第一幕 王宮の前庭
遅くなりました。・・・すみません。
『おはようございます・・・・。』
のりで貼り付けられたかのように全く開かない瞼をめっちゃ頑張って開けてみると、オデットがいた。人形のように麗しいご尊顔をこちらに向けて微笑んでいる。・・・・いや、アルカイックスマイルとでもいうのか、いつも微笑んでいるように見えるんだけど。
・・・・・今更だが、オデットの容姿について詳しく説明したいと思う。
まず、一番気になるところ。そこは眼だ。ずっと開かない。それでもちゃんと色々見えているらしい。瞼には紫色と銀色のアイシャドウが塗られている。あとはめっちゃ身体細い。私よりもかなり身長高いけど、絶対に私より体重軽い。そんな彼は、白い超・クールなオサレシャツの上から黒い軍服チックなコートをキッチリと着こんでいる。ズボンはコートとお揃いで黒い軍服チックなズボン。着物姿も時々見るが、普段はこの恰好で行動している。そして、一番存在感があるのは長い髪。生え際からある一定のところまでは黒髪なのだが、下にいくにつれて銀色っぽい感じの色になりながら透けてゆき最終的にはここの世界での地面・・・水につかっていて、水と同化している。水がない場所では、髪が途中から空気に溶けているように見える。
あ、この世界は勿論現実世界じゃないよ。この世界は辺り一面霧に包まれてて、私の裸足の足は少しばかりか水に浸っている。なんというか・・・底の見えない水の上に立っているって感じかな。そして、その水の上にはときどき睡蓮の花が浮いている。この時点でわかった人は・・・いないか。うん。私は、
『ようこそ・・・。私の神域へ・・・・。』
オデットの神域にいる。毎晩レベルで来ているが、相変わらずここの雰囲気には慣れない。美しくて、どこか冷たくて、不気味で陰鬱なここの感じ。
「つーかさ、私ってさ、寝てないよね?大丈夫かな?」
毎晩毎晩ここで、結構長い間過ごしてるけど大丈夫かな!?私、寝たと思ったらすぐにここで起こされるけど!!
『大丈夫ですよ・・・。ここは、夢と現の境目につくられた場所・・・・。安息の地です・・・。』
はぁ・・・?
『ここに何時間いようとも与えられるのは癒しだけです・・・・。』
そっすか。
『それに、案外ここにいる時間は短いのですよ・・・・。』
わかんないけど、そんなもんなんだよね。きっと。たぶん。
『さて、今晩はどんなお話が聞きたいのですか・・・・?』
「ルレザン家の物語とか聞きたいかも。」
この前、ちらっと見かけたんだよね。
あ、私は『花園』で一応全ルート攻略してるから、勿論フィアのご先祖様の話も知ってるよ。
・・・・なのになぜ、オデットにルレザン家の物語を聞くのかって?そら決まってるよ!オデットは生で全部見てるんだぜ!?絶対にゲーム中の話よりも深い話が聞けるって!!絶対聞くわ!!
『では、今日は物語を語る日といたしましょうか・・・・。』
あ、物語っていうのは・・・うん、まぁ、むかし神様とか、人間ちっくなものとかとにかく色々なものが一緒に暮らしていた時代・・・・この世界ではその時代を神代と呼んでるんだけど、その神代のころに色々あってその一族が誕生しました、ていうなにか伝説的なもの。半信半疑な人もいる。でも、それは全部本当のことらしい。オデットが言ってるから間違いない。その伝説的なものを物語って言ってる人は、オデットぐらいしか見たことないけど。
『では、葡萄の一族のお話を・・・・。』
* * * *
『これで葡萄の一族のお話は終わりです・・・・。』
うん・・・・。『花園』通りだったよ・・・・。ネクロフィリ・・・・なんでもない・・・。
「結構疑問なんだけどさ、なんで葡萄の神は神々の言い争いから抜け出せたの?」
普通他の神が気づくでしょ。神さまなんだから。
『さて、なぜでしょうか・・・・?』
「オデットもその喧嘩に参加してたの?」
『ええ・・・。どんな神であろうと強制的に巻き込まれていました・・・。』
逆に凄いな。
『神は、皆が欲しがっているから、という理由でなにかを欲しがることが多いのですよ・・・・。』
ははっ・・・・。人間と変わんないな・・・。
『さて、次はなんの物語が聞きたいのでしょうか・・・・・?』
「うーん・・・。あ、ユリ家の物話とか聞きたいかも。」
