プロローグ 無念の死を超えて
明確な死因についてはよく分からない。
ただある日、強烈な胸の痛みの後に死んだということだけははっきり覚えていた。
むしろその時感じた痛みというのは忘れたくも忘れられない程に滅茶苦茶痛かった。もしかしたらあれが心臓発作?っていうものなのだろうか…
「もう二度とあんな思いは御免だ」
幸いにも、俺はどうやら死んだらしい。であればだ、これから先死の痛みを感じることは最早ないだろう。
「ま、これから先なんてあるわけないか…死んだんだし」
目覚めると、俺は一面真っ暗な空間にいた。
奥行き、なんてものはない程に無限には真っ暗闇が広がっているような、そんな場所。
ここがどこだかは分からんが、死んだ俺がいるということはつまり死後の世界と考えのが概ね妥当だろう。
死後の世界といえば天使やら神様がいるお花畑を想像していただけに、えらくがっかりしている自分がいた。
「まぁ、死後の世界だし、こんなもんだよな…」
思えば生前の俺は本当に冴えない奴だった。
中学生の頃に過激な苛めにあって、何とか中学校を卒業して高校生になったはいいもののまたまた苛めにあって不登校になって退学して…
何度思い返しても、不幸続きの17年間だったように思える。
しかもだ、まさか17歳の誕生日に死ぬ俺って一体何だ?更に言えば散らかった汚い自室でパソコン眺めながら死ぬとかまじ笑えねぇ。俺の人生神の悪戯としか思えねぇ…
神様まで俺の事を苛めるのかよ…
結局、不幸な奴は何やったって不幸で、それを俺は身を持って証明したわけで…てか証明したところで何にもならないな、うん。
まぁ、あれだ、どうせ生きてたってどうしようもない人生だったし、むしろ今死ねて良かったぐらいのポジティブな気持ちを持とう。
そういえば、家族は俺の死をどういう風に思ってるのだろうか?
死んだ後のことは分からないからな…ておい、俺が死んだ事もしかして気付いてないとか?
腐乱してからとかマジ勘弁だからな?元の自分の体が腐って発見されるとか俺の人生全てが否定されてるとしか思えねぇよ…
あーあ、それにしても親にもたくさん迷惑かけたな。
母さんとは最後の最後まで喧嘩ばかりだった。母さんが母さんなりに俺の事を心配してくれていたのは痛い程伝わってたよ。でも、何か素直に母さんの言葉とか優しさを受け入れる自分が嫌過ぎて…
まさかな、母さんに向けた最後の言葉がよりにもよって「死ね!」かよ…
父さんとはもう何年も口さえ聞いてない。父さんが俺の事避けてたことは何となく分かっていた。どうせ世間体ばかりを気にする父さんのことだ、引きこもりでる俺という息子の存在が恥ずかしくて仕方がなかったのだろう。
最後に顔を見たのは一年ぐらい前、夜中にトイレでバッタリと会ったのが最後だったかな?同じ屋根の下にいてそんなんが最後の別れとか…昔はあんなに大好きだったのにな…
妹は…まぁ、あいつの事を考えるのはよそう。
どうせあいつは俺が死んだ事をどうとも思ってないんだろうからな。
中学校に入学した途端に反抗期になりやがって、昔は「お兄ちゃん、お兄ちゃん」て後ろついてきてウザいぐらいとしか思ってなかったけど、うん、今にして思えば可愛いもんじゃねーか…
はぁ、考えれば考えるほどに辛い。
もしも、もしもだ…家族全員が俺の死を喜んでたとして…それって、超悲しいな…
やべ、泣けてきた…
涙で目が霞む…涙で視界が狭くなる…
……ん?いや違う。
涙とか関係なしに、実際に視界が狭まっていってるのかこれは?
しかも超眠い。眠気とかそういうレベルじゃなくて、気絶してしまうじゃないかと思える程に眠い…
要するに、死後の世界ももうそろそろ終わりってこと?
はぁ…死後の世界も案外終わりが早いのな。死後の世界の次は異世界転生とか?
ははは、馬鹿らしい。アニメじゃあるまいて…
「はぁ…もう、いいかな。異世界転生しようが魂が消えてなくなろうが、んなこと別にどうだっていいや。今はただ、寝みぃ…糞眠い…」
このまま俺は、どうなっていくのか?
分からない。分からないけど…考えても仕方がないから、俺は寝ることにした。
後のことは後になって、その時に考えればいい。
ま、どうせロクな事はないだろうがな、それだけは分かる。
何たって俺はどうしようもなく不幸なんだかよ…