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1-11 夕夏の永き想い


6/26 加筆、修正しました。

 役所を出ると三人で手を繋ぎそのまま帰路へ着いた。


「これで俺達は正真正銘の家族だな」


「あなた、宜しくお願いします。妻として一生あなたを支えますからね」


「柚葉も娘としてずーっとパパを支えてあげるね」


 柚葉……それでいいのか?嬉しいけど…



 ウチに着くと夕夏と柚葉はすぐ夕食の準備を始めた。その間の俺は親父に入籍が無事に済んだ事を報告し再度柚葉のことを頼んだ。親父は喜んでくれた……特に柚葉を預かる新婚旅行期間のことを。


 親父からも夕夏にお祝いを言いたいと言うので料理中だったが電話を渡した。夕夏は嬉しそうに報告をしてそのあと披露宴と何やらの打ち合わせをしていた。


 食事中、夕夏が次の休みの日に柚葉と親父のところへ行くと言ったが、どうせ邪魔なのは分かっているので「二人で行っておいで」と言うと、柚葉に「最初からそのつもりだよ」と返されてしまった。


 食後に柚葉が淹れてくれた紅茶を飲みながら、昼間のうちに旅行代理店から貰ってきた海外ツアーのパンフレットを参考にして、どこへ行くか相談した。


 以前に買ったお酒はまだ開けてない。仕事もしてないのにウチでお酒を飲むのに抵抗があったから普段はいつも紅茶だった。


 柚葉も一緒に相談に乗ってくれたが俺は夕夏とならどこでも良かったし、夕夏も海外なんてどこへ行けばいいのか分からないという感じでなかなか決まらなかった。


「夕夏が行きたかったところはないの?」


「そうねー。海外には憧れたことはあるけど特にどこっていうのもありませんでしたし…それにずっと行きたかった所に今はいますから」


 そう言うと夕夏は嬉しそうに俺の膝に手を置いた。


「ママ。ノロケるのもいいけど、それじゃ決まらないよ? 別に海外じゃなくてもいいんじゃない? 子供の頃にテレビで見た行ってみたいなぁとか思った場所とか」


「そうだねー。いっそ行ってみたかった場所巡りとか。移動は新幹線とか飛行機をフルに使って」


「あ、面白そう。贅沢にビジネスやグリーン使って行けるだけ全部なんていいんじゃない、ママ?」


「そうね、面白いかもしれないわね。そうしたら特に予定を立てずに思い付きで向かっちゃうとかにしましょうか?」


「いいね、それ。それに決定しよう。海外は柚葉と三人で行けばいいよね」


「柚葉も海外よりこっちの方がいいかも」


 三人は笑い合って幸せな夜のひとときを過ごした。



 披露宴が近づくにつれ、夕夏は忙しそうだった。友人達に連絡して宿泊場所やチケットを予約したり、親父のところへ柚葉を連れて行ったり、オーナーのお店に打合せに行ったり、引き出物を探したりしていて、俺も手伝おうとしたら「妻の仕事ですから、あなたはゆっくりしてて下さい」と言われすることが無かった。


 ニート時代は何もしてなくても暇だなんて思ったことはなかったので、何もすることがなくて暇なのがこんなに苦痛だとは知らなかった。


「柚葉、お願いがあるんだけど?」


「なに、パパ?」


「暇だから遊んでくれない?」


「は? パパ何言ってるの?」


 休日、部屋で自分の机に向かっていた柚葉に『夕夏は忙しいから邪魔できなくて手伝いたいけど拒否されて、何かしようにも何も思いつかないまま暇がツラくて娘に相手してもらおう』と思ったと正直に話した。


 話を聞き終えた柚葉は笑いをなんとか必死に抑えている様子だった。


「パ……パ……か、かわいい、かわいすぎでしょ、それ。ママー! ちょっと来てー!」


「なあに、柚葉、大声出して」と言いながら部屋へ入って来た多忙の妻に愛娘は俺から聞いた話をそのまま全部伝えると、二人は揃ってまるで世話の焼ける子供を見る様な目を俺に向けた。


「ママ、パパを連れて遊びに行っていい?」


「そうね、天気も良いし散歩でもして公園でお昼でも食べて来たら?」


「分かった。ママありがとう。パパ行くよー」


 柚葉はそう言うと夕夏からお小遣いをもらい、小さな子供連れて行くように俺の手を握って外に出かけた。


 現在、俺の手持ちは0円である。

 あの戦争後、財布の手持ちとダンボール貯金から100万を夕夏に渡し、あとは全て銀行に戻した。残したお金で披露宴代、必要な経費他給料が入るまでの生活費を含め遣り繰りするそうだ。