あそこは・・・・公表してたっけ・・・・?なんか、聞いたことないような・・・?王族だから、公表されてるとしたら有名なはずだけど・・・・。じゃあ、公表されてないのかな。うん、きっとそうだ。
『それでは、百合の一族のお話を・・・・。』
* * * *
『これで百合の一族のお話は終わりです・・・・・。』
・・・・暗ッ!!なにその話!!?あ、ユリ家の物語を簡単に説明すると、
あるところに、それはそれは美しい双子がいた。その双子は百合の花が大層好きで、それぞれ白百合の君、黒百合の君と呼ばれていた。その双子はお互いのことをとても愛していた。だが、黒百合の君はそれだけの感情ではなかった。愛すると同時に、白百合の君に劣等感を感じ、憎んでもいた。ある日、白百合の君がとある精霊と結婚することになった。ただし、そこに白百合の君の意思などなく、その精霊が一方的に決めたものであった。しかも、その精霊は白百合の君を喰らおうとしていたのだ。ただ、そんなことを黒百合の君が知るはずもなく、ただ白百合の君が精霊と結婚をすると聞いた黒百合の君は怒りと憎しみに震え、誰かのものになるくらいならば、と、白百合の君を殺すことに決めた。翌日、黒百合の君は白百合の君の首元に剣を突きつけた。だが、白百合の君はわかっていたかのように微笑み、黒百合の君の首元にそっと白百合の花を差し出した。余裕に見える白百合の君の行動に怒りが沸点に達した黒百合の君は白百合の君の首にそのまま剣を横に滑らせ、切り殺した。白百合の君は勿論地に伏したが、それと同時に黒百合の君も地に伏した。双子ゆえ、命を共有していたのだ。その後、二人に同情した神が二人の魂と体を一つのものにして新たに人間としての生を与えた。それが初代・ユリ家当主らしい。
「つーかさ、また精霊碌なことしてないじゃん。」
『彼らはそういう一族なのです・・・・・。』
「精霊はもうこの世界にいないんだっけ?」
『ええ・・・。四大精霊を除けば、全て殺されております・・・。我らの手によって・・・・。』
「オデットとか、虫も殺さないような顔してんのにね。なんか殺すこととかあるんだ。」
『私は全てのものを愛し、全てのものを赦すと決めております・・・・。ですが、あれは支配者を名乗り、人間に害をあたえる存在でした・・・・。人間に害を与える存在に慈悲など必要ありません・・・。あれらは全て闇・・・・。我らが光なのです・・・。闇は光によってこの世から祓われたのです・・・。』
「つーか、四大精霊は封印されてるとかっていうけど、どこに封印されてるの?」
『それは・・・・秘密です・・・。貴女が知る必要もありません・・・・。』
「ええー!!ヒント!!」
『遊戯ではないのですよ・・・・。まぁ、いいでしょう・・・。知ろうとも、貴女が手に入れられる可能性はないのですから・・・・。四大精霊は装身具に封印されています・・・。それぞれ、耳飾り、首飾り、腕飾り、指飾りとなっているのです・・・・。』
「へー・・・・。」
『精霊』という存在はこの世界では闇とされている。その中でも四大精霊は全ての闇の源だと。悪魔とも違う闇の存在。『精霊』は悪魔とは違って存在すら許されなかった。この世界ではそんな彼らを・・・いや、四大精霊を”旧支配者 ”と呼んでいる。
『さて、次はどこの一族の話をいたしましょうか・・・・?』
うーん・・・・。あ、
「スノウさ・・・・・スノウダンス・ジェンシャンの物語が聞きたい!!」
スノウさまのこと、もっと知りたいなぁ・・・ぐぎょははははっは・・・・。
『なぜ・・・・その名を・・・・?』
やっべ。私、スノウさまに自己紹介してもらった覚えない・・・。あ、前世やってた乙女ゲームで知りました。・・・・とか、普通言えないわ!!!無理無理無理!!いくら仲良くてもこれは無理!それに・・・・オデットはこの世界が乙女ゲームの世界だと知ってるのか・・・・?
「え、えっと・・・・前、読んでた本に出てきて・・・・。」
ナイス!!私!!スノウさまの名前は本とかにちょこちょこ出てきたはずだ!!
『ですが・・・・なぜ、忌み名を・・・・?』
「忌み名?」
『あれは・・・・・今はすのうと確か名乗っていたはずですが・・・?』
ああー!!!そうだったァああああ!!!!!スノウさまは乙女ゲーム中でもシンイちゃんとシラユリちゃんにしか本名を明かしてないィイイイイ!!!!だから、本にもスノウとかしか出てない!!!!つまり、私が知るはずなかったあああああ!!!
