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2-2 やはり兄貴は頼りになる

 動機に問題がある気はするけど、可愛い柚葉の希望を叶えてあげる為に、一肌脱ぐことにしよう。

 と、言っても親父と兄貴に電話をするだけなのだが……。


 親父が断るとも思えないが、他の仕事を放っぽり出して柚葉のお願いを優先してしまうのが目に見えている。

 そうなると余計な仕事を増やして咲良の父親でもある一番上の兄貴に負担をかけてしまう。

 それはあまりにも申し訳ない。まずは、当たり障りの少ない2番目の兄貴に相談することにした。


 当たり障りがないといっても、巨大企業の重役でもある2番目の兄貴も忙しいに決まっている。

 直接携帯に掛けることはしないで、会社に電話をして、まず秘書につないでもらった。

 そして、中にいの空き時間に折り返し連絡が欲しいと伝言をお願いした。


 夜、連絡をしてもいいのだが、夜だからといって暇とは限らない。

 もし付き合いなどでお酒の席に電話をしてしまったらそれこそ申し訳ない。


 さほど時間を置かず携帯に電話があった。


「やあ、ゆうくん。気を使わないで直接連絡してくれればいいのに」


「中にい、久しぶり。そういうわけにはいかないよ。俺みたいな平凡なサラリーマンが親会社の重役に直接電話するなんて。まあ、親父には遠慮しないけどね」


 中にいはこんな返答も嫌味とは受け取らず冗談と分かって、面白そうに笑ってくれた。


「それで、忙しいなか悪いんだけど相談に乗ってくれないかな?」


「おやおや、珍しいですね。係長にまで自力で出世したしっかり者のゆうくんが相談なんて」


 そう、俺は出世したのだ。

 愛妻家としての噂がお客様たちにまで広がり、今ではからかい混じりで、――もちろんいい意味でだけど――大勢の顧客に可愛がってもらっている。


 そうして、顧客が増えていき受注も伸びていた。社長からの隠れた援護があったとは思うけど、俺も頑張ったのだ! ――妻の功績が一番大きい気もするが……。


 主任を経て先日係長になり実績を積み上げたお陰で兄貴達は半分本気でこんなことを言ってくれる。

 もちろん残り半分は『あのバカゆうがここまで成長するとは……』と、家族の間の笑い話としてだ。


「中にいにそんなこと言われると、体中が痒くなるからやめて……。それで、実は――」


 俺は柚葉の希望を言って、恐らく咲良もそれに協力したい様子であると付け加えた。

 動機に付いては言うに言えないが、慈善事業をしたいと思うことはそれほど不思議とは取られず特に聞かれなかった。


 柚葉と咲良がデザイナーを目指している。

 それは、中にいの子供たちがいつもウチに遊びに来ているので、中にいもよく知っている。


「それは、実質は誰かに任せてしまいたい、ということですよね?」


「たぶんそうだと思う。だから、基本方針とかは自分で決めたいだろうけど、そういう会社の立上げやそれを任せられる人物……。そういったことを相談したいんだけど」


「それなら私より父の方が……ああ、自分でやるとか言い出しかねないので私に相談したのですね?」


「あはは。そんな事になったら兄貴達に迷惑が掛かるからさぁ。かと言って内緒でやると、バレたとき拗ねられそうだけど」


 中にいはまるで未来が見えたかの様にそれを想像したのか、苦笑しながらもどうするか真剣に考えている感じだった。そして、誰か適任者に思い当たったようで「あっ」と、声を上げた。


「ウチの執事にお願いしたらどうですか?」


 ウチの執事。――俺に対しては無礼千万だが、夕夏と柚葉に恩義を感じていて、いつも二人には忠実である。


「そろそろ引退を考えているようですし、経験も人脈も豊かですから。それに柚葉のためなら全力を尽くしてくれるのではないですか?」


「確かに……。それなら、親父に相談しても既に候補がいるから自分でやるとか言えない。――うん、それいいかもね!」


「では、私は執事の方に根回ししておきますので、父の方は全くなしで……とは無理でしょうから、手伝いはほどほどに、と説得をお願いします」


「何とか頑張ってみるよ。ありがとう」


 ホント、出来た兄である。俺と血が繋がっているとは思えないほどだ。

 俺は、さっそく親父に電話をした。もちろん、直接携帯にだ。


「あ、親父。頼みがあるんだけど?」


「断る!」


 要件を言う前に断られた。なぜか機嫌が悪いらしい。


「なんで? まだ何も言ってないのに」


「お前みたいに父親に優しくない息子のお願いなど聞けるか!」


 何のことだかさっぱり分からない。最近は会ってもいなかったので、思い当たるフシもない。


「何のこと? 俺、何かしたっけ?」


「ふん!」と、鼻を鳴らすと子供みたいな言い分を偉そうに言ってきた。 


「何もしないのが問題なのだ! 俺の可愛い異母妹いもうとや孫たちを全くウチに連れて来ないではないか! しかも、ウチのいる孫たちは、休みになるとお前の家にばかり遊びに行ってしまって!」


 全く可愛いじいちゃんだ。まあ、気持ちは分かるのでまずは慰めておこう。


「親父も遠慮しないで遊びにくればいいじゃん」


「俺が行くのをお前は嫌がるだろう?」


 それは、いつも登場が派手だからである。

 リムジンで乗り着けたり暴走族顔負けの音を鳴らしハーレーダビッドソンで来たりするからだ。


「普通に来るなら歓迎するよ。まったく……ヒーローみたいな登場は卒業しなって」


「最近、俺の影が薄い気がするのだから仕方なかろう。しかし、普通に行けば歓迎してくれるんだな? 言質は取ったぞ」


 そこまで疑うぐらい我慢してたのか。

 しかし、影が薄いって……もういい年なんだから控えめでいいと思うのだが。


「よし、それならお前のお願いとやらを聞いてやらんでもない」


 これなら説得など手玉だな。

 少し、からかってやろう。


「そっかぁ。柚葉のお願いだったんだけど『おにいちゃん』は渋々なんだ? 柚葉もがっかりするだろうなぁ」


 ガシャン! パリーン!

 電話の向こうから何かをひっくり返した音と何かが割れた音が聞こえてきた。


「バ、バカモン! なぜそれを早く言わないんだ! 俺がそんな狭量なわけがないだろう。じょ、冗談だ! は、早く『いもうと』のお願いを言え。俺がすぐに叶えてやるから」


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