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1-17 初めての友達 そして、深まったそれぞれの関係

 それから主任はウチによく遊びに来てくれるようになった。


 夕夏には近くに住む友達がいないため、新しい友達が出来て嬉しかったようで、率先して招待するようになっていた。


 すでに半分素性がバレてるが主任もそれ以上何も聞かないでくれたので、警戒する必要もなくなり余計に気安さもあった。そして仕事時間以外は俺も【あーちゃん】と呼び、同い年だから敬語禁止と、また【条件】で脅された。


「あーちゃん、もうすぐ新居が完成するから招待するよ。夕夏も安定期に入ったから、すぐ引越しもできるし」


「ホントにー!? ヤッター! 凄い楽しみにしてるね」


「引越しして、落ち付いたら柚葉と二人でたくさん料理作りますから楽しみにしててね」


 俺は夕夏と共通の、そして俺にとって初めての友達が出来たことに気が付いた。


「あーちゃん、そのときさぁ、ここにある好きなお酒を好きなだけ飲んでいいよ。夕夏が今は飲めないから一番高いのは、子供が生まれて三人で飲めるようになったら飲もう」


「え? え? なんで? いいの? 私まで?」


「値段を調べなかった俺が悪いんだけど、こんな危ないモノはさっさと処分したいからね。それに……」


 俺は夕夏に笑顔を向け言葉を続けた。


「値段も言わずくれた親父に腹が立って特別じゃない日に飲んでやろうと思っててさ、友達と一緒にお酒を飲むのは特別なことじゃないでしょ?」


「だから一緒に飲もう」と言うと夕夏は嬉しそうに微笑んで、愛希も俺が普通に家族と暮らしていたいと理解している笑顔を向けてくれた。


「パパ、初めての友達だね! 柚葉も嬉しいよ」


 柚葉さん……パパ、そのうち本当に泣いちゃうからね。



 引越しの日、上の兄貴が咲良と一緒に手伝いに来てくれた。


「わざわざ、ありがとう。咲良は自分の部屋をもう見たの?」


「はい、おじ様。何回も柚葉ちゃんと来ましたから。素敵なお部屋をありがとう」


「それは夕夏に言ってね。俺は何もしてないから」


「はい、おば様にも言ってきます」


 そう言うと咲良は家の中へ入って行った。


「長にい。悪いね、忙しいなか。それとありがとう。夕夏が大喜びしてたよ」


「咲良が一緒に行こうって手を引っ張って離さないからな。それに娘を頼むんだから手伝いに来るのは親として当たり前だろ?」


 そして兄貴は、俺たちがいる庭を見回すと満足した顔になった。


「夕夏さんから庭が欲しい理由がガーデニングしたいからと聞いてこれだって思ったんだよ。最初は遠慮して小さい庭にしようとしたり、家も必要限の大きさにしようとしてたから、これから家族が増えて将来は孫だっているかもしれないんだから、余裕を持って設計した方がいいって説得したんだ」


「さすが! お陰で助かったよ。俺が言っても、あまり贅沢は……って言うからね。それにこの庭、凄い素敵じゃん」


 家自体は少し大きめだが特に豪華ではない見た目普通の一軒家で、庭は広めで既に綺麗に花や草木が植えられた庭が完成されていた。


「気分を害されるかとも思ったが、設計事務所の所長さんもお客が喜ぶならって言ってくれてな、別口で有名なデザインコーディネイターに庭の設計を頼んだんだ。主婦が無理なく自分でもガーデニング出来る様に設計してもらったから心配はいらんぞ」


「親父と同じで高価で派手なお祝いだけど、これも素直に礼を言わないとダメだな」


「もう一人のお前の兄にも礼を言っとけよ。庭の設計依頼はあいつに頼んでもらったんだ。売れっ子で普通に頼んだらすぐにはやってもらえなかったからな」


「ホント、家族はありがたいな」


「だからお前は自分の大切な家族を大事にしろよ」



 元々、俺のウチには大した家具は置いてなかったし、引越し自体は引越し屋が全てやってくれたので、さほど手間もかからず終わった。あとは、親父が前もって夕夏と柚葉と咲良を家具屋へ連れて行ってくれたときに買い揃えた家具の到着待ちだった。


