもののようだ。

 それ自体が信じられないことであった。


 南極に幾星霜の年月を経て積もり積もった雪は、数キロもの厚さに押し固められている。土も石も、分厚い雪と氷に阻まれたその向こうにあるのだ。

 自然操作系の魔術は、その環境下に多大な影響を受ける。雪と氷に覆われたこの大陸にあって、炎と土の魔術を使用するのは生半可な魔術士では不可能だ。

 いや、蝋燭の灯くらいなら。或いは親指の先くらいの小石ならばあるいはなんとか可能かもしれない――。


 と、いうのに。


「……観測術式の結果です。この石碑は、ずっと深い位置から生えているようで……おそらく、雪の下の、地面から」


 その石碑には、いくつかの言語で同じ内容が記してあった。

 すなわち、


『――星歴1675年8月9日 純人族A・Kとその仲間達 南極点に至る』


 アンセムたちに先立つこと約二百四十年。

 この極地に辿り着いた者たちがいる。


 この事実を、彼らはどう受け止めるべきか判らなかった。

 歴史上に足跡を残すはずの彼らは、この正体不明のA・Kとその仲間達とやらの、隠れた偉業を世に知らしめる立場になってしまった。

 隠蔽するにも強力な防御魔術が施してあり、彼らの装備ではこの石碑を破壊することも、文章を改変することも出来ない。


「それもそのはずでしょうな。このポーラ・ドラゴン……このA・Kとその仲間達とやらがやったのでしょう」 


「……おそらく、そうだろうな」


 アンセムは、再びその言葉に頷いた。

 見上げる程にも巨大な竜の遺骨。


 真っ黒に焦げて、触ると未だにほの温かい。


 この寒風吹きすさぶ――文字通り骨の芯まで凍り付く吹雪が吹き付ける極地にあって、この地ではまともな威力を期待できないはずの火炎系魔術で焼き尽くされた竜の遺骨が、未だに(・・・)、二百年以上の時を経て、まだ熱を持っているなど。


 アンセムたちは結局、三日の間この地に留まった。

 南極点やポーラ・ドラゴンの遺骨についての様々な観測データを収集し、力なく母国への帰途へと着いた。


 母国ノーザムリア王国でこれらの事実を公表したアンセムとその一行には毀誉褒貶多くの言葉が投げかけられた。

 最も人類が到達するに困難な場所に、先に到達した者がおり、しかも大星獣を屠っているなど到底信じられない事態であるからだ。


 そのため、謎の純人族A・Kについて、アンセムの創作であるとする論調が強まってきたころ、信じられない事態が起きた。

 

アンセムの南極点到達から五年後、アーマルゾ大密林の奥地で発見された古代遺跡に、全く同じ、A・Kとその仲間達と記された石碑が発見されたのである。


それから百年もの間。

史上未到達であるはずの世界中の奥地、極地、遺跡、古代神殿、洞穴、火山口、湖底、海底、果ては海溝の底の底まで――あらゆる地に、純人族A・Kの石碑が発見されるようになったのである。


違うのは素材と、記された年月だけ。

古くは1595年に始まり、新しくは1900年まで。

これが事実であれば純人族にはありえない寿命の長さということになり、A・Kとは個人名ではなく、未踏破地域の攻略を専門に行う冒険者チームであると考えられるようになる。


その当の純人族、アキラ・コウジロ(A・K)といえば――





「あ、南極に残した石碑。発見されたみたいよ」


「……んん? あー、今頃か」


 クロエの言葉に、俺は大あくびをしながら答えた。


「南極の石碑って、二百年前だったか?」


「二百七十年ですよ、アキラさま」


 そうか、と隣に座るアニエスの言葉に頷く。


「……二百三十六年よ、二人とも大雑把なんだからァ」


 シュゼットが笑いながら訂正してくる。

 ああ、思い出した。この微笑みを浮かべながら、ポーラ・ドラゴン丸焼きにしたんだったなコイツ。


「全員雑談止める。もうすぐ加速カウントダウン始めるから」


「「「「了解であります」」」」


 俺たちの言葉に、たしなめて来たエマが頷いた。

 

 俺も改めて前を見る。


 窓の外、眼下に広がる白い雲。

 空には青く輝く満月。


 魔導飛行艦の艦橋。

 その艦長席に俺は身を沈めていた。


 操縦席に座るのはエマ・アドノー。

 観測通信席にはクロエ・イクスズ。

 砲撃管制席にはシュゼット・クスワーク。

 そして隣の副艦長席にはアニエス・アマーハイ。


 もう三百年以上も一緒に世界を回り、バグ退治をともにした仲間達だ。


 思えば遠くに来たもんだ。

 クシュウ古神島のノーストの街に始まり、その東西南北を回って、日神列島国南部に、北部に。北極。南極。密林。砂漠。海底。


 世界の各地を飛び回ってバグを駆逐して回った。

 権力者に見つかりたくない一心でその殆どを誰にも知られずに行ったが、いたずら心で残した石碑の一つが、つい先ほど見つかった、というわけだ。

 色々な仕掛けも残しているから、魔術的な痕跡で俺たちに辿り着くのはまぁ不可能だろう。


 それにしばらくの間は、この星に居ないしな。


「アキラ。時間」


 エマの言葉に、俺は頷き仲間たちに指示を下した。


「よし、それでは加速開始。目標――()


「了解」


 飛行艦は、音もなく加速を開始する。

 するすると鳥よりも速く、音よりも速く。


 やがて重力を振り切り、宇宙へと飛び出す。


 目指すは月面。

 月の裏側には兎人種の都市があって、その近郊でバグが暴れているのだとテン・テルからのお達しである。


 まったく、無茶振りが過ぎる。

 それもいつもの事か。


 ふと、アニエスがこちらを見ているのに気が付いた。

 俺は微笑み、頷き返す。


 そうさ、いつもの通りだ。

 俺にはチートスキルがある。

 チートな仲間達もいる。

 何も問題は無い。


 俺たちのバグ退治は、これからも続く。

 






      了


以上を持って、拙作「チートスキルを生むチート!!」は打ち切りとさせていただきます。

ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。


打ち切りの理由は、目標として設定したPt数に届かなかったからです。

その目標とは12月中に500pt達成、あるいは日計ジャンルランキングに入ること。

これらのどちらかを達成できなければこの時点での打ち切りは連載前に決めた事でした。


ひとえに作者自身の未熟と力量不足により招いた事態です。

物語をここで切らねばならないのは痛切な思いです。


その一方で、この物語によって多くの成功と失敗を学ぶことができました。

これらを次の物語で活かすことのできるよう精進いたしたいと思います。


最後になりましたが、ここまでお読みいただいた皆様。

ブックマークをしてくださった方、評価や感想を下さった方。

まことに有り難うございます。

もし次回の機会がございましたら、その作品も変わらずご愛顧いただきますようお願いいたします。


それでは、また。


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