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チートスキルを生むチート!!  作者: 入江九夜鳥
北のバグ
15/31

2-7 路地裏でお金を巻き上げるたった一つの冴えた方法


  †



 雑談を装って周りの冒険者たちに、さっきの宴会は何だったのかとクロエは聞いて回ってみた。


 話の展開が良くわからないが、あの二人組は一般人らしい。

 それを知らずイチャモンつけて来た冒険者たちを脅し透かし、どうしてそうなったのかよくわからないが、自分たちに戦闘訓練を施させたのだという。


「文字通りメキメキと腕を上げていきやがらぁ。あいつらが冒険者だったら、一級まで登り詰めるのにどれだけかかるかってな」


「あーん? ばぁか、そりゃ一年以内で間違いねぇだろう!」


 酒臭い息でゲラゲラ笑う冒険者たち。

 怪訝な顔をして見せるクロエ。


 冒険者というのは、まず六級の壁があると言われる。


 依頼の内容はその難易度で冒険者のランクに対して振り分けられる。

 十級で街中の雑用。

 九級や八級で街の近隣での薬草採取。滅多に魔物には出くわさない。

 八級上位から七級にかけて、低位魔物の素材採取。


 そして六級で、森や迷宮といった日帰り出来ない場所に生息する魔物の素材採取。

 

ただ魔物と戦うだけではない。

遺跡や迷宮に仕掛けられた罠を掻い潜るための知識や技術、深い森の中で何日も過ごす時の生存技術(サバイバルスキル)、そういった総合力が必要になってくるランクだ。


それらを身に着けるのは、戦闘とはまた別の才能が要る。

もしくは、運。技術を身に着ける前に、命を落としてしまう者も多い。

 七級冒険者の死亡率が一番高いと言われるのは、この辺りが理由なのだ。



そして次は四級の壁。

 

