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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

悪役姫シリーズ

悪役姫の幼馴染みはヒロインです!

作者: 万里

皆様、御無沙汰しております。まさか私も続くとは思っていませんでしたが、人生には死なない限りはゲームオーバーの文字はないのですのよ。かくいう私もリセットボタンがあるのであれば、せめて最初からやり直したいところですわね。そう、生まれる前から。主要キャラではなく、モブでいいです。他人の恋愛事情とか、悪役の星とか本当に興味がない。あぁ、私は何故に悪役姫のクレアなのだろうか。


それは私クレアが中庭のテラスで優雅に紅茶を啜っていた穏やかな昼下がり。やっぱり紅茶は出がらしに限ると枯れた老人のようにしみじみ浸っていました。傍でマリアが白い目で見ていましたが、知ったことではありませんのよ。私は今、猛烈に疲れています。しつこいようですが、もう一度言いましょう。物陰に隠れてはぁはぁしながら鼻血を垂らしている変態に気づきながら華麗にスルーするくらいには疲れているのです。


「クレア!今日こそはお前に勝ってやる」


平和な一時は突然の乱入者によって妨害されたのです。無視しようとしたら、プラチナブロンドの猫毛の美少年は私の前に回り込んで鼻先に指をびしっと突きつけてきた。これこれ、人を指差すのは立派なマナー違反ですぞ。おっと、いけませんわ。心なしか老化が進んでしまっていた。まぁ、前世の年齢を足せば立派なアラフォーなのですが、クレアはまだ十代です。老け顔だし、髪は薄いし、一端の力士のような体格を兼ね備えているが、うら若き乙女には違いないのです。


「あらあら。何の用かしら?ナディル様」


肉に埋もれた瞳をすっと細めて、目の前の美少年の翠の瞳を見つめれば、ナディルは二、三歩後ろにたじろぎました。こういう時、クレアの目は本当に便利ですわね。薄目をして楽をしているだけなのですが、何だか威圧感があるのです。女子としては終わっていますが、悪役姫として威嚇するには最適でしょう。自然体で凶悪な悪人面とか本当に不憫すぎますわ、私。


「クレア、僕と勝負しろ!今日こそはお前に勝つ」


「勝負とは穏やかではありませんわね。大体、貴方と勝負することに何の意味があるのかしら?」


「お前に勝ってローザの心を取り戻す」


そう。それこそが今の私クレアの悩みでもあるのです。私クレアは幼馴染みのナディルの婚約者に一方的に気に入られ、今追いかけられているのである。その内飽きるだろうと思ったのだが、日に日に熱い視線を注がれるようになり、現在に至る。まぁ、物陰で、はぁはぁしている困った従者が既に1人いるのだから、今更一人増えたところでどうってことはない…と思いたかった。困ったことにナディルが毎日のように決闘を挑むようになったのである。うん?どうしてそうなった?

確か事の発端はナディルにあったような気がする。ナディルは気になる子を虐めたいという、幼稚な少年だった。その虐めの現場に通りがかり、たまたま苦言を呈したのが間違いだった。それがきっかけでナディルの婚約者のローザにはお姉さまと慕われ、嫉妬に駈られた彼に勝負を挑まれるようになったのだ。

あれ?ヒロインに慕われてるって悪役からどんどん遠ざかってないか?いや、でも二人の恋の最大の障害はある意味クレアだ。現状ヒロインの好感度は顔だけのナディルより高い。クレアの屍を越えなければ二人は結ばれないラスボス的な立場である。しかし、ちょろいな、ローザ。ちょっと優しくされただけで好感度がMAXまで上がるのだから私は貴方の将来が心配です。

ちょろいと言えば物陰に隠れている変態もか。あいつの場合は肉布団を着て足蹴にするだけで勝手に落ちるのだから、余程代謝が良すぎない限りは難しくはない。まぁ、その代わり女子としては色々なものを失うことになるが、彼に愛さえあれば許容範囲ではなかろうか。私は一欠片の愛もないのでごめん被りたいところだが、謎の力が働いているのか一向に姿が変わらないのである。

言い忘れていたが、ナディルと私は従兄弟で幼馴染みだ。彼の家は公爵で母親は王家から降嫁した姫君になる。彼自身にも王位継承権はあり、それが故にほいほい王宮の中庭に入ってこれるのである。決してセキュリティーが緩い訳ではないし、彼のネジのぶっ飛んだ行動を誰も咎めないのは一重に記憶が戻る前からクレアとナディルは度々こんな風に衝突していたからだ。


「そもそも貴方が素直になって、彼女に優しくすれば済むことではありませんの?責任転嫁も甚だしいですわ」


「な!?そんなことできるわけないだろう」


顔を真っ赤にして狼狽えるナディルにクレアは心の中で突っ込んだ。いや、勝負よりは簡単だし、確実だよ、と。

しかし、ヒロインがクレアに惚れている場合はナディルに嫌がらせをすれば良いのだろうか?パーティーにローザを伴って現れ、ナディルの服を破ったり、靴に画鋲を仕込むとか?地味に泣くヒロインなナディルを想像して、それはそれで面白いとは思うのだが、何かが間違っていないだろうか?


「意気地のないことですわ。だから婚約者に愛想をつかれるのではなくて?」


紅茶に口をつけ、正論を翳してやると、ナディルは目尻に涙を浮かべながらヒロインの如く、走り去っていった。こうして、庭園には平穏が戻ったのである。


「クレア様、今のは言いすぎですわ」


マリアがギラギラした目でナディルの後ろ姿をロックオンしながら同情するように言った。本当にイケメンには甘いやつである。守備範囲が広く、いつでも婚期を狙っている女、それがマリアだ。本当にぶれないね。

まぁ、何にせよ、どんどん悪役から遠ざかっている気がするのはクレアの気のせいだろうか。 前途多難に思いながら、紅茶に口をつけクレアは思った。やはり紅茶は出がらしに限る、と。

ありがとうございました(*´∀`)♪

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― 新着の感想 ―
[良い点] このシリーズ面白いです。 主人公がハピエンになる話が読みたいです。 でもまだ婚約者が出てないですよね。 したたかに生きている彼女が好きです。
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