ぷろろおぐ 2
本日二話連続投稿の二話目です。プロローグ後編になりますので、前話をお読みでない方はそちらからどうぞ。
†
おふざけはさておき、本題である。
「ま、ボクの使徒として現地に転生してもらう以上、最低限のサポートはするよ」
異世界を簡単に説明すれば、剣と魔法の世界という奴である。魔物もいれば、人間同士の命のやり取りだって現代地球に比べれば遥かにハードルが低い世界だとのことで。
「そもそもの目的であるバグの除去だって、基本的には戦闘前提なんだから最低限何らかの戦闘能力を付与しない事には始まらないしね……言っておくけれど、ボクにやり直しはあるけれどキミにはないからね」
今回の俺の場合は、本来輪廻転生するはずだった俺の魂をチョロまかして自分の使徒に仕立て上げたんだとよ。同じ生命の魂が二度も三度も全く同じままで転生したりするのは神様的に宜しくないらしい。
「今回は裏技使ってゴマかしたけどさ。次に死んだらハイおしまい。ボクはキミの死を悼み、次の使徒を派遣するだけさ」
神様がそう言い、俺は肩を竦めた。薄情と言うなかれ、そもそも拾った命だと割り切らなきゃやっていけない。
しかしそれで無くすは自らの命である。ちょっとどころではなく、ガチでそのサポートが少なくとも当面の命綱となる。真面目に考えよう。
「まあ現地の言葉とか腹痛対策とかそういう基本的なところはまとめてあげるとして」
「待て。言葉はともかく、腹痛ってどういうことだ」
「どういうことも何も……キミ、今から行くのは外国どころか異世界だよ。水が合わないどころの話じゃないよ。公共衛生の観念も現代日本並みにある筈も無い。行って、速攻食当たりと感染症で死にましたじゃ困るんだよこっちが」
ああ、なるほど。超納得した。
日本で当たり前にあるものが海外ではそうではないと聞いたことがある。中堅ランクのホテルでもシャワーのお湯が出なくて水だけとか、日本じゃまず考えられない。鶏卵を生のまま食べることができるのも日本ならではだ。
元々日本は高温多湿な土地である以上、すぐカビが生える。だから元々衛生環境ってのには敏感になる傾向があるわけだ。
要するに日本人は超のつくキレイ好きで、その分不衛生な環境に耐性が無い。海外で生水を飲まない方がよいというのは、腹を下すからである。
「ふーむ」
俺は考えた。
あなたは死んだ、けど生き返らせてあげます。
そう言われて浮かれちゃいたが、そうか、そうだよな。異世界行くんだよな……。
「その基本的なところってのとは別に、チートスキルをなんでも一つくれるって言ってたよな。まず、基本的なってのを確認しようか」
内容が被ってしまったら目も当てられない。
それで教えて貰えたのは、以下の五つだ。
【言語Lv5】あらゆる言語を理解し使いこなすことができる。
【適応力Lv5】あらゆる環境に肉体的・精神的に適応できる。
【肉体強化Lv2】身体能力の強化。
【魔力操作Lv2】魔力を操作する。魔術の行使に必須技能。
【基礎魔術Lv-】超初心者向け魔術セット。極小の魔力消費で【発火】【灯明】【流水】【浄化】が使えるようになる。
以上の基本セットだった。なるほど、聞きしに勝る基本っぷりだ。
「このLVってのはなんだ? 【基礎魔術】だけ無いんだが」
「Lvはまんま、そのスキルのレベルだよ。最大で5。高い程効果が強い。【基礎魔術】だけレベルが無いのは、出力の差はあっても、それ単体で完結していてそれ以上鍛えることができないからさ。例えば【発火】を鍛え続ければやがて【火炎魔術】って別のスキルが発生する」
そこらへん、適正とか向き不向きもあるけどね、と神様は続ける。
なるほどな、と俺は腕を組んで考えた。
更に話を聞くと、スキルについて色々なところがわかった。
スキルには、コモンスキルとレアスキルとユニークスキルの三種類が存在する。
コモンスキルとはその名の通り、一般的に存在するスキルだ。俺がもらう基礎セットは全てこれで、向き不向きはあれどよっぽどでなければ大体誰でも取得ができる。
スキルが無くても筋トレして体を鍛えることができる。
筋トレを続けていけばやがて【肉体強化】のスキルが発生する。
【肉体強化】があるのと無いのでは、明らかに身体能力に違いがある、と。
んで一部の才能のある者が、希に目覚めることができるのがレアスキルだ。
【肉体強化】系のコモンスキルの中に【肉体硬化】というものがある。文字通り肉体を硬くして防御力を上げる能力だ。
【肉体硬化】を鍛え続けるとレアスキル【肉体鋼化】が発生することがある。これはもう硬いなんてどころではなく、岩で殴られても岩の方が砕けるとかそんなことになるらしい。どういうことなのさ。
