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第八話 気持ち

 ロカリス邸に着いた僕たちは門番に大会に参加しにきたことを伝え、建物からでてきたメイドさんに建物の中に案内してもらう。

 僕はローブ姿だし、アイナは全身甲冑フルアーマーを装備していたが別に何もいわれなかった。

 服装を咎められた時用に言い訳まで考えてきたのに拍子抜けだ。

 

 だけどついにロカリス邸に潜入だ。

 この日の為にダンスの練習をしてきた。

 だが、本当の目的は『香』の入手だ。

 ダンス大会の優勝ではない。

 アイナとそれをしっかり確認しあう。

 僕はズボンのポケットに無理矢理詰め込まれたホシの実の感触を確かめて歩く。

 


 案内された一階のホールは窓が閉め切られ、朝の日差しは入ってこないようだ。

 しかし蝋燭の明かりで照らされ、幻想的な雰囲気が漂っている。

 独特の匂いがする。蝋燭の匂いだろうか。

 隣でアイナが「綺麗」と呟いた。

 確かに綺麗だ。

 蝋燭の明かりで照らされるアイナの横顔はさっきまでと違って妖艶な色気を醸し出している。

 僕はアイナと手をつなぐ。

 よし、がんばろう。

 アイナの手を握る手に思わず力が入る。アイナも握り返してきた。

 思わずアイナの顔を見る。

 アイナはやる気に満ちた顔で見つめ返してくる。


 周りを見ると結構な人が集まっているようだ。

 ちゃんと男女で参加しているペアの他に、明らかな女装や男装での男同士、女同士での参加者もいるようだ。

 おいおい、ズルするなよと、僕は思う。

 でも、恐らく彼ら、彼女らの格好を見る限りダンス目的ではなく淫魔サキュバスの討伐に来たのだろう。

 もし淫魔が現れるなら彼らや彼女らは貴重な戦力になるはずだ。

 それに、もし淫魔が現れず彼らが優勝したらその時に告発してやればいいのだ。


 僕がそんな事を考えているとアイナが繋いでいる手を引っ張ってきた。

 どうしたのかとアイナの顔を見ると、僕に目を合わせたまま顔を近づけてくる。

 え、キス?

 アイナは僕の唇の横を通り過ぎて耳元に口を近づけてひそひそ声で僕に喋る。

 喋る息がくすぐったい。アイナの甘い体臭がする。抱きしめたい。


 「ねぇ、あの人って明らかに女装してるよね。

 ずるくない? メイドさんに言いつけちゃう?」


 僕はさっきまで考えていた事を教えてあげる。

 そんなことより今すぐアイナを抱きしめたい。


 「あー……。なるほど、そうしたほうが良さそうだね。

 ナキアってば頭いーじゃーん」


 そういってアイナは僕の耳元から離れていってしまう。

 代わりにアイナの手が僕の頭に乗せられ、僕はアイナに頭を撫でられる。

 気持ちいい。違うところも撫でて欲しい。あぁアイナ。

 あぁ違う違う。僕はここに『香』を取りに来たんだ。

 目的を忘れたわけじゃない、ただちょっとアイナが可愛く見えて動揺しただけだ。


 そういえばアレクはどうしたんだろう。

 僕はアレクを探すが見あたらない。

 あれ、来てないの? なんで?

 僕はアイナにアレクが居ないことを伝える。

 アイナは「え? そこにいるよ?」と言って僕にアレクの居場所を教えてくれる。

 どこ? あ、本当だ。居た。

 いつもと違う服、いつもと違う髪型のアレクが隣に巨乳の女を連れて立っている。

 僕は隣のアイナを見て、ちょっと悔しくなる。

 べ、別に羨ましくなんてないし!

 僕がそんな事を考えているとアイナは僕を見てくる。


 「どう? 見つけられた? そこだよ?」


 僕の考えはアイナに気づかれていないようだ。セーフ!



 僕らを案内してくれたメイドとは違うメイドが一段高い所から、集まった全員に向かって喋りだす。

 うるさかった場が静かになる。


 「えー、みなさん本日はロカリス邸にお集まり頂きましてありがとうございます。

 申し訳ございませんがただいま、ロカリス様はご不在でございます。

 代わりまして、私より挨拶とご案内をさせていただきたいと思います。」


 ロカリスが不在……?

 僕の目線の先でアレクが露骨に不満を表現している。

 メイドはうるさくなる場を制して続ける。


 「ロカリス様はすぐに戻ってくる予定でございます。

 しかし、当方共の予想より多数の方々が集まってしまいましたので、

 ロカリス様がお戻りになるまでの間に、予選を行わせていただきたいと思います。

 予選は一組ずつ行いますので、案内係がお呼びいたしますまで

 お部屋にてお待ちくださいませ」


 メイドがそう話し終わるとホールに多数のメイドが現れそれぞれのペア毎に案内されていく。

 僕は、はぐれないようにアイナの手を取る。

 アイナの手はしっとり汗ばんでいる。

 多数のメイドと人々の動きに邪魔されてアレクを見失ってしまった。


 メイドに連れられて二階へと向かう。

 周りには僕たちと同じように二階に行く多数のペアが居る。

 二階に上がると長い廊下が蝋燭で照らされている。

 ここにも太陽の光は入って来ないようだ。

 廊下の両側に無数の扉があり、その扉が部屋のようだ。

 メイドに促されるがまま、各々のペアが部屋へと入っていく。

 僕らも部屋に入る。メイドがついてくる。

 アイナとメイドは何か話しをしているようだ。

 待ち時間でも聞いているのだろうか。

 話が終わったのかメイドはアイナの顔を見ながら部屋を出ていく。

 メイドが扉を閉めたとたん、外から鍵がかけられる音がした。

 僕の頭に罠の文字が浮かぶ。

 僕は扉を開けようとノブを回すがやはり鍵がかけられたようで開かない。

 後ろでアイナの甲冑が地面に落ちる音が鳴る。

 やっぱり罠か!

 焦る僕の背中にアイナがひっついてくる。

 甘い匂いがする。

 近い。どうした。僕は振り返ろうとするが、アイナはそんな僕の体に腕を回して言う。



 「やっと二人きりになれたね」


 僕は振り返ってアイナの顔を見る。

 目の焦点があってない?

 まずい。

 そう思った時にはもう既に遅かった。

 アイナと向かい合った僕の唇にアイナの唇が触れる。

 そのまま僕は扉に押しつけられる。

 アイナに僕の唇を吸われる。

 駄目だ。僕はクレアが好きだ。アイナじゃない。

 アイナを引き剥がそうと抵抗するがアイナの力は強く、押し返せない。

 なんで。アイナだって僕の事をそんな風に思って居ないはずだ。

 あれ、でも確か寝言で好きって言ってなかったか?

 え、本当に好きなの?

 というか、僕もアイナの事好きだったんじゃなかったっけ?

 うん、そうだ。僕はアイナの事が好きだ。

 僕はアイナのキスを受け入れる。


 お互いの唾液が入り交じり舌が触れ合う。

 濃密に離れ合い、離れてはまた求め合う。

 甘い味がする。アイナの息が顔にかかる。

 部屋には僕らのキスの音だけが響く。


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