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6/24 加筆、修正しました。

 出来れば祝福して欲しいと思ってここへ呼んだのに、俺は柚葉を泣かせてしまった。

 なんと言って慰めればいいか、なんと言うべきか、まるで思いつかなかった。


 突然、店の扉が開き夕夏が慌てた様子でこのテーブル席に向かってきた。

 どうやらオーナーが外で待っている夕夏に気付いて奥さんを呼びに行かせたらしい。


「柚葉、どうしたの?」


 夕夏は不安を隠せない表情で柚葉に尋ねた。


「パパが……パパがバカだから柚葉達のこと全然分かってくれなくて……」


「柚葉のパパがバカなのは最初からでしょう? だからあたし達は助けてもらえたし、バカだから柚葉もママもパパが大好きなんでしょう?」


「そうだけど……」


「ここですぐに柚葉の気持ちが分かるような人なら最初から苦労してないわ。だから、柚葉のパパはバカでいいの」


 柚葉は何かに気付くと、ハッとした表情になった。


「そうね……そうよね! 柚葉のパパはバカだから、柚葉はバカなパパが大好きなんだもんね!」


 これはいったいなんの罰ですか?

 罰ゲームなんですか?


「パパ、ごめんね。柚葉はパパがバカのままでもずーっと大好きだからね」


「あ、ありがとう」


 他になんて答えればいいんだ!!

 答えが分かる奴がいたら俺の財産を全部やるから今すぐ教えてくれよ!



 タイミングは今しかないと思って柚葉の為に買ってきたプレゼントを渡した。


「開けて欲しいんだけど」


 まだ夕夏は指輪をはめていて、お揃いだと見せることが出来た。


「うわぁ、これママとお揃いだね。これ、柚葉が貰っていいの? だってママの指輪はエンゲージリング……だよね??」


「ちゃんとママに許可はもらったから。あまり高くないけどママが気に入ったモノだから、柚葉も気に入ってもらえると嬉しい。ただ、今はまだ指輪は早いかなと思ってネックレス状にしてもらったんだ」


「パパありがとうすっごく可愛い。パパからのプレゼント、大事にするから……ん? でも昨日のあの様子だと……とすると、昨日は指輪無しのプロポーズ?」


 何この子!? 名探偵さんですか? そこには触れないように話したはずなのに! せめて昨日の醜態はバレたくない!!


「柚葉、実はね……」


 しかし柚葉のママは鬼だった。

 昨日、自分が帰って来たところから今日の再プロポーズまでの全てを柚葉に暴露された。


 そして現在……柚葉はママの膝に顏をうずめて泣いている。


 そう、笑い過ぎてである。


 厨房から吹き出す人の声と立っている女の人が後ろを向いて必死で笑いを堪えている姿にも気が付いた。


 俺はもう恥ずかしさのあまり顔から火が出そうでずっと下を向いていたが、笑いをやっと収めた柚葉に声をかけられ顏上げた。


「パパ。このネックレス、パパが柚葉にかけてくれる?」


 柚葉はそう言って立ち上がると顏をこちらに近づけた。


 俺は「あ、ああ」なんて曖昧な返事をして立ち上がり、箱からネックレスを取り出して柚葉の首にかけてあげると、柚葉が俺の頭を両手で挟み自分の顏を近づけ俺のおでこにチューをした。


「え? え?」


「デコチューしちゃった。エヘヘ、パパありがとう」


 慌てる俺に少し顏を赤らめた柚葉が礼を言った。


 はっ、近くから殺気を感じる。


「あなた。もう一度確認しますけど、あたしのこと愛しているんですよね?」


「えー? パパは3年も頑張ってパパのお世話をした柚葉が一番大事だよね?」


 更に慌てた俺は二人の顏を交互に見ると二人ともニヤニヤしていた。


 なんて、似たもの母娘なんだ!

