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第五話 指令

 起きると見慣れない鷲のような鳥が部屋にいた。

 僕は驚いて飛び起きる。

 アイナも起きた。

 アイナは僕の腕の中から抜け出すと、慣れた様子でその鷲から何かを受け取っている。手紙の様だ。

 アイナが手紙を受け取ると鷲は煙の様に消えた。

 アイナは受け取った手紙を開封しながらあくびしている。

 ちょっと可愛い。

 僕はアイナが居なくなって寂しい腕の中を埋めるように布団を抱きしめる。

 いや、大丈夫。寂しいわけじゃない。

 ただ腕の中の温もりが失われただけだ。

 僕はアイナに何の感情ももっていない。

 だいじょうぶだいじょうぶ。

 そんな気持ちを表にださないように気をつけながらアイナに訊く。


 「なんなんですかあの鷲。それとその手紙」


 「あれはクレアの使い魔だよ。で、これはクレアからの手紙」


 おぉクレア! 僕は無実です! 早く、早く僕を迎えに来てください!

 僕のそんな心の叫びを無視してアイナがクレアの声を真似しながら手紙を読んでくれる。


 「あぁ私の可愛いナキア元気にしているだろうか。

 君をアイナに預けてからしばらく経ったが、

 まだ君の治療の手がかりしかつかめていない。


 そして次のステップに進むために

 すまないがアイナとナキアにも少し手伝ってほしい事ができてしまった。

 私は別のアイテムを取りに行かねばならず、

 二人には少し面倒をかける事になるが……。

 これが今回手紙を書いた理由である。


 二人にはロカリス伯爵が持つという特殊な『香』を入手してもらいたいのだ。

 ロカリス伯爵については少々不穏な話を聞く。

 十分に気をつけてくれ。


 あ、あとナキアに惚れても手はだすなよ、アイナ。

 以上でーす」


 なんと、僕たちが金髪馬鹿と遊んでいる間にクレアは治療の手掛かりを掴んだらしい。

 優秀すぎてハンパないです先生。


 ロカリス伯爵か。

 たしかこの町に住む貴族だったはずだ。

 アイナに町を案内して貰ったときに家を見た記憶がある。


 まっすぐ正面からくださいって言いに行って、貰えないだろうか。貰えないだろうな……。

 もし貰えるなら手紙なんて出さずにクレアが自分で貰いに行ってそうだし。

 こんな事なら昨日、金髪馬鹿への要求をロカリス伯爵から『香』を貰ってこいにすれば良かった。

 まぁいまさら悔やんでも仕方ないけれど。


 アイナは手紙を読み終えると、ちょっと調査してくると言い、全身黒色の動きやすそうな装備に着替えて出かけていった。

 動きも含めて、前世の特殊部隊の隊員みたいだ。

 さて、家には僕一人になってしまった。

 どうしよう。


 よし、僕も調査だな。

 そう決めて僕も出かける。

 行き先はとりあえずロカリス伯爵の所だな。

 僕はアイナの家をでて結構な距離を歩いて貴族街へと向かう。


 やっとついたロカリス伯爵の家はでかかった。

 豪邸だ。煉瓦でできた高さ数メートルの塀。

 豪華さと優美さを兼ね備えた門。

 そしてその奥に見える真っ白な建物。

 この建物、貴族街で一番大きいんじゃないだろうか。

 いかにもお金持ちっぽい。

 なんか嫌な感じだ。

 僕がロカリス邸を眺めていると厳つい顔の男がやってくる。門番だろうか。


 「ロカリス様になにかご用でしょうか」


 男は見た目に反して意外にも丁寧だった。

 もっと門前払いされるかと思った。

 あ、もしかしてこのローブと杖のおかげなのか?

