2-1 柚葉、来世への計画を発動する
今より1年と少し前、柚葉が咲良と同じ学校に通っている高校3年生のときのお話。
ある日柚葉が、仕事から帰って来た俺を、いきなり部屋へ連れ込んだ。
咲良は小さい声で「頑張って! 私も協力するからね」と、柚葉に応援をして見送っていたが、なんのことだかさっぱり分からない。
「パパ!そこに座って!」
柚葉はそう言って自分のベッドに指を差す。
俺は素直にベッドに腰をかけたが、柚葉が隣へ座りにじり寄ってきた。
「パパ、私決めたの!」
「な、なにを?」
ま、まさか、柚葉! それは、来世でと言ったはず……
「遺産をどうするかってこと!」
ですよねー。
どうりで柚葉の部屋に連れ込まれる俺を見ても、夕夏は「おかえりなさい、あなた」しか言わなかったはずだ。
「で、どうしたいの? 凄い意気込みを感じるけど」
「元金はそのままにして、利息とか配当金は慈善事業を立ち上げて、いろんなボランティア活動に寄付するの」
俺のじいさんもやっていたし血は争えないってことか。
元金をそのままにしたいのは、先の長い話だが自分が死んでもその事業を続けたいと考えているからだろう。
「柚葉もイロイロと考えてたんだ。ママは自分がいた施設に寄付をしていた柚葉のお父さんに感謝してるでしょ? だから、柚葉もみんなから感謝をされる存在になりたい」
「そっか。イロイロちゃんと考えてたんだね。ごめんね、ホントはパパたちが考えてあげるといったのに」
昔、初の夫婦ゲンカをした際に、柚葉が相続するじいさんの遺産の用途はオレと夕夏で考えてあげると約束をしていた。
余談だが、あれ以来夫婦ゲンカはないが、似たようなことは、柚葉たちがいないときに、仲良く寝室のベッドの上で行われている。
「柚葉は次代のことまで考えてるんだね」
優しい柚葉の思いつきそうなことだと納得していたのだが……
「それに、良いことをいっぱいして、柚葉が死んだあともそれが続いていれば、神様もお願いを聞いてくれるかもしれないでしょー?」
なにか雲行きが怪しい。
「そ……そうだね。……ちなみに、柚葉は何をお願いしたいのかな?」
日本転覆や世界征服でも望まない限り、普通の願いならば、どんなモノでも自分で叶えられるだけの資産を持っているハズだ。
「まずは、天国にいる柚葉が地獄行きなっちゃったパパを助けてあげるの」
「ちょ、ちょっと待って! 柚葉が天国にいるのは分かるけど、なんでパパが地獄へ行くのが確定なの? パパは悪いことしてないよ」
すると、柚葉はおかしなことを、さもそれが当然とばかりにきっぱりと言い切った。
「いたいけな少女の10年以上に渡る恋心に報いない男は地獄に落とされるんだよ」
知らなかったの? と言いたげな顔だが、それ以前に俺と柚葉は叔母と甥の関係だと言いたい。
「それで、柚葉とパパをお隣同士に住んでいる同い年の幼馴染にしてもらうの」
「マ、ママは? ママはどうするの? 天国に残したまま?」
そんなことをしたら、2回目に死んだとき恐ろしい目に合わされる気がする。
「ママはパパのママになってもらうの」
「は? なんで? また柚葉のママでいいんじゃないの?」
それだと、年の差など、ものともしないバカップルの俺たちがまた結婚してしまう。
しかも、俺が18歳になるまで待ち続けた夕夏の子供として柚葉が生まれる可能性も出てくる。
もちろん俺が実の父親としてである。それでは今の状況と全く変わらない。
「だから、パパのママになってもらえば、ママはパパと結婚できなくなるし、柚葉がパパと結婚すれば、ママはまた柚葉のママになるでしょー?」
そうきたかー!
確認するまでもなく、柚葉がイロイロと考えていた内容は『どうすれば来世で確実に俺と結婚できるか』と、いうことだ。
「それで、おじいちゃんか咲良ちゃんのパパに相談したいんだけど、ママに言ったらパパにちゃんと許可をもらいなさいって言われたの」
「え!? マ……ママにはなんて話をしたの!?」
「大丈夫よ、パパ。来世のことはちゃんとパパと柚葉……と、咲良ちゃんだけの秘密だから」
いやいやいや、柚葉さん。一人増えてますよ!
咲良の応援は『手伝うからいっぱい善行を頑張って』という意味だと気付いた俺は、焦って咲良を呼びに行こうとしたが、その必要はなかった。
「咲良ちゃーん、もう入っていいよー!」
話が終わるまで部屋の外で待機をしていた咲良が部屋に入って来た。
「柚葉ちゃん。ちゃんとおじ様に想いは告げられたの?」
「うん、バッチリだよ」
「まあ、それは良かったですわ」
ニッコリと微笑む咲良は俺にささやかな助言をくれた。
「おじ様、来世では柚葉ちゃんを泣かせないで下さいね。私は柚葉ちゃんと双子の姉妹として生まれてくる予定ですから、しっかり見張らせて頂きます」
すでに本当の姉妹のような二人に『ラノベの読みすぎだ』などと言える余裕は俺にはなく、ただひたすら『夕夏にバレませんように』と願うばかりであった。