 謝るから本当に勘弁して下さい。


 オーナーの奥さんがタイミングを見計らって飲み物を出してくれたお陰で助かった。


 オレンジジュースと先ほどのワインをボトルで持ってきてから、すぐに前菜も出してくれた。

 俺を助ける為に料理を出し始めてくれたのだろう。


「ところでパパ、ここフランス料理のお店だけど大丈夫?」


 値段のことではない。

 ダメニートの俺に食事のマナーなんて分かるのかと心配した問いだ。


「子供の頃から、いやいや覚えさせられてたから大丈夫だ」


「そっかー、さすが大会社の御曹司だね。逆に柚葉の方が心配かも……」


「大丈夫ですよ。他のお客様もいらっしゃらないのですから自由に召し上がってくださいね。食事は楽しんで頂くモノですから」


 話を聞いていたオーナーの奥さんが、にこやかに柚葉にそう言ってくれた。


 昔はフレンチなど一品一品出してくるし一皿の量も少ないから面倒な食べ物としか思っていなかったし、料理を良く見たり味わうなんてそれこそ無かった。


 順番に出されるオーナーの力作料理は芸術品のような造形美があり、味も素晴らしいと思った。


 柚葉や夕夏の料理も美味しいと思って食べているが、屋敷にいた時にそんな感情を持って食事をしていた記憶はないから、そんなところも二人の恩恵を受けているみたいだ。

 ますます頭が上がらなくなったが、そのことがとても嬉しく感じられた。


 食事が終わるとデザートと頼んであった紅茶を出してくれた。デザートは小さなホールケーキ。三人で食べるにはちょうど良いサイズでケーキの上には【家族でお幸せに】と書いてあった。


 俺は嬉しさで涙が出そうだった。それは【俺は今幸せだな】と心に思っていたところだったからだ。


「お切り分けをしましょうか?」


「いえ、行儀が悪いんですけど、このまま食べていいですか? 実は少し思い出がありまして……」


 俺は昔ホールケーキをそのまま柚葉に出して食べさせてしまった失敗談の話をした。


「それは素敵な失敗の思い出ですね。私どもはお客様が楽しんで召し上がって頂ければそれだけで満足ですから、お気になさらずに」


 俺達は家族になる。今日、本当の意味での家族という関係になれた俺達がおこなった初の共同作業はフォークによる三人でのケーキ入刀だった。



 オーナーと奥さんにお礼をして少し多めに料金を支払った。

 やはり最初は固辞されたがここのお店を使わせて頂いたお陰では自分達は家族になれたそのお礼と、これからも気兼ねなくこのお店にお邪魔したいからと伝えると「いつでもお待ちしてますよ」と言って受け取ってくれて、さっきのワインをボトルでお土産として持たせてくれた。


 そう長くないウチへの帰り道、柚葉を真ん中にして三人で手を繋ぎ歩いて帰った。


 ウチへ着くと、さっき貰ったワインと途中で買ったジュースで再度乾杯をした。

 

「夕夏はもうどこかに行く必要ないんだから、三人で住めるとこに引っ越す?」


「それはまだいいんじゃないかしら? あたしも今までお世話になった人達にお礼の挨拶にも回りたいですし、式の準備もありますから引っ越すのはその後でも」


 結婚式か……やっぱり言わないとダメだよな。


「実はさ、その式なんだけどやっぱりやらないと、その……夕夏はイヤ……だよね?」


 すると、夕夏ではなく柚葉が「なんで?」と不思議そうな顔で聞いてた。


「パパはママと結婚式したくないの?」


「そうじゃない、そういう事じゃなくて……」


 夕夏だって結婚するのは初めてなんだから、結婚式はやりたいに決まってる。けど、問題が起きそうな気がするから、それを何て説明しようか……


 才女である俺の嫁は俺の顔と顔色ですぐに意図を察していた。


「あ、そういう事ね。ゆうくん、気を遣わないでハッキリ言っていいのよ? あたしのせいなんですから」


「いや、俺のせいだから。夕夏には本当に申し訳ないないけど、式だけは止めた方がいいかもしれない」


「? パパ、ママ。どういうこと?」


「柚葉。パパのお父さんは誰かしら?」


「えっ?…あっ!」


 俺の親父は巨大企業の社長で総帥と呼ばれているほどの人物だ。

 経営に参加をしていなくても、家を出ていても、俺がそんな人物の実の息子であることには変わりがない。まともな式など挙げてしまえば、情報が何処からか漏れて間違いなくマスコミが話題に取り上げ相手を調べるだろう。そして、その相手はじいさんの元愛人だと知られれば、せっかく時間が経って人々の間から消えた夕夏の素性がまた世間に広まり、柚葉がツライ想いをしてしまう。


