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1-7 自分で出来る事


6/24 加筆、修正しました。

「ところでパパ、それ何? なんでお酒がいっぱいなの?」


 柚葉は買ってきた酒が入っている袋の中を覗き込むと不思議そうに聞いてきた。


「んー……勉強の為と新しい趣味かな?」


「お酒で何を勉強するのか分からないけど、新しい趣味はいいんじゃない? パパ、ゲーム以外無趣味だし、飲み過ぎて体壊さないならね」


「そんなに飲まないよ。夕夏と楽しむ程度にするから、酔っ払ったりしないよ」


「柚葉はママがいない時にパパが酔って柚葉に襲い掛かって来たら嬉しいけど?」


「しませんからね」


「パパのケチ」


 いやいやいや、柚葉さん。それはマズイでしょう? 携帯メモリーの順番程度であんなに怒ってるのに、万が一そんなことになったら俺は夕夏殺されてしまうから。それに柚葉さん、あなた実の娘じゃないけど実の叔母というのを忘れてませんか?


「あーあ、パパは柚葉が実の叔母だから遠慮してるのかなぁ? 血の繋がりって邪魔だよね、パパ?」


 ちゃんと覚えてたみたいですけど、答えようのない質問されても困るんです……



 それから2日後、親父から連絡があった。俺の携帯番号は既に屋敷に伝えてあったから、親父から直接掛かってきた。


「やっと携帯買ったんだな? これでもう屋敷に仕事先から電話が掛かって来ないな」


 俺がバイト先に出した連絡先が屋敷の番号だったから、バイト先からシフトの電話が掛かってくるたびに、執事が親父に電話を廻した為、いつも伝言役をやらされていたのをまだ根に持っていたようだ。


「悪いね親父、これからは迷惑かけないよ」


 当然だけど、素直に詫びた。


「お前が素直なのも気持ち悪いな。まあいい、どうせ暇だろう? 今から屋敷に来い。一緒に例の会社の本社に連れてってやる」


「マジか? ありがとう親父。すぐ行くよ。まだ俺のスーツある?」


「一応あるが、そのうちにちゃんと新調しろ」


「給料が貰えるようになったら考える」


「ぶっ! お前の口から給料なんて……母さん、俺はもう思い残すことがなくなってしまったから、すぐ逝くかも……」


 このオヤジ、この前から色々失礼だな! 昔からこんな人だったか? やはり俺が家族に目を向けてなかったということか……


「それと、俺も立場があるからちゃんとした言葉で話すんだぞ」


「分かってるよ」


「あと、お父様か父上な」


「申し訳ないけどそれは無理」


 そのあとも、息子は薄情だのやはり娘が欲しかっただの、柚葉は異母妹なんだからお兄様と呼んで貰おうとか、親父がじいさんの愛人だった夕夏に、なぜ最初から好意的なのか理解した。


 屋敷に着くと着替える為に自分の部屋へ向かった。部屋は誰も使ってはいないがちゃんと掃除がしてあり、3年前と変わらない家具配置だった。親父の専属運転手も昔と変わっておらず「ご結婚おめでとうございます」と、この屋敷ではこの人だけがマトモな祝福をしてくれた。


 向かう道中の車内でこれからの待遇について確認された。


「もう一度確認するが、お前は経営に参加するわけではなく、ただのいち社員として扱われるという事でいいな?」


「それが希望だから問題ないよ」


「お前の素性を知るのは今から会う社長だけだからな。お前は殆ど表舞台に顔を出してないから、役員クラスでもお前の顔は覚えてないはずだ。それに本来なら社長を含め全ての役員がお前にいろいろとお伺いを立てないといけない立場なんだ。分かるか?」


「そんな奴を普通に使ってくれって無理なお願いをしてるんだから、社長に迷惑かけないようにするよ。親父の顔も潰せないしな」


「それが分かっていれば充分だ」


 その会社の地下駐車場に車を停めて、役員専用エレベーターに親父と二人で乗り込んだ。

 

社長室はやはり最上階のようだ。

 最上階のボタンを押しエレベーターは動き出したが、途中の1階に止まった。


 誰か乗り込んできた。

 まあ、当然役員の一人だろうが、親父の顔を見ると驚いていたがすぐに挨拶を始めた。


「総帥、お久しぶりです。今日はまた突然どうしたんですか?」


「まあ、ちょっと社長に話があってな。お忍びだから内密にな」


 親父、あんたまだ現役なのにどこぞの御隠居様ですか?