多くの冒険者たちはその壁を超えることができない。

逆に言えば、五級が冒険者たちのボリュームゾーンだ。六級以下で足踏みしている奴らは、大抵上を目指して無理して死ぬか、少し賢ければ才能が無いのだと諦めて転職する。


ここまで来れた者たちは少なからず自分たちの才能の限界を感じている。

故に無理をしない。

よって、絶対数が多くなる。

だから五級冒険者の数は相対的に多くなる。


四級を超えて三級に至れば、それは一流と言って差し支えない。

二級ともなれば超一流の冒険者だ。


一度だけクロエも見たことがあるが、遠目にもその内包された生命力というか、オーラの様なものに目を見張った覚えがある。

きっと三級を超えるには、生き物としての根本的な何かが違わなければいけないのではないか、と思った程だ。


ノーストの街には三級冒険者のパーティが二つ、合計で八名が所属している。

だが二級冒険者は一人もいないのである。


一級冒険者など、伝説に語られるような存在だ。

たった一人で万の軍勢を押し返した。

数人だけのパーティで巨竜を屠った。

そんな歴史的な偉業を達成し得て初めて至ることのできる地位。


妬んだり羨んだりすらできない。

それは二級三級冒険者に対して抱く感情だ。


冒険者としての現実を知っているからこそ、冒険者は一級冒険者に対して子どもの無知の憧れよりも遥かに強く憧れる。

それは憧憬や敬意という感情すら超えて、ある意味で崇拝や神格化さえされる存在である。もはや自分がそうなれるとも、なりたいとすら思えない。


例えるなら、古代龍(エンシエントドラゴン)のようなものだ。

純人族が龍の力に憧れることはあっても龍そのものにはなれないように、凡才では一級冒険者には絶対になることはできない。

それと同じだ。


そんな常識、新人(ルーキー)でもなきゃ当然身に染みているハズだ。

だというのに五級冒険者の彼らが、例え酔っての冗談とは言え、届くだろうと言い切るとは。


……話半分に聞いておこうとクロエは決めた。


とにかくその訓練の打ち上げだか礼だかで、あの男の方が酒と飯を奢ると言い出したのがあの宴の真相の様だ。


冒険者たちは、とにかく良く食べる。

文字通り身体が身上だし、食わなきゃ力が出ない。そもそも明日をも知れぬ身ともなれば、儚い生を全力で楽しむ様によく食べてよく飲みよく騒ぐ。


あの人数分の飲み代を気前良く支払ったというなら、さぞかし懐も温かい事だろう。なにせ二百万首を狩ったばかりなのだから。


アキラとか言う男と、それに付き従うアニエスという犬人種の少女。

メキメキと腕を上げる才能の持ち主。

このギルドに今朝やって来たばかりの新人(ニュービー)かと思えば、冒険者にはならずに一般人のまま。


だというのに、周りの冒険者たちに戦闘訓練を願ったという。


 その上、彼らに認めさせるほどの実力――というか、才能を見せたという。

 酒が入って上機嫌とはいえ、一級冒険者に届きうる、と言わせる程の才能を。

 言葉通りであれば、まさにその才能を開花させる瞬間を。


「何者なんだい、一体……?」


自身の借金のことは別にして、クロエは、アキラとアニエスに対して興味を覚え始めていた。





 †




 そろそろ太陽も傾いて来たかという時刻になって、アキラとアニエスの二人は冒険者ギルドの外に出てきた。


「ようやくかい」


 それを待ち構えていたクロエは、雑踏に紛れながらも二人の後を追けていく。

 二人は通りのあちこちに寄って、露天の品物を見定めたり、雑貨屋に入って何故か人が入れそうな木箱を見たり、焼き立ての串肉を買い食いしたりしている。


 それを見ながら、クロエはなんだか惨めになってきた。


 自分は昨日から、一体何をやっているのか。


 金策に走り回る積もりが余計な借金こさえて、挙句に見ず知らずの男女を付け回している。そして二人がイチャイチャしているのを見せ付けられているのだ。

 

そう言えばなんだかんだで朝も昼も食べていないのを思い出す。

二人がモノ食ってるのを見て腹が減ってきた。

 冒険者として鍛え上げた腹筋を駆使し、腹の虫の鳴き声を抑えつける。


「……動いた」


 くそぅ、あたしも焼き串買いたかったのに。


 そんな小さな悪態をついて、クロエは二人の後を追う。

 雑踏の向こう、二人は大通りを外れた。


 人気の少ない方へと向かい、そして角を曲がって小道へと入る。


 見失うまいと小走りで小道へと入って、クロエはしめたと思った。

 小道の入口の所、角を曲がってすぐの位置に木箱があったが、それだけ。

 そこは行き止まりだった。

 三方を背の高い建物に囲まれて、どこにも行くことはできない。


 そしてどん詰まりの前にいた二人はこちらを向いて、クロエの事を見ている。


「あ、ああ。もしかしてアンタら、あたしのことに気付いていたのかい? 流石だね」


 彼らは答えない。


「後を追けたりして悪かったよ。アンタらにさ、ちょっとばかしお願いというか、話があってさァ」


 彼らは答えない。


 クロエは、鉄棍を握る手に力を込めた。

 今からやる自らの行為に、恥を覚える。だが、もうこうするしか金を稼ぐ手段は思いつかないのだ。


「その、なんだ。あんたら、大金持ってるんだろ……あたし、物入りってヤツでさ。事情があるんだ。アンタらの持ってる二百万を」


 クロエは両手で鉄棍を握り締め。

 二人はその身体を強張らせ腰の剣に手を伸ばし。









 クロエは鉄棍を地面に投げ出した。

 そして流れるような仕草で両膝両手を地につけて、頭を伏せた。

 









土下座である。






「は、恥を忍んで頼む! どうか、この通りだ!! どうしても金が必要なんだ、頼む、その二百万を貸してくれないか!!」





 沈黙が、周囲に満ちる。

 二人は何も言わない。


 しばしの時間が経って、クロエは恐る恐る顔を上げた。

 二人は口を押えて、必死に笑いを堪えている。


 男の方とクロエの目が合った。

 彼は笑いに震える手でクロエの後ろを指さした。


「え、な、なに? なに……?」


 クロエが降り返った先には、






「………………ぷ、く、ふふっ」


 抜身の剣を片手に笑いを噛み殺している犬人種の少女アニエスと、


「…………………………」


 同じく抜身の剣を手に、苦虫を噛み潰している様な、呆れた様な顔のアキラが立っていた。


「えっ!? あれ、前、えぇ!? だってそこに……!?」


 慌てて前を向いたクロエは見た。


 そこにいるアキラとアニエス。

 クロエが追いかけて、どん詰まりに追い詰めた二人の姿が、ニヤニヤ笑いながら、すうっと、音も立てずに姿を消していくのを。


「え!? なに、何なの!? 消えて……うしろ!? どういうことぉ!?」


 クロエの追いかけていたハズの二人の姿は煙の様に掻き消えて。

 路地裏に、クロエの疑問を叫ぶ声と、本物のアニエスとアキラだけが取り残された。





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