「待たせたな」


 来ないはずがなかった。家具屋ではない。


「親父、今日は用事があって来れないんじゃなかったのか?」


「バカめ。俺が大事な娘と孫の引越しに来ない訳がないだろう」


 いや、分かってたけどね。


「車は混んでると時間が掛かるからな。バイクで連れて来てもらった」


それ、いい年した企業の社長のすることじゃないからな。



 引越しも無事終了し、引越しそばなるモノを食べて親父たちは帰った。

 咲良は少し先には新学年なので休みになったら引っ越して来る予定だ。



 後日、約束通り愛希を招待した。

 夕夏のお腹はかなり目立ってきてはいるが、まだ三人しかいないこのウチは広すぎるので、愛希が来てくれて少し賑やかになると逆に落ち着いた。招待を楽しみにしていた愛希が選んだお酒は、高価と言うより料理に合うモノだった。


「うんうん。おいしー。料理にもバッチリ合う。こんな食事一生縁がないと思ってた。ゆかっちごめんね、一人で楽しんじゃって」


「あーちゃんが来てくれたからあたしも楽しいわ。もうすぐ家族が増えるとはいえ、まだウチの中が寂しいですからね」


「双子だから一気に賑やかになるね」


「実はもう一人増えるの。柚葉と同い年の親戚の子供を預かるから」


「一気に6人家族!? それは賑やかになるねー。じゃあ、もうあまりお邪魔できないか」


「遠慮なく来て。あたしが子供の世話ばかりしてたら、ウチの旦那さんも暇でしょうからね」


「そうねー。でも私も誰か見つけないと……ゆうちゃん、ホントにニートの友達いないの?」


 まだ愛希は柚葉の言葉をまだ信じていて、ニート探しをしていた。


「だから、ニートは友達がいないからニートなんだってば。それに出歩かないからニートなんだよ。だから早く普通の良い人見つけなよ」


「やだ! 私はゆうちゃんみたいな良い旦那が欲しいから、優しいダメニートを絶対見つけるんだ!」


「あーちゃん! 柚葉のクラスにゲームばっかりしてて、あまり学校に来ない男の子いるよ!」


 いやいやいや、ダメダメ、ダメだからね、柚葉さん。



 咲良がウチに引っ越して来て数ヶ月後、待望の子供が生まれた。数日前から夕夏を入院させて、俺はそわそわしながら仕事をしていたが、我慢できなくて休みを取った。夕夏は病室で付きっきりの世話をする俺に始終苦笑していた。


 昼間に無事出産。男の子と女の子。双子だから大変だったが、その間、俺はずっと夕夏の手を握っていた。


 真っ先にお祝いに駆けつけたのは何故か親父だった。そして「ヘリで急いで来た」と聞いてもいないのに自慢気に言われた。


 夕方になると柚葉と咲良が来てママが元気なのと保育器の中で寝ている2人の赤ん坊を確認すると、二人は跳ね上がって喜んでいた。


「柚葉。これで正真正銘おねえちゃんだな。咲良おねえちゃんもよろしくね」


「パパ! 柚葉、ちゃんと面倒みるからね! 二人ともパパが大好きになるようにしっかりお世話するから!」


「おじ様、お任せくださいね。柚葉ちゃんと一緒に立派なおじ様好きの子供に育ててみせますからね」


「……ま、まあ嫌われるよりはマシだから二人ともよろしくね」


 最後に愛希が駆けつけてきた。電話を受けて入口で待っていた俺に気付き、嬉しそうな顔で近づいてきた。


「お、パパ、おめでとう」


「あーちゃんに言われると照れくさいよ。ありがと。案内するね」


 ちょっと寝不足の愛希は夕夏の元へ来ると、二人は手を取り合って喜び合っていた。


 実は愛希には最近彼氏が出来た。

 新居に招待した次の日、俺にオンラインゲームを教えてくれと頼んできた。ようやくニートがどこにいるか気付いたのだった。俺的には目的がニート探しだからあまりオススメしたくなかったのだが、あまりにも熱心だったので次の休みに教えてあげると約束してしまった。


