噂のあたしら
―キィィンッ
家から苦労して持ってきたスピーカーが気合いを入れた。
時刻は午後6時ちょい。
あたしの準備は出来た。佐原くんはとっくに出来ている。
窓ガラスごしに佐原くんとアイコンタクトをとってあたしは赤いエレキギターを構える。
―そして,弦を勢いよく撫でた。
静かだった教室に派手にエレキギターの音が響く。あとはあたしの指が佐原くんに合わせて動くだけ。
―『新たな旅立ちにmotorbikeオンボロに見えるかい?handleはないけれど曲がるつもりもない‥』
窓ガラスごしに見た佐原くんはすごく楽しそうだった。
言うほど一緒にいるわけじゃないけど,あんな楽しそうな顔,初めてみた。
見てるあたしや莉子までいつの間にか笑顔になっていた。
『あの調子なら文化祭は心配ないね〜』
「マジだあー。佐原くんが了解してくれなかったらあたしの未来予想図は‥」
『未来予想図?』
「‥ん。まあ,とにかくあんな歌声してるんだし,いい人に決まってんじゃん!」
『それはもう聞き飽きたっつ-の』
『僕たちは自分の時間を‥動かす歯車を持っていて‥』
佐原くんは気が付いているのかわからないけど,いつの間にか教室の後ろの方に男の子たち数人と前の出入口に女の子たちが何人かいた。
佐原くんの歌声とスピーカーから流れる音に混じって
あの人すごい
うまくない?
ヤバイねえ‥
って聞こえてくる。
ここはステージじゃないし,明日香サンみたいにファンがいっぱいいるわけじゃないけど,一瞬夢が叶った気がした。