忠犬キュウ
気がつくとあたしは寝ていたみたいで霞む視界の中は夕日色だった。
『‥そもつくろえず言葉になる‥足りないなら‥つめてよ‥』
佐原くんが歌ってる。階段によりかかった体を起こして佐原くんを探した。
『‥‥はよ』
佐原くんはあたしのすぐ上にいた。
「うん,はよん‥ふあッ」
しばらくして佐原くんは突然立ち上がって屋上を出ていってしまった。あたしはキュウを抱いて佐原くんのあとを追っかける。
「あ,あたし‥ちょ,鞄取ってくるから待って!」
慌てて教室に入った。鞄を取るときあたしの机の上に『さき帰ってるよ!莉子サマ』と書いたメモがおいてあった。あたしはそのメモをポケットに入れて窓に身を乗り出す。
門の所に佐原くんが立っていた。あたしは走って階段を降りて佐原くんの所に向かった。佐原くんは25メートルくらい先で再び歩き始めた。でもゆっくりだったからすぐに追いついた。
あたしは佐原くんと2メートルくらい間を開けて並んで歩く。
学校を出て,坂道を下って細い路地に入った。
路地を出て,国道に出た。ここら辺で一番大きな道路だ。
腕の中でキュウがむずむずした。勘でちょっと戻った所のコンビニからビニール袋をもらった。
戻ってくると予想通り立派なウンコだった。キュウは胸を張って和んだ顔をしていた。
佐原くんはすでに国道を横切る横断歩道の向こう側。でもちゃんと待っていてくれた。
あたしは信号が青になるのをまった。
すると突然キュウがほえだした。
キュウは慌てて横断歩道の向こうにいる佐原くん目がけて走り出す。
トラックも気にせずに。
「‥‥え?」
きっとあたしは佐原くんと同じ事を思った。
「‥キュウ!!」
『‥!!』
たくさんの人が横断歩道を埋めつくす。
トラックは避けようとして信号機に激突し,煙を吹いていた。
トラックの荷台に乗っけられた鉄パイプは道路に転がって,そこにキュウの姿はなかった。
―『ワン!』