 仕事を始めてからは殆どやってないが、俺がやっていたいくつかのゲーム全てで俺は最強クラスのキャラクターを持っていた。まあ、時間も金もあったんだから当たり前だが。


 難易度のあまり高くないゲームを選び、柚葉のPCを借りて愛希のキャラクターを作った。俺は自分のキャラクターから必要なモノを譲渡して、ある程度一緒にやってあとは自分で出来るとこまで教えた。


 もうやるつもりのなかったゲームだから装備や持ち物を全部あげようとしたら、まだ弱いのにそんなに強い装備とかしてたら嫌味な女と思われると言って自力で頑張ろうとしていた。


 すると「柚葉がパパの伝説を引き継ぐ」と伝説など作ってないのだが、咲良と二人でそのゲームをやり始めてしまった。俺のキャラクターを丸裸にして持ち物全てを二人で分け、毎日勉強のあとやっていた。


 何をしでかすか心配になり、仕方なく何度も一緒に組んでイベントに挑んでいた、比較的まともと思われる人にメールして、愛希と問題を起こしそうな二人の中学生の面倒をみてくれないかと頼んだ。


 早い話、その人が愛希の彼氏だ。

 俺は行かなかったがオフ会も開いていた人で、俺がその人に頼んだ理由もそれだった。


 オフ会をする人ならダメニートじゃないと思ったからだ。


 まあ予想通りその人はちゃんと働いている、そこそこお金持ちの人だった。その人も同じ趣味のまともな人がいたらいいなと思っていたらしく、愛希ならその条件にぴったりだった。


 愛希がオフ会に初めて参加するとき、俺に同行して欲しいと心配そうに頼むので、ちゃんとした人物なのは確認していた。だから付き合い始めたと聞いたときも不思議には思わなかった。


 体調も戻り子育てにも夕夏が慣れてきた頃、愛希は彼氏を連れて遊びに来てくれた。彼氏は年頃も愛希と近く二人はお似合いで、仲が良さそうに見えた。

彼氏は既に見知ってはいたが、普通の生活をしてる俺にかなり驚いていた。


「俺はてっきりゆうさんは、ニートか廃人だと思ってましたよ。いくつか他のゲームをやっているのは分かっていましたけど、それでもあの強さと装備でしたからね」


「当たってますよ、それ。結婚してからマトモに生活するようになったんです」


「どうりで…今まで一度もオフ会など表で見た人はいなかった、最強クラスの人がいきなり現れたときは本当に驚きましたよ。でも事情は愛希から聞きました。わざわざ愛希の為に来てくれたんですね。お陰で俺にもやっと彼女が出来ましたから感謝してますよ」


 このままいけば二人が結婚するのもそう遠くないだろうな。そしたら家族ぐるみの付き合い出来るかな?



 そして時間ときが流れて……現在。


「ママはもうすぐウチに着くよ。さっき病院出るとき電話があったから、今、じいちゃんの車で向かってるから」


「楽しみだね、パパ。二人とも『おにいちゃん』と『おねえちゃん』になったんだから、おやつばっかりパパにねだったらダメですよ」


「「はーい」」


「流石だね、柚葉おねえちゃんは。ところで咲良は一緒じゃなかったの?」


「咲良ちゃんはあーちゃんの子供を保育園に迎えに行ってる。一緒に連れてくるって」


「そうだな。あとであーちゃんと旦那さんもウチに来るんだから保育園で待ってるより、ウチでみんなと一緒に待ってた方がいいもんな」


「だから柚葉はパパに報告するために、先に帰って来たの」


「ありがと、柚葉。みんな一緒の今夜が楽しみだね」


 親と兄弟に助けられ、妻に心から愛され、友達とその家族と交友し、娘と姪がその繋がりを支えてくれている。


 すべての関係が俺を幸せにしてくれた。


拙い文章をここまで読んで頂いた皆様にお礼申し上げます。


第2章を書き始めました。

近日中に投稿を始めますので宜しくお願いします。


お時間があれば、別作品の『異世界でおまけの人生を楽しむ方法』も合わせてご覧頂ければ嬉しく思います。

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