写真判定(ショートショート19)
世界陸上女子マラソン。
レースが始まって二時間二十分、並走する二名の選手が陸上競技場内にもどってきた。
日本人選手のタカハシとノグチだ。
後方に他の選手の姿は見えない。ロケットスタートで飛び出した二人は、まったく他の追随を許さなかったのである。
「すごいことになりました。日本の選手が、金と銀のメダルを独占することになったのです」
解説者のマスダが興奮して叫ぶ。
この三年間。
この日のために。
このレースのために。
雨の日も、風の日も、そして炎天下も。
タカハシとノグチの両選手は歯をくいしばり、辛く苦しいトレーニングに耐えてきたのだ。
二名はトラックに入ると、タイミングを見はからったようにラストスパートをかけた。
スピードが一気に上がる。
いよいよトラック勝負、ラスト百メートルの戦いとなった。
両選手とも先頭をゆずらない。
ゴールまで五十メートル。
ラストのスパートだ。
二人の顔がゆがむ。
あと十メートル。
まだ横並びだ。
三メートル。
ゴール!
両選手の胸が白いテープを切り、二人が同時にゴールラインをかけ抜けた。
タカハシか!
ノグチか!
はたしてどちらが勝ったのか?
すぐさま。
審判員たちが集まって協議を始めた。
「勝負のゆくえは写真判定になるようです」
マスダが視聴者に伝える。
タカハシとノグチはどちらからともなく歩み寄り、互いの健闘をたたえ合うかのように抱き合った。
この二人の姿に……。
競技場スタンドに歓声がどよめき、惜しまない拍手がいつまでも鳴り響く。
「同着であれば、タカハシ選手、ノグチ選手の両者に金メダルということになります」
マスダもうれしそうだ。
テレビの前で応援をしていた者。
スタンドから声援を送っていた者。
だれもがかたずを飲んで判定結果を待った。
十分後。
場内アナウンスがある。
『写真判定の結果、タカハシとノグチの両選手は失格となりました』
競技場のバックスクリーン。
その大画面に、スタートでフライングする二名の足がアップで映し出されていた。