「ホントごめん。俺がこんな立場だから夕夏にも柚葉にも迷惑掛けちゃって……」


 幸せな気分に自分だけ浸るわけにはいかない。夕夏や柚葉を守らなくては。その為には夕夏に残念な想いをさせてしまうけど、それは一生掛けて償うから。


 そう考えたがやはり自分では式を挙げてあげられない不甲斐なさで涙が出てきた。


「パパはホント優しいよね」


「そうよ。ママの旦那様は世界一優しい素敵な人なんだから」


 二人が笑顔で俺を見てくれている。


「夕夏には残念な想いをさせてしまうけど幸せにすると約束するし、柚葉には絶対ツラい想いをさせないように絶対守るから、式だけは……やめにしないか?」


 俺は断腸の思いで夕夏に話した。


「何言ってるのかしら、あたしの旦那様は。あたしの問題で旦那様を巻き込んでるのに、そんな顔されたら妻として立場がないわよ」


「ねえ、パパ。ママに飽きたら柚葉がパパのお嫁さんになるね」


「例え娘でもこんな素敵な旦那様は絶対に渡しませんからね」


 二人は見つめ合いニヤニヤしながら何か楽しそうだった。


「ねえ、ゆうくん。式はダメでも友人や家族だけの披露宴ならいいわよね? どこかで普通のお店を借りて。そこでウェディングドレスを着させて!」


「夕夏がそれでいいなら」


 俺のせいなのに、それだけで満足そうに笑ってくれるなんて……


「じゃあ、明日からお世話になった人達のところを回って、お礼をしながら披露宴に参加して貰えるように頼んでくる」


「明日から? もう少しゆっくりしてから行けばいいのに、夕夏はせっかちだな」


 夕夏の為ではなく本当は自分が寂しいから出た言葉だとサイコメトラーの夕夏に読み取られてからかわれた。


「あたしの未来の旦那様はもうマリッジブルーなのかしら? そうやって結婚を延ばされて、あたしをドンドンおばさんにする気なのね。確かに男は結婚前が一番楽しめるって言いますからね……」


 夕夏が泣き真似を始めた。


「分かったから早く行って早く帰って来て下さい!」


「なんで早くなのかしら?」


 この……悪魔の化身め!

 どこまで俺を嬲る(なぶる)気だ。


「俺が寂しいから、早く行って早く帰って来て下さい!」


 夕夏さん……その満面の笑みが憎いです。


「それであなたは誰を呼ぶの?」


「特に呼びたい友達はいないな。親父と兄貴達は来るか分からないけど、一応結婚の報告だけはしないとマズイから連絡はする。もしかして反対されるかもしれないけど、二人には迷惑をかけないから心配しないで」


「ちゃんと報告するんだ。パパ、エライ」


 なせか頭を撫でられた。柚葉に。


「そうね。仲違いして家を出てる訳じゃないのだから、ちゃんと報告した方がいいと思うわ。もちろん出来る事なら披露宴にも来て欲しいけど忙しい人達ですから……」


「仲違いはしてないけど、特に仲が良い訳じゃないよ?」


「あたしはそうは思いませんけど?」


「でも、もし親父達が夕夏との結婚を認めないとか、用意した別の女の人と結婚しろとか言いだしたら……」


「言いだしたら?」


「俺の全資産使ってでも企業傘下の子会社の一つや二つ潰してやると脅してくるから!」


「ダメダメダメ!!絶対にそんな事は言わないと思うから穏便にね。穏便にちゃんと話してきてね……穏便によ」


「夕夏が言うなら大丈夫かもしれないけど、でもイザとなったらやるからね」


「絶対に大丈夫ですから……」


 そう言う夕夏から渇いた笑いが聞こえてきた。


次回、家族の為にゆうが…

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