ユニークスキルは取得に複雑な要因が絡んでいる場合が多い、特殊なものだ。多くの場合血筋や種族特性が絡んでくるらしい。
例えば人間その気になれば血液を飲むことができる。何ならブラッドソーセージみたいに料理することができる。それはつまり、血液を消化し栄養にすることができるってことだ。
だが、ユニークスキル【吸血】を生まれながらに持っている吸血鬼たちにとって、血液とは普通の人間の食事以上の意味を持っている。血液を定期的に摂取することで超人ともいえる肉体能力を発揮するわけだが、そこに作用するのが【吸血】スキルなのだとか。
一部の獣人たちは本当に獣に変身する【獣化】スキルを持つが、これもユニークスキルだな。
努力すれば手に入るであろうコモンスキル。
才能があれば開花するかもしれないレアスキル。
種族や運命的な何かが絡んでくるユニークスキル。
そういうことらしい。
それぞれのスキルの中にも上位下位があったり、もっと稀有な伝説級のスキルがあったりするらしいが、まぁさておきだ。
そしてようやく話が最初の所に戻ってくる。
「チートスキルをひとつ、あげよう」
さて、何を貰おうか。
俺たちは頭を突き合わせてあーだこーだと相談した。
どんな魔術でも使えるスキル。
強力な精霊を使役するスキル。
魔獣召喚。
あらゆる武器を使いこなす。
現代地球の兵器を呼び出す。
集団催眠、いや洗脳とか。
超絶カリスマで軍団を組織する、なんて意見もあったがいまいちピンと来ない。
「ひとつ、ってのがアレなんだよな。もっと寄こせよ。どうせなら天使の軍勢とかさ」
某有名RPGのオープニングを思い出すな。
魔王倒して世界を救えって王様に言われたのに、ひのきの棒と支度金百ゴールドしかくれないってのも無茶な話だよ。
王様関わってんだから国家規模で潤沢な資金と組織立ったバックアップがあってしかるべきだろ。なんでたった独りで木の棒振り回すところからスタートだよ。
勿論データ容量の問題とかストーリーの都合とかあるだろうけどさ。
それは現実側の都合であって、ゲーム内基準でも現実的に考えて、王国軍とか近衛兵団とか差し置いて年端の行かない少年一人に世界の命運とか攫われたお姫様のことを、
「任せるからあとヨロシク。ほな」
どう考えてもおかしくね?
この話もそれと同じだ。
そう言って俺は抗議してみた。
「理屈としてはそうなんだけど、僕ほどじゃないけど、天使とかもやっぱり上位存在だからね。あまり大量に顕現させると世界に天変地異が起きちゃう。けどスキルだったらきみの中に納まるものだからね。他の創造神との兼ね合いもあるから、やっぱりチートスキル一つさ」
マジか。
本当に容量の問題だったのか。
「その代わり、なんでもいいから」
「……ん? 今なんでもって」
なんか今、引っかかるものが。
「言ってな――いや、言ったね。なんでも一つ。好きなスキルをあげようって、最初から言ってるよね」
「それだーーーっ!」
俺は叫んだ。
神様のもやがビクッとする。
なんで気が付かなかったんだ。馬鹿か俺は。
「確認なんだが、スキルって後で取得することもできるのか俺!?」
「そ、それは勿論。キミが転生した人間であってもちゃんと正規の手段で努力すればスキルは取得できるよ。レアとかユニークは向き不向きがあるからなんとも言えないけど……」
「それだ。それだよ! 後からいくらでも不正規に取得すればいいんだ、スキルを! チートスキルなんだから! なんなら創る!」
「え、え?」
「そうだな、百個……いや個数は逆に……制限が……チートだし……言うだけなら……」
ぶつぶつと呟く俺を、小首傾げて見ている神様。
やがて考えがまとまった俺は、神様に向かってこう言った。
「スキルを――『どんなスキルでも生み出すことのできるスキル』ってのはどうだ」
さて。
一つの願いで無限の願い、ありかなしか。
少しの間呆然とした雰囲気だった神様は、ピコーンと効果音の付きそうな勢いで光った。
「それだ」
おっとまさかのありだとは。
こうして俺は、チートスキルを生むチートスキル【創造・力】を手に入れた。
チート(cheat) :英語の原義は『不正、ズル、誤魔化す、詐欺行為』。コンピューターゲームにおける不正改造のこと。転じて正規に実装されたものでもゲームバランスを崩壊させる程強力な能力や裏技のことを『ズル』の意味で指す場合もある。その最初期の例として『コ〇ミコマンド』が有名であり、広義の意味では『強くてニューゲーム』や『ベリーイージーモードでは自動防御』なども一種のチートと言える。