 余談だが、銀行に預ける為に残りのダンボール貯金を抱えて玄関を出ようとしたらそれだけの金額なら銀行に電話をすれば取りに来てくれるばずだと怒られ、ついでにこのお金を部屋に持ってきた時は手提げの紙袋入れて歩いて持って帰って来たのがバレてさらに怒られた。


 柚葉に連れられて街の方とは逆に閑静な方へと歩いて行った。目的もなく娘とおしゃべりをしながら歩く時間はとても有意義だった。ウチからさほど離れていない場所だったが新しい発見が多かった。


 焼きたてパンのお店でサンドイッチや惣菜パン、菓子パンをいくつかと飲み物を買って貯水池のある大きい公園のベンチ座り二人で分けて食べ始めた。


「パパ、ありがとう」


「ん? 柚葉にお礼言われるようなことあった? 俺の方が勉強の邪魔までして散歩につきわせちゃったんだからお礼を言わなくちゃいけないね」


「そうじゃないよ、パパ……」


 一度言葉を切ると上を向いて空を眺めながら、ずっと柚葉が話したかった事を話し始めた。


「ママと結婚してくれてありがとう。パパはホントは凄いお金持ちの息子で自分もお金持ちなんだから、まだ手間の掛かる柚葉がいて年上でメンドクサイ事情があるママを選ぶ必要なんてなかったんだから」


「柚葉、それは……」


「ううん、パパ。最後まで聞いて」


 俺は自分の為に夕夏と柚葉が家族になって欲しかったと伝えたかったが、柚葉の真剣な眼差しを見て俺は言葉を遮らず最後まで聞く事にした。


「最初、パパに屋敷で助けて貰った時から一緒に住んで少し経つまで変な人だと思ってた。お金持ちだから柚葉たちと違うのかな?ぐらいにしか考えてなかったけど、柚葉の面倒を見てくれてるパパがちょっと変でバカだけど、間違った事をホントに勘違いしてるだけの優しい人なんだってママも柚葉も気付いたんだ。パパとママが最初に付き合ってた時に、パパが柚葉の本当のお父さんに似てるからなんて、ママは言ってたけどあれ嘘だよ。ママは『あの人が亡くなってまだ少ししか経ってないのに、ゆうくんを本当に好きになっちゃたけどどうしよう』ってずっと言ってたもん。だから柚葉の為にパパと別れる時はママはずっと泣いてた。だけど、パパが近くに引っ越してくれたから、いつも会いに行けるって喜んでパパのとこへ柚葉と行くようになったけど、パパが入れてくれなくなった時はママすっごい落ち込んでた」


 俺は柚葉の語る言葉で胸が苦しくなるほどの罪悪感と後悔を感じていた。

 

「でもパパのお兄さん達が助けてくれたんだよ。どうにか中に入れてもらってパパと話せないか、パパのウチの前で考えてたら、お兄さん達がパパのこと心配だから調査するために雇った人が、オートロックの解除番号を教えてくれた。パパ知ってた? ウチの管理会社はおじいちゃんのところの子会社なんだってさ」


 兄貴……感謝はするけど子供扱いなのか。


「それから毎日ママ必死だった。段々嫌われてるみたいだったけど、パパは優しいから柚葉の為にもう一度付き合ってくれるかもしれないからって。だから柚葉がもう少し大きくなってママの噂がなくなる頃を目指してたけど、ママはパパより年上でもうすぐおばさんになっちゃうって、ママ焦ってた時に柚葉のパパの親族の人達が来るようになったの。ママは困ってたけど、でも凄い喜んでた。だってパパの所へ行く理由が出来たからね。そのとき助けてくれたのはおじいちゃんだよ。身内が迷惑かけてるからって」


 だから柚葉が兄貴達にお礼を言っといて欲しいと言ったり、夕夏が親父に連絡したりしてたのか。


「それからママは最後の賭けに出たの。柚葉がパパと暮らしてパパがママと一緒に住んでもいいと思ってくれるまで待とうって。柚葉は大好きなパパと一緒にいるからいいけど、ママは寂しくて毎日柚葉にパパ事聞いてたよ。でもママが30歳になっちゃったときは、もうダメかもってママ諦めてた。でもパパは優しい人だから絶対に柚葉を途中で見捨てたりしない。だから柚葉がハタチになったらママとまた二人で住もうねって。そしたらパパが段々おかしくなって、ママもドキドキしてたけど焦ったらダメってパパから何かいうの待ってたんだ。それから1年もかかっちゃったけど、ママは今本当に幸せなんだよ? 柚葉もパパが大好きだからママに取られちゃった気分だけど、本当の家族にしてもらえたから今は我慢してママに譲る」