 うん、どうみても庶民が持っている物っぽく無いもんね。

 昨日受け取っといてよかった。


 「ちょっと通りすがっただけです。

 ロカリス伯爵に会ったりってできるんですか?」


 「約束がない方と主がお会いすることはありませんね」


 男は僕が客人ではないとわかるとすぐに豪邸の方に戻っていった。

 さっきまでと違って、ザ・門前払いって感じの対応だ。

 さて、どうしよう。

 門番の話からして約束があれば会えそうだが、

 約束をどうやって取り付ければいいのかわからないよ……。

 まぁしょうがない。

 忍び込んで盗むなんてのも僕にはとてもじゃないが無理そうだし、一度アイナの家に帰ろうか。

 僕がそう考えていると、門番の去っていった方から偉そうな声が聞こえてくる。

 門番の男が偉そうな声と言い争っているようだ。

 

 「このアレク・ピレモンがわざわざ会いに来てやっているのだぞ!」


 「申し訳ございませんが主はあなたと会うつもりは無いようでございます」


 「貴様、言っている意味が分かっているのか?」


 「主よりあなたを追い返せとの命を受けております」


 門番と言い争っていたのは金髪馬鹿だった。

 爺やお着きの人は居ないみたいで一人だ。

 あ、金髪馬鹿がこっちくる。


 「おい、貴様。なにを見て――」


 金髪馬鹿は僕の顔を見て固まった。

 僕の顔をみて固まるなんて、失礼な奴め。

 僕は固まってるアレクに「やぁ」と声をかけてやる。

 なのに金髪馬鹿は僕を無視して歩いて去っていく。

 なんだあいつ。

 金髪馬鹿の癖に!


 お? そういえばアレクもロカリス伯爵に用事があるみたいだったな。

 アレクについて行ってみればなにか伯爵と会う方法があるかもしれない。

 僕はアレクの後をついていくことにした。


 アレクの歩きは速かった。めちゃくちゃ速い。

 どうやら僕を撒こうとしているみたいだ。

 でも僕だって負けてない。

 走ってなんとかついていく。

 角を曲がって細い路地を抜け、また角を曲がる。

 曲がった時、アレクはもう居なかった。

 なんてこった! 撒かれてしまった!


 僕はしょうがなくアレクを追いかけるのを諦め、今来た道を引き返す。

 えーっと、確かこの角を曲がって……。

 角の先には見たことのない町並みが広がっている。

 え? あれ? 間違えた?

 戻って、違う角を曲がる。

 ん? ここも違うようだ。

 もう一度角を曲がり直す。


 ここどこだよ!


 僕は見たこともない場所で迷子になってしまったようだった。


 通行人に訊けばいいかと思っていたのだが人が全然居ない。

 適当に歩いていけば誰かに会うかもしれないし、知ってる道にでるかもしれない。

 僕はそう考えて歩き出す。

 だけどどうやらその考えは間違いだったようで、一向に知っている道にはでれないし、また誰一人としてすれ違ったりしない。

 僕は少し不安になりながらもひたすらに歩き進む。

 しばらく歩くと周りの建物と明らかに違う雰囲気を放つ建物の前にでた。

 壁も扉も高そうな装飾が施されている。

 ロカリス伯爵の建物の数倍は高そうな雰囲気がでている。


 なんだこれ。

 僕は気になってそのお屋敷を見つめる。

 あれ、なんか窓から知ってる人が見えた気がする。

 よく目を凝らしてみてみる。

 金髪馬鹿だ! 見つけた!

 僕は建物の前でアレクがでてくるのを待つことにした。

 あいつこんなところでなにやってるんだろう。

 ここあいつの屋敷なのかな?


 僕がそのお屋敷の前で窓から見えるアレクを観察していると、

 昨日の爺が建物の中からでてきて僕に話しかけてきた。


 「おや、これはこれは。

 こんな所でどうかなさいましたかな?

