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1-1 勘違いの関係

初投稿になります。


思いつきで始めましたが、四苦八苦しながら笑える作品を目指して書いてみました。


楽しんで読んで頂けたら幸いです。


ご意見、ご感想、お待ちしております。


誤字脱字がありましたら、ご指摘宜しくお願いします。


6/24 加筆、修正しました。


「ゆうくん、お願いがあるの……」


 朝早くからウチの玄関を嫌がらせの様に誰かが叩き続けていた。


 出たくない人物だと分かってはいたが近所迷惑になるので仕方がなくドアを開けると、予想された人物の第一声がそれだった。


「イヤだ」


「準備も出来たし、そろそろ限界だから」


「断る」


「あたしの娘はかわいいでしょう?」


 人の話を全く聞かないこの女性の名前は夕夏。28歳の一児の未婚の母でこの人の娘は俺の叔母だ。


 早い話が、俺のじいさんの愛人だったってことだ。


「柚葉はかわいいよ。すごい健気だし」


「顔も性格も母親譲りだから、本当にかわいいし好きな人も同じなのよ」


 柚葉が夕夏に似て美人なのは認めているが、似ているのは顔だけだ。


 夕夏の顔が赤いけどやはり自分の娘が恋敵なのが恥ずかしいのか?

 それ以前に柚葉が好きな人ならたぶん10歳前後だから、同じ人が好きなのは年齢的にマズイだろ。


「頼みを聞く気はないけど、用件は?」


 夕夏はいつも無理難題を押し付けては、俺の平穏な生活をかき乱していく。


 いつもは素直に話を聞かないけれど、どうせ無理やり勝手に話を進めていくのだから、今日は二度寝をする為にさっさと要件を聞くだけは聞くことにした。


「柚葉を預かってもらいたいの」


「それならいいけど」


 今までも柚葉を何回も預かっていた。

 素直で優しくて遠慮がちだが手間もかからないし、逆に掃除や洗濯、料理など俺の身の周りの世話をしてくれる9歳の女の子。

 家でも家事をやらされているせいか料理の腕は最近特に上達している。


「今回は何日ぐらい?」


 何の為に娘を預けに来るのかは知らないが、今までも数日預けに来ることはよくあった。


「11年ぐらいかしら?」


「夕夏。冗談を言いに来たのなら帰ってくれない? 徹夜でイベントクリアしてたからまだ寝たいんだけど」


「ゆうくんは相変わらずなのね。でも、それは本気なの。殆どの荷物は少しずつここに持って来てたし、残りの荷物も柚葉に全部持たせて連れて来てるから」


 いつの間にか俺の部屋に柚葉の机があったが、夕夏は鬼母だから怖くて家では勉強したくないだけかと思っていた。


 夕夏はそう言うと玄関から出て、廊下で待っていた柚葉を連れて来た。


 柚葉は自分自身が入れる程の大きいスーツケースを抱えながら玄関の中へ入ってきて俺に挨拶をした。


「お兄ちゃん、よろしくお願いします」


 いや、まだ了承してない。

 それどころか何が起こっているのかも理解してない。

 そうは思っても柚葉にそんなことは言えない。


「夕夏、その前になんか言うことないの?」


「正直に言うなら預かってくれます?」


「それは無理だな」


「じゃあ、言わないですけど、お願いだから預かってもらえません?」


 再度否定したかったが、柚葉のションボリした顔が見えたので仕方なく話を聞くことにした。


「それは聞いてから考える。仕方ないから中で話を聞くよ」



 ウチは高級ではないがそれなりに優良マンションの2階にあり、間取りは1LDK。

 なぜかエントランスにあるオートロックの管理人用解除コードを夕夏は知っているので勝手に入って来ては玄関のドアを叩く。


 エントランスの他にもウチの玄関にはインターホンというモノがあるにもかかわらずだ。


 まあ、それらを鳴らす人はネット通販jamayonの配達員か夕夏しかいない。

 だからネットで何も注文をしていないときは、夕夏しか鳴らす人がいないから無視できる。

 そうしたら、こんな暴挙に出るようになった。


 部屋には俺のパソコンデスクとベッドの他に、柚葉の机と夕夏も一緒に寝られるほどの大きさのベッドがもう一つある。


 夕夏はダメだと言っても勝手に起動中のパソコンをいじり、男として見られたくないモノが入っている俺のお気に入りファイルを探す。

 だからウチの中には、本当は入れたくないのだ。


 見つけるたびになぜか安堵した顔で「良かったー。新しい彼女が出来てたらこんなモノは必要ないもんね。ゆうくん、あたしで良ければいつでも相手してあげるから」と、嬉しそうに言ってくるが余計なお世話だし、昔は夕夏の本性を知らなかっただけで、こんな鬼嫁を貰ったら俺が可哀想過ぎだ。


