7人の役者
あの後、俺はアンヘルの言った通り街の郊外の主屋で目覚めた。ご丁寧にもベッドで寝かされていたようで、主屋の中は簡素な木目調のテーブルと椅子と俺が寝かされていたベッドのみ、俺が一人で暮らすには申し分ない。
「ご丁寧にどうも」
俺は何処に行ってしまったかは定かではないアンヘルに伝わるはずもないお礼を告げると、直ぐさま説明書をペラペラととめくってみた。
説明書の最初、「まずはじめに…」という書き出しの後を読み進める。
【ようこそ、幻の異世界ベルハイムへ!これを読んでいる貴方は新しい人生の第一歩を踏み出しました】
【この世界は未だかつて貴方が見たことも聞いたこともない不思議がたくさんあることでしょう。もちろん新しい出会いもあれば、等しく別れもあることでしょう。それは時に辛い体験になることやもしれません…】
【ただ安心して下さい!すぐ慣れます!それに大方の人はそんな人並みの感情すら持ち合わせていないと思います!そうなんです、そんなありふれた人間のような事象はむしろどうでも良いのです!】
【デスゲーム!貴方達に必要な知識と経験はそこにだけ向けられていれば何ら問題はありません!デスゲームこそ正義、デスゲームこそ人生。貴方は今からそんなデスゲームの参加者の一人として、一人でも多く殺さなければなりません!】
【敗北は許されない。敗北は死を意味する。もともと死んだ筈の貴方がこのベルハイムに転生されたとして、この世界の後にもまた違う世界が待っていたとして…詳しくは言えませんが、その世界は貴方に永劫の苦痛を与えることでしょう。その世界に行って、まず逃れる術はありません】
【だからこそ、その世界から逃れる術があるとすればまず第一にこの世界に留まり続けること、そしてデスゲーム最後の生き残りとなって元の世界へと帰還する権利を勝ち取ること、その二つだけです。悔いのない第二の人生を、私アンヘルは強く願います…】
と、恐ろしい文章を覗いた。
どうやら俺はこの世界の文字を予め読めるという設定らしい。
つまり読めるということは書くこともできる。不安だった異世界コミュニケーション『言葉の壁』は何ら問題なくクリアしたという事実。
まぁ、そのせいで読みたくもなかった説明書を読んでしまったわけだが…うん、しばらくは見なかったことにしよう。
その後も着々と読み進め、一通り読み終えた後、俺はとりあえずある行為の実行を試みることにした。
ある行為について、まずは頭の中でイメージする。
俺はどういった存在で、どういった役割を得てこのデスゲームに参加しているのか、そんなイメージをである。
そうすれば自ずと頭の中にそれは浮かび上がってくる。
それとは言うならば、ゲームで言うところのステータス画面。
俺は頭の中に、ステータス画面を展開させた。
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class :#joker__ジョーカー__#
【名前を再設定して下さい】
LV : 1
HP : 5/5
MP : 0
#ATK__攻撃__# : 5
#DEF__防御__# : 1
#MAT__魔法攻撃__# : 0
#MAE__魔法防御__# : 0
【固有スキル】
・スキルドレイン LV :xxx (一対象につき一回のみ使用可能)
・スキルブレイク LV :xxx (一対象につき一回のみ使用可能)
※一対象に対してスキルドレインとスキルブレイクの併用は不可とする
・なし
【メソッド】
・ LV :2まで残り経験値56
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何故そんなことをできるのか、なんてことは正直言って分からない。
ただどうしてか頭のイメージ次第ではステータス画面をいつでも自由に展開できることを自ずと理解しているし、またステータス画面に記されている内容をしっかりと理解していた。
ステータス画面を見て、どうやら俺には名前(ゲームでいうところのニックネーム的なやつ)が未設定であるらしい。
そういえばだが、アンヘルは生前の俺の名前を消去したと言っていた。つまり今現在俺には名前というものがなく、名前を再設定する必要があるとのこと。
「これに関しては後々でもいいだろう」
そんなことよりも気掛かりなのは【クラス :joker__ジョーカー__】という欄。
これは此度のデスゲームに於ける俺の#役割__クラス選定__#というやつらしい。
つまりはゲームでいう職業__ジョブ__のようなものだ。
あの時、アンヘルが俺の手を握ってダウンロードしていると言っていたのはこれのことだろう。
どうやら俺は【クラス :joker__ジョーカー__#】というに#役者__プレイヤー__#に選ばれた、ということである。
他には【クラス:knight__騎士__】、【クラス:The Guardian__守護者__】【クラス:witch__魔法師__】、【クラスbishop__聖職者__】、【クラス:queen__クイーン__】、【クラス:king__キング__】、【クラス:ace__エース__】の七つのクラス選定があって、要するに俺を含めた計8名が今回のデスゲームにそれぞれのクラス選定を得て、プレイヤーとして参加している、とのことだ。
ただ説明書はそこで止まっており、肝心のプレイヤーたちについてだったり、俺以外のクラス選定についての情報がどこにも記載されてないようだった。
ほんとに適当なのね。
以上が、現状俺が知り得るデスゲームについての全て。
成る程、大体状況は掴めてきた。
ここで問題があるとすれば、俺は何から始めればいいという、ただその一点のみである。