「何か問題でもありましたか?」


「いや、問題ではなくて頼み事だ。こいつは俺の昔馴染みの息子でな。仕事もしないでフラフラしてるので、シゴいて性根を叩き直して欲しいと頼まれたのだ」


「そうですか。青年、せっかく総帥がご紹介して下さるのだからしっかり頑張れよ」


「はい、ありがとうございます。いろいろ御指導よろしくお願いします」


「いい返事だな」


と、その役員は俺に返すと


「総帥、良さそうな青年じゃないですか? 何処と無く先代の総帥にも似てますし、きっと修業次第で立派になりますよ」


 親父に向かってそんなことを言ってくれたが……


 親父! 笑いを堪える為に自分の尻をツネッてるのが俺から丸見えなんだよ!!


 その役員は途中階で降りる際、親父に挨拶したあと俺にも、もう一度「しっかり頑張れよ!」と笑顔で声を掛けてくれだ。


「親父、今の人は役員だろ? なんかここいい会社なんじゃないかって気がする」


「まあ、今ここにいた役員は良識のある人物だからな。しかし、会社は役員だけじゃなくて社員全てで支えてるんだからな。お前も頑張って支えられるようになれよ」


「なんか更にヤル気が出てきた」


「母さん俺は今、更に寿命が縮んだよ」


 親父……その慣用句、絶対使い方おかしいからな。



「総帥、お待ちしておりました。こちらがそのご子息ですね?」


 社長室に入ると応接用のソファに座っていた親父より年上の社長は、立ち上って挨拶をしてきた。


「無理言って済まないね。うちのバカ息子をよろしく頼む。遠慮はいらない、それが本人の希望だからな」


「社長、お初にお目にかかります。この度はこのような無茶なお願いをお聞き下さってありがとうございます。いち社員としてこの会社の為に頑張りたいと思っていますので宜しくお願い致します。父と同じ苗字は呼びにくいと思いますので『ゆう』とお呼びください」


「総帥、お伺いしたお話と違い、ゆう様は立派な人物とお見受けしますが…?」


「俺も、驚いていたとこだ。少し前までは確かにただのバカだったんだが、こいつの嫁がこいつには勿体無いほどの女傑だからな」


「社長、父の言う通り嫁と娘のおかげで少しはまともに見える様にはなれましたが、まだまだ勉強不足です。それと普通に『ゆう』と呼んで下さい」


「ゆう様、まだ正式に雇用関係にある訳ではないので、大事なお客様でもあるあなた様を気安く呼ぶことなど出来ません」


 なるほどなー、親父が念を押したわけだ。俺の認識がまだ甘かったということか。


「ゆう様にお尋ねしたいのですが……総帥からも多少はお伺いしているのですが、この会社の筆頭株主であるゆう様が何故いち社員として働きたいのですか?」


 俺はこれからお世話になる会社の社長に隠し事などせず、柚葉の学校での事や自分がまだまだ社会不適合者であること、人との付き合い方の勉強したいという事など素直に話した。


「大恩ある嫁と娘に恥を掻かせない為にも厳しくご指導をお願い致します」


「これはこれは……私はてっきり総帥がいずれこの会社の継がせる為にゆう様を会社に入れたいのかと思ってましたが……」


「そのつもりはありません。もちろん自分のチカラで社長になるぐらいのつもりで頑張りたいとは思っています」


「では、私も社長といち社員という関係を取らせて頂きますが宜しいですか?」


「そのようにして頂ける様こちらからもお願いします」


 社長はまるで自分の孫を見るような優しい目になり「うんうん」と頷いていた。そして親父の方を向き面白そうに言った。


「総帥、『男子三日会わざれば刮目して見よ』と言いますから、うかうかしてると寝首を欠かれるかも知れませんぞ?」


「いや、正直驚き過ぎて今まで言葉が出なかった。……なんで俺は今日ICレコーダー持って来なかったんだ? 墓参りに行ったときに母さんの好きだった隠し芸大会より驚かせてやれたのに!」


 オヤジー! 自分で「総帥としての立場……」とか言ってたのはどうなったんだよ!