 俺はじいさんの若い頃に顔が似てるから、もしかすると元サヤに戻りたいのかもしれないがそれは出来ない。



 俺は二人をリビングのソファに座らせた。


 多少散らかってはいるが15畳程の広さのリビングには、50インチのTVと二人掛けソファが2脚とソファテーブル、俺には必要ないが柚葉と夕夏が料理を作るから4人用でデザインの洒落た食卓テーブルセットがある。


 カウンターの向こう側にシステムキッチンがあり、夕夏がいつの間にか揃えた食器や料理器具などが置いてある。


 しかし、俺にはお湯を沸かすポットと弁当を温める電子レンジ以外は生きて行くのに必要がないので自分から触ることはない。


 俺はTVの前にあるゲーム機とその周りにちょっと散乱しているゲームソフトや脱いで丸めてあった洗濯物、カップラーメンやコンビニ弁当のゴミなどたかだか3日程度の生活の跡を壁際に寄せて、夕夏達の向かいに置かれたソファに腰を沈めた。


「柚葉がおウチに帰ってからまだ3日しか経ってないのに…」


 多少散らかってはいてもこれだけ広いのだからなんの問題もない。

 それに柚葉はいつもウチに来るたびにすぐ掃除をしたり洗濯をする癖がある。


 生活スペースはまだあるのだからそんなことをする必要はないと言っても「柚葉がやりたいからやってるだけ」と言うのでやらせてあげている。まあ、実際少し助かるけど。


 だからまた片付けたり掃除したくなっているらしく、柚葉はそんなことを呟いた。



「それで?」


 俺はとんでもなく長いあいだ柚葉を預かって欲しい理由を夕夏に尋ねた。


「これは本当に大事なお願いなの」


「早くしてよ。今日はバイトもあるんだから」


「必要ないくせに……」


「人は働かないとダメになるだろ。俺はニートや引きこもりじゃないから立派に働いているしコンビニで買い物をしてちゃんと生活をしている!」


「はいはい。本当に変わらないね、ゆうくんは。あーあ、あのとき別れちゃって残念だったわ。もう少しあたしが頑張っていれば……」


 俺は別れてから夕夏の本性を知ったから正解だったと思っているからな。


「それで、話というのは遺産のことなんだけど…」


 俺のじいさんは、とある巨大企業の会長で旧財閥の一族でもあり畏敬を持って総帥と呼ばれていた。

 3年程前に有数の資産家でもあったじいさんが急死して、唯一の息子だった俺の親父が跡を継ぎ、社長のまま総帥と呼ばれるようになった。


 俺は三男だが跡を継いだのが親父だったから、超高額の相続金のほかに人が羨望して止まない量の株が自分名義になった。


 そして、決まっていた取締役就任を辞退して経営に参加しない代わりに持ち株をさらに増やしてもらった。


 私生児だが認知されている柚葉にも相続分はあったが、信託扱いで柚葉がハタチにならないと受け取れない。


 柚葉の現金相続分は税金を引いて2億程度だが、そのほかにウチの株もあった。

 それは俺には及ばないが、それでも大株主と呼ばれるほどだった。


 土地、建物等を含む遺された大半のものが跡目である親父が相続し、その後継者の二人の兄貴達もそれなりのモノを受け取っていた。


 親父と兄貴達、それと俺で相続出来るモノのほぼ全て受け取っているので、ほかの親族には大した額は相続されなかった。


 そうは言っても巨大企業会長で有数の資産家が遺した大したことはない額である。

 実際にはかなりの額のはずだが、柚葉の相続分はそれを大幅に上回った。

 株を含めた実質の額は俺の次に多く、当然親族の嫉妬は激しく嫌がらせも酷かった。


 現金として数十億相続したが、俺の持ち株の価値はそれを遥かに凌駕している。

 それに及ばすとも莫大な価値を有する株数を相続する柚葉は、とんでもない資産家で現金2億などオマケでしかない。


 柚葉が相続出来る年になる頃には株の配当金が信託に加算されているのだから、幾らになるかを考えたらほかの親族の嫉妬は尋常ではないはずだ。


 親父は「まあ、いくつになっても男はそんなもんだ。遅い年になってから生まれた女の子が可愛かったんだから仕方がないさ」と、親子以上に年の離れた異母妹に含むところは無い様に見え、兄貴達もなぜか男として分かるらしく何も不満は言わなかった。

 まあ、当然二人とも柚葉を遥かに超える額を受け取っていたしな。


 俺は男三人兄弟だから姉や妹がいないし結婚もしていない。

 だから親父や嫁と子供がいる兄貴達の気持ちは分からなかったが、自分の分はちゃんと受け取ったのだから俺自身も不満はなく、他人の相続分のことなど気にならなかった。


 その時はまだ屋敷に住んでいて、当時6歳の柚葉と頼りを失った夕夏はウチの屋敷がある敷地内に建てられている別宅に住んでいた。


 そして親族達から針の筵にされていた夕夏達を見兼ねて俺が庇ってやった。

 可哀想だという気持ちもあったが、実際は自分のウチの近くでそんな事をしてる親族がウザかったからだ。


 俺はそのとき既に21歳で全ての相続分は受け取り済み。

 総帥の息子で大株主でもある俺にとやかく言える親族などいるはずもなく、渋々という感じではあったが、夕夏達から手を引いた。



 いつも思うのだが、夕夏はなぜかお金には興味がない。


 だから、夕夏達はここを出て行きたくても、将来はともかく今はすぐにどこかで部屋を借りて柚葉と生活出来る程のお金を夕夏は持っていなかったし、実際じいさんにも金をせびる事はしていなかった。