 柚葉の目から涙がこぼれ落ちた。


「だから生まれ変わったら次は柚葉と結婚してね」


 俺は何も言えず柚葉をただ抱きしめていた。



 柚葉が泣き止むと俺は柚葉に手をしっかり握り締め、ウチに帰るために二人で歩き出した。

 二人は無言のまま歩き続けウチの玄関の前で立ち止まった。


「ごめん、柚葉。でもありがとう。俺は柚葉が俺の娘になってくれた事を心から感謝してる。柚葉はいつも俺に感謝してるって言うけど、俺はただ愛する娘にパパって呼ばれるだけで充分幸せなんだ。だから俺がしたことはただ普通のパパが娘にしてあげた当たり前の事だって思って欲しい。だからこれからはワガママ言って好きなことしてパパを困らせてもいいんだからね」


「パパ……」


「それと来世だけど……ママが俺を見つけたらすぐ結婚しちゃうかもしれないから、柚葉は頑張ってママより先にパパを見つけるんだぞ?」


「うん! 絶対先に見つけるからね」


 柚葉の目が潤み始めていたが、真剣な眼差しでそう返事するといつもの笑顔に戻ってくれた。


「柚葉……念の為に言っとくけどママには内緒だからね」



 ウチに入り柚葉の手を握ったままリビングへ向かった。

 夕夏はソファに座って何かのチラシを見ていたが、誰かが来たのに気付き顔を上げると柚葉の目が赤いことに少し驚いていた。


「おかえりなさい、ずいぶん早かったけど……柚葉、どうしたの?」


「全部パパに話しちゃった」


 俺は夕夏に近づきそのまま抱きしめた。

「あなたどうしたの?」と慌てていたが、俺は離さず抱きしめ続けた。


「あなた、本当にいったいどうしたの? 柚葉も全部話って何を…」


「俺を見捨てないでくれてありがとう。ずっと本当に俺を待っててくれたなんて」


「え? え? まさか…柚葉!? あなたしゃべったの!?」


 夕夏は顔を真っ赤にして柚葉を睨もうとしたが、既に柚葉はそっぽを向いて夕夏の顔を見ていなかった。


「夕夏、ごめん。俺がバカで勇気がなくて潔くなくて夕夏にずっとツラい想いをさせてたのも知らなくて。夕夏が俺をそんなに想っててくれたなんて……それなのに俺は自分が夕夏が好きだということしか言えなかった」


「あ、あなた……あたしはあなたをただ大好きになってしまったから、なんとか振り向いて欲しかっただけで……あたし年上のおばさんで子持ちで……あなたと一緒にいたかっただけですから……」


 夕夏は恥ずかしさのあまり小声で一生懸命に必要のない言い訳をしていた。


「ママ、今生では譲るから柚葉の大好きなパパを絶対に幸せにしてあげてよ」


 柚葉さん、俺、今、寿命が縮みましたよ。

 


 それから披露宴まで毎日が平穏にだった。夕夏と柚葉が二人で出掛けることはあるが、いつも暇な俺は柚葉と散歩したり、ゲームをしたり、本を買ってきて読んだりして過ごした。


 そしてその日は来た。


「夕夏、先に行ってていい? なんか落ち着かなくて」


「まだ、早すぎて迷惑掛かってしまいませんか?」


「大丈夫だよ。迷惑になりそうなら散歩してるから」


 夕夏に屋敷から持って帰ってきてもらったパーティー用のスーツを持ってウチを出た。

 店の近くに来るといつものとはちょっと違うが見覚えのある車が止まっていた。ドアを開けて中にいる人物に話しかけた。


「親父、早いね」


「ああ、なんかそわそわしてな。落ち着かなかったから早く出たんだ」


 うわー……俺、この人と間違いなく親子だわ。


「それで、なんでリムジンなの? 兄貴達が一緒なら分かるけど……」


 運転手と親父しか乗っていなかったので交通の邪魔としか思えなかった。


「お前たちを今夜予約してるホテルまで送ってやろうと思ってな。新婚が歩いて行ったら様にならんだろう?俺と妹の柚葉はお前の兄の車で帰るから心配はいらん」


「一部引っ掛かるとこがあるけど、ありがとな。確かに歩いて行ったらカッコつかないもんな。あ、これが親父が言ってたお祝いか?」


「ふふん。もっと高くて派手なモノを用意したぞ! 俺もまだ見てないから楽しみなんだが。まあ、お前は絶対に文句は言わないで俺に感謝するぞ。本人たちは大喜びだったそうだからな」


「たち、って柚葉にもか?」


「当たり前だろう『いもうと』なんだから」


「……言いたいことはあるけど、今日は素直に感謝するよ。親父ありがとな」


次回、待ちに待った……

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