 そのあと社長と俺は給料などの待遇を話し合った。親父はその話には一切口出しはせずにただ黙って聞いていた。給料は俺みたいな中途採用の高卒には破格の大卒並の年齢給と本社内にある営業部の社員という俺が望むべく最高の待遇を与えてもらった。


「あとは、ゆう君の頑張り次第だからね」


「はい、社長。このような我が儘をお聞き下さってありがとうございます。誠心誠意この会社の為に尽くしたいと思います」


「まあ、本来はそうあるべきなんだが、ゆう君の場合は家族の次にそう思ってくれればいいから。宜しく頼むね」


 社長は笑いながらそう応え、親父の方を見ると満足そうに頷いていた。


 結婚を控え新しい生活を始める準備の都合もあるから、初出社は再来月からという事となり、話が終わって社長室を出ようとしたとき「素性が絶対に明るみに出ないようにお願いします。筆頭株主のあなたを私が独断で雇用したと分かれば、監査のために雇ったのではないかと勘ぐる役員もいると思いますので」と用心をお願いされた。


 駐車場に戻る為に、また役員用エレベーターに乗り込むと親父が話しかけてきた。


「社長に迷惑かけるなよ? もし、何か問題が起きたら俺に相談しろ」


「分かってるよ。親父忙しいのに色々ありがとう」


「なに、俺は母さんへの土産話を増やしてるだけだ」


 親父…あんた母さんのこと、どんだけ大好きだったんだよ。


「それでな……お前は嫌がるとは思うが、俺は親としてお前の嫁と娘にお礼とお祝いをしたいんだがダメか?」


「まあ、気持ちは分かるから高い物や派手じゃない物なら頼むよ」


「そうか!」


 親父はそう答えると嬉しそうな顔で何かを思案し始めた。


 親父がウチまで送ってくれると言うので今回は甘えることにした。道が混んでいて時間が遅くなってしまい、何も言わずに出かけてしまった俺はそろそろ帰ってくるはずの柚葉へ心配をかけないように電話をした。


 柚葉はちょうどウチの前に着いたところだったので、出かけているがもうすぐ帰ると伝えた。


「親父、時間あるならウチに寄ってくか? 夕夏は友人達のところへ今までのお礼をしたいからって暫くまた留守にしてるけど、柚葉がちょうど学校から帰ってきたところだからお茶ぐらい出すよ」


「いいのか? そりゃあ、行ってみたかったが……」


「何もやましいモノはないからいいよ」


 俺はそんな冗談を言って親父をウチに招待した。

 

「ただいまー。柚葉、ちょっとお客さんいるんだけどウチに上げていい?」


 リビングで何かをしていた柚葉に玄関から声をかけると「えっ!? パパがお客さんを!?」と驚きながら玄関まで出迎えに来てくれたが、親父は柚葉の言葉を聞き逃さなかった。


「お前やっぱり友達いないのか?」


「余計なお世話だ。これから作るからいいんだよ」


 柚葉は玄関まで来ると親父の顔を見てさらに驚き


「パパのお父様!? こ、こんにちは、お久しぶりです。ようこそお越し下さいました」


 と、動揺しながら硬い表情で挨拶をした。


「柚葉ちゃんか。ずいぶん大きくなったんだな。家族なんだからそんな堅苦しい挨拶はいらんぞ。それとおじいちゃんかおにいちゃんと呼んでくれ。お兄様でもいいぞ」


「親父! サラッと自分の願望を混ぜるなよ」


 その会話を聞いた柚葉は緊張が解けたようで


「いらっしゃい、おじいちゃん。今片付けますから上がって下さい」


 と、笑顔でそう言い直した。


次回、魔王登場…

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