 親父達は何も言わなかったので夕夏達はそのまま住んでいることも出来たが、いずれまたロクな事が起きないと思ったので俺がお金を出し、屋敷から離れた場所に部屋を借りて引っ越しをさせた。


 しかし知らない土地で小学校に通うことになった1年生の柚葉の世話をしながらすぐ働くなど難しいだろう。


 生活に必要なお金だけ渡そうかと思ったが、無責任の様な気がしたので夕夏が仕事を探して働き始めるまで俺が柚葉の面倒をみることにしたが、結局は一緒に住むようになった。


 そして、夕夏と俺はそういう関係になった。

 自分のことを棚に上げて夕夏の貞操観念について聞いたこともあるが、夕夏は俺がじいさんに似ているから全く罪悪感は感じないと言って俺に抱きつきながら笑っていた。


 とは言ってもじいさんの愛人だった夕夏といつまでもそんな関係を続けるのは、柚葉の為に良くないので半年程で別れた。


 俺はその近場で別のマンションを買った。

 そうしたら夕夏はウチに遊びに来ては無理難題を言うようになり、2年半経った今もそれが続いている。。


 1日3時間、週に2日も働いて疲れている俺に柚葉を預けるのは俺も助かるからいいとしても、柚葉と一緒に三人で遊園地や映画、デパートの屋上などに行きたいと言い出すようになった。

 ほかには夕飯の買い物に付き合わせたり食事を作るのを手伝わされたこともあった。

 

 一番ヒドイのは、柚葉が町内会主催のお泊まり会で家に居ない日があるから、そのとき二人で旅行に行こうだなんて言い出したときだ。

 そんなの母親失格だぞ!



 遊園地や映画館など人の多い場所は、子供が迷子にならないように母親が面倒をみるのが当たり前なのに、その役目を俺に押し付けるなんて。


 食事は母親が子供の栄養バランスを考えて自分で買い物して作るのが当然なのに、それを俺に買い物につき合わせ、しかも食事を作るのを手伝わせるなんて言語道断だ。


 まして、子供の留守に家を母親が守るというのは常識だろ!


 だから柚葉はまだ小学4年生なのに家事がちゃんと出来てしまう、こんなしっかりした子供なってしまったんだ。


 しかし、俺が柚葉を預かるときは、自分でしっかり面倒をみてやれるから安心だ。


 柚葉は他の4年生の子供に比べると身体が小さい。


 柚葉を預けるときに夕夏は俺のウチで色々と料理を作り置きしていき、「出来れば二人でこれ食べてね」と複雑そうな笑顔で言ってから出掛けて行くが、そんな作り置きより近所にあるネットで話題の店の出来たてオーダーケーキや、ネットで買った高級店のチョコレートの方がカロリーという栄養価が高いはずだ!


 夕夏の作り置きも美味いから全部食べるが、食後はいつも柚葉にちゃんとケーキやチョコレートを出してあげている。


 しかし、柚葉は「甘い物は沢山食べたらダメってママに言われてるから」と、せっかくたくさん栄養を取らせてあげようとホールのままで出したケーキを少ししか食べない。可哀想に……夕夏、お前はなんて鬼母なんだ。


 食事のあとは、ちゃんとお風呂にも入れてあげている。


 ウチのお風呂は俺と柚葉が足を伸ばして一緒に入っても、まだまだ余裕があるほど広い。

 柚葉を預かった時にお風呂で遊ばせてやる為に改装したのだ。


 なのに、夕夏は柚葉を連れてウチに来ると、俺と柚葉が遊んでいる風呂場に乱入して来て柚葉が遊ぶスペースを小さくする。


 しかし、柚葉を預かっているときは夕夏の邪魔が入らず遊べるからと思って、俺が遊ぶスペースを大きくしてあげても、全然遊ぼうとはせずに、俺に抱きついたまま「ホントのパパになってくれたら嬉しいのに……」と言って寂しそうな顔をする。


 確かに俺はじいさんの若い頃に似ている。

 柚葉は夕夏からそれを聞いているはずだから、本当のパパであるじいさんを思い出して寂しいのだろう。


 それは夕夏が三人で湯船に浸かるたびに「なんかホントの家族みたいだねー」なんて嬉しそうに言うからだ。


 そんなことがずっと続き、別れてから夕夏がこんなにヒドい女だと初めて気がついた。


ゆうのおバカが続きます。

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