「そ、それは!まえ、スノウダンスさんと仲がいい人に教えてもらって!!!!」
『そう、ですか・・・・。』
「は、早くはなして!!オデットのお話聞くのタノシミダナー!!!!」
『・・・それでは、竜胆の昔話をいたしましょうか・・・・。』
* * * *
『これで、竜胆のお話はおしまいです・・・・。』
・・・・はは。
スノウさまの昔話を簡単にまとめると・・・・
スノウさまは昔、天使長だった。スノウさまは神でありながら、悪魔でもあった。そのために、神からも悪魔からも邪険にされ、天使という立場に身を置き、神でありながら神に使えなくてはいけなかった。そして、スノウさまは黒鳥と呼ばれている神に主に使えていたらしい。で、その神はとんでもない外道のクズ野郎で、スノウさまを酷使しまくった。しかも、仕事関係ではなくそいつの道楽のためにらしい。その道楽というのも人殺しやらなんやら・・・・。なんちゅう外道。んで、ついにスノウさまがキレて堕天した、と。
「スノウさま可哀想・・・・。」
おいたわしやー!
『私は・・・・・竜胆のこともあまり好きませんが・・・・。ですが、さきほどの神の方がさらに好きません・・・・。』
「つーか、神さまにもクズっているんだね。」
『ええ・・・。よいですか・・・?黒鳥に近づいてはいけません・・・・。玩具のように扱われ、終いには捨てられます・・・。外道の中の外道・・・。それに、あれは神ながら穢れを纏っています・・・。』
ヒャー!珍しくオデットが嫌悪をむき出しに!!全てのものを愛するって誓ったんじゃないんですかー!!?
『なにか・・・?』
視線がブリザード!!!心の声、聞こえてるの忘れてた・・・・!!!
「ははははははッ・・・!!!どんなオデットでも私は愛してるぜ・・・・!!」
『・・・・・・上辺だけの言葉など嬉しくありません・・・・。』
おや?おや?いつも真っ白っていうか、青白いオデットの頬に赤みがさしてるように見えますぞ?あらら?私の幻覚ですかな?
『からかわないでください・・・・。』
きゃーわいいー!!
『・・・・・・・・。』
あ、ムスッとしちゃった。
「ごめんごめん。怒らないで。オデットを好きなのは本当だよ?」
『・・・・明日も、授業があるのですよね・・・?』
ぶったぎられた!
「まぁ、そりゃああるけど・・。」
現実見せるのはやめてくださいよ、オデットさん・・・。
『学園に行くのは嫌ですか・・・?』
「そりゃあ、ね・・・。」
でも、この世界では、いや、ユリでは絶対に子供は花園学園に行かなきゃいけないし・・・・。
『それでは、もし、学園に行かなくてもいいといわれたら・・・?』
「そら嬉しいけど・・・・。」
まぁ、友達もいないし・・・・。
『でしたら、自由で縛られない世界・・・この世界で暮らしてみたいとは思いませんか・・・・?』
「勉強も仕事もしなくていい世界?」
『ええ・・・。』
「そら暮らしてみたいよ。」
まぁ、最終的には元の世界に戻って暮らしたいけど・・・・。というか、最近、元の世界に戻してあげるってことば忘れてません?オデット先輩。戻してくれるんだよね?
『それでは、こちらの世界で暮らせるよう、準備を整えておきますね・・・・。』
「え?さっきのマジだったの?」
『ええ・・・。』
「マジか。」
暮らすんだったら・・・一年くらいがいいなぁ。
『こちらで暮らすのは、嫌ですか・・・?』
「いや、結構楽しみだよ。旅行に行くみたいで。」
なにもしないなんて、バカンスみたいだよね。
『とにかく、こちらで暮らすことは構わないのですね・・・?』
「うん。」
『約束、ですよ・・・・。』
「へいへい。おーけー牧場。」
『約束です・・・・。』
「はいはい、約束。」
好きだな!約束!!
『その言葉を・・・・忘れてはいけませんよ・・・・。』
忘れないよ。たぶん・・・。
『それでは・・・そろそろ、おやすみなさい・・・。』
「えー!」
『明日も早いのですから・・・・・。』
それもそうか。
「んじゃあ・・・。おやすみ。」
『おやすみなさい。』