 道がわからないのなら教えて差し上げましょうかな」


 「あぁアレクを待っているんで、大丈夫です」


 僕はニッコリと笑って答えてやる。

 爺は驚きの表情を浮かべている。

 ククク、僕を撒いたとか話していたんだろう。

 そこに僕が現れて驚いているんだろう。


 「そうでしたか、ならこちらへどうぞ」


 爺はそういって僕を建物の中へと案内する。

 限りなく罠の香りがするけれど、僕はなぜか爺に抵抗できず建物の中へと連れられていく。


 建物の中は外見と同じように豪華絢爛だった。

 高そうな装飾が施された、小さな机と椅子が二脚だけある部屋へと連れ込まれる。


 「しばしお待ちを」


 爺はそう言って部屋を出ていく、扉が閉まる。

 僕は部屋から逃げ出すべきかどうか悩む。

 罠、なんだろうか。

 今ここで僕を殺すメリットはなんだ。

 逆に僕を生かしておく理由はあるのだろうか。

 うーん……わからん。

 ま、なるようになるか。

 でも一応、扉を開けて外の様子を見てみようかな。

 殺すとか聞こえたら逃げよう。

 僕は扉を開け――られなかった。

 鍵がかけられているようだ。

 『罠』の文字が僕の頭に浮かぶ。

 エマージェンシーエマージェンシー。


 でも僕にはどうすることもできない。

 僕はしょうがなく椅子に座って待つ。

 頭の中で一応、抵抗して逃げる時のパターンをシミュレーションしておく。


 そうしてしばらくの時が経ってノックの後、扉が開く。

 僕は身構えるが、入ってきたのはアレクだった。

 アレクが口を開く。


 「どうした、俺に何か用なのか?」


 どうやら殺されるわけではなさそうだ。

 僕はアレクにロカリス伯爵と知り合いなのか訊いてみる。

 もし、知り合いならなんとか約束を取り付けて貰えないだろうか。


 「アレクはロカリス伯爵と知り合い?」


 「あの馬鹿はピレモン家の恥だ」


 アレクは苦虫を噛み潰した様な顔で続ける。


 「それに、この俺様が直々に出向いてやったのに門前払いとは!」


 アレクは相当お怒りの様だ。

 そういえばそうだった、門番に門前払いされてたな。

 僕はついでに『香』について訊いてみる。


 「アレクはロカリス伯爵の持っている『香』について何か知ってる?」


 「あ? 知っているが、どうしてお前がそんな事知りたがる」


 アレクに訝しがられている。

 これは話題変更するべきだろう。


 「アレクは伯爵に会ってなにをしようとしてたの?」


 「最近、この町で淫魔サキュバスの目撃が報告されているから、

 その警告とこの所の収入の報告を受けにだ」


 『香』については全然教えてくれなかったのに、そう言うことは教えてくれるんだな。

 まぁいいか。

 僕はダメ元でロカリス伯爵に会いたいのだけどと言ってみる。


 「勝手に会えばいいだろ」


 おぅ、なんてこった。

 ごもっともだが、僕は言葉を失ってしまう。

 こいつ本当に馬鹿だな。勝手に会えるならお前になんて用はないよ!

 アレクが「どうした? 話は終わりか?」などと言っている。

 あぁ、うん。話はもうない。


 アレクが部屋から出ていき、爺が代わりに入ってくる。

 僕は帰り道を教えてもらい、お屋敷を後にする。


 家に帰るとアイナも戻って来ていた。

 特殊隊員の服から普段着に着替えたみたいだ。

 アイナは僕を見るといきなりグチり始める。


 「全然だめだったー。

 警備すーっごく厳しくて、

 そーっと隠れてススって入れなかったし!

 それでも頑張って潜入したけど

 なんか変なクサーイ臭いがプンプン充満してて

 もう調査どころじゃなかったの!

 しかも潜入してるのバレて怪我しちゃったし!」


 アイナの腕を見ると包帯が巻かれていて血が少し滲んでいる。

 痛そうだ。


 アイナの話が終わり、僕もアレクとの話をする。

 僕の話が終わり、どうやって伯爵から『香』を手に入れるか二人で考えるが答えは出ない。



 それから何の進展もないまま数日が経ったある日、アイナが嬉しそうな顔で一枚の紙を持って帰ってきた。


 「ナキア! これに参加しよう!」


 僕は紙を受け取って読む。

 そこには「ダンス大会参加者募集」と大きく書かれていた。

 ダンス大会? なんで?

 僕は紙を読み進める。

 賞金額は金貨一枚、参加資格は男女ペア。

 開催日は一ヶ月ほど先、場所はロカリス邸。

 ロカリス邸! すごい! チャンスっぽい!

 ん? でもダンス? 男女ペア?

 

 「ねぇこれって僕とアイナのペアで参加するの?」


 「あったり前でしょ。他に誰か踊る人でもいるの?」


 ん~……。踊りたい人と言えばクレアだろうか。

 でも、おそらく参加できないだろうし……。

 じゃあやっぱり僕とアイナしかいないような気がする。


 「でも僕、ダンスなんてしたことないよ」


 「そういうと思って既に講師も見つけてきたわ」


 アイナはそう言って僕を部屋から連れ出す。

 行き先はアレクと会った屋敷だった。


 「ここで練習してきなさい。

 私はこのダンス大会について調べてくるわ」


 そう言い残してアイナは去っていった。

 僕はアレクの屋敷の前で一人取り残された。


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