桜の季節
高校1年の3学期はあっという間に過ぎ。私は2年生になった。
2年生になるとクラス発表があった。親友の彩音はクラスのメンバーを見て一喜一憂している。
私はそんなテンションになれていなかった。
あの日以来、なんだか時間だけが過ぎていくような。不思議な時を過ごしていた。
「小春!笹川君が一緒だったよ!やった。ついてるー。」
彩音は気になる人の名前を見つけ、すごいはしゃいでいる。
彩音を見てると、私まで楽しくなってきそうだった。彩音からは元気をたくさんもらっている気がする。
「どうせ、また声かけられないでしょ?」私は彩音をからかう。
「違うよ!今度はちゃんと私から話すんだから。2年生になって変わるんだから!げ!見て。」
「今度はなに?」
「風間君も一緒のクラスだ。」
「かざまくんって?」
「え?小春知らないの?サボり魔とか、不あ立って有名じゃん!」
「そうなの?知らないけど。」
「もう。小春は興味ない人にはとことん興味ないよね。」
「はは。ほら、もう行くよ。」と言い、私は教室にかけていく。
「あー待ってよ。」慌てて彩音も追いかけてきた。
ドン。
「痛っ。ご、ごめんなさい!」
前をちゃんと見ていなかったせいか、廊下で男子生徒とぶつかってしまった。
「立てる?ほら。」
そういってその男子生徒はしりもちをついている私に手を差し伸べた。
その手を掴むと、グッと手を引かれ持ち上げられた。
「ありがとうございます。」
「別にいいって。気をつけなよ、じゃあ。」
そう言うと私と逆方向に歩いていった。
ちょっとしてから、彩音が後ろから追いついてきた。
「小春!大丈夫?怪我ない?」
「大丈夫だよ。それよりあの人…」
「ほんとに?あの人があれだよ。さっき言った。風間君。」
彩音は私の声をさえぎって気が気でないくらい心配している。
「大丈夫だって。彩音心配しすぎ。」
「だって、ほんとに良い噂聞かないもん。風間くんって。」
「たかが噂でしょ~。教室入ろ。」
教室に入ると横から声をかけられた。
「松内じゃん。久しぶり。クラス一緒なんだ!これからよろしく。」
そう言ってきたのは菊池くんだった。
実はあの日以来、菊地くんとは仲良くなった。
1年のとき菊池くんは隣のクラスの中では割と有名な人だったらしい。告白も何回かされている。
確かに顔は整っているし、性格も基本明るい。誰かと付き合えば良いのにと思うけど、その話をふるといつも「他にやりたいことあるし、今はいいかな。」なんて言って話を終わらせようとする。
私もあまり突っ込みすぎるのはどうかと思うから、話はここで終わる。
チャイムが鳴り先生が入ってくると、皆は適当に席に座る。
先生はすぅと息を深く吸った。
「はい。じゃあこれからホームルームを始める。」
先生は少し新学期に向けたことを離すと、出席を取り始める。
「風間。」
・・・。
「ったく。」
一瞬の間のあとまたすぐに次の人の名前が呼ばれていく。
長めのホームルームが終わると、体育館で始業式を行う。
その後教室で解散。下校なり、部活なり各自が各々の行動をとり始める。
気の早いクラスの何人かは集団を作って、どこかに遊びに行く話をしていた。
そのうちの一人が私と彩音にも声をかけてきた。
「ねぇ。二人ともこのあと暇だったら、クラスの皆で遊びに行こうよ。」
「いや私は…」
私が断ろうとすると後ろからグイッと袖を引っ張られた。
後ろを向くと、彩音が恥ずかしそうに目線で何か訴えている。
集団の方を見ると、彩音が言ってた笹川君がいた。なるほど。
「うん。私たちも参加させて。」
「オッケー。よっしゃ、人数も集まったし行こうか。」
誘ってきた男子は皆をまとめて教室をでる。
私たちはカラオケに行った。集まったのは10人くらい。
カラオケでは彩音は笹川君と初めてしゃべることができて凄く楽しそうにしていた。
私も普通にカラオケを楽しんだ。
「あ、やばい。」
「どうしたの小春。」
「お母さんに買い物頼まれてたんだった。ごめん私先に帰るね!彩音はもうちょっといなよ。」
「え、でも。」
「せっかく笹川君と話せるチャンスなんだから。無駄にしちゃだめ。」
そういって一人分の料金を渡して、店をでた。外にでると身体がぶるっとした。少し雲がでて雨が降りそうな天気だ。
「やっぱまだ寒いな~。雨とか降んないうちに帰りたいな。」
私は駆け足でスーパーに向かった。
買い物を終えてスーパーを出ると、ぽつぽつと雨が降ってきた。
「うわ~。どうしよう。」
雨のあたらない位置で立ちすくんでいると、「あ」と聞きなれない声が後ろから聞こえた。
振り返ると、スーパーの袋を持ち驚いた表情の見覚えのある男子がいた。
「あ、かざまくん、だっけ。」
「そうだけど、ええっと、あ!今朝ぶつかった子だ。大丈夫だった?」
「一応同じクラスらしいんだけど。」
「え、そうなの。わりぃ名前知らなくて。」
「いいよ。わたし松内小春。かざまくんも買い物?」
「松内ね。覚えとくよ。まあ買い物だけど。変か?」
「ちょっとね。意外な感じ。だって風間君って悪いうわさで有名なんでしょ。」
「ああ。あんま学校言ってないからな。怖くないの?俺のこと。」
「全然。だって転んだとき手かしてくれたし。」
「はは。そりゃ誰でも貸すだろ。」そういって風間くんは自然に笑顔を見せる。
その笑顔に私は一瞬ドキッとしてしまっていた。
いや、そんなんじゃない。だいたい今日知り合ったばっかだし。
「そ、それより雨強くなってきちゃったね。」
「俺傘もってるよ。」
そういって折りたたみ傘をだして広げてみせた。
ばさっと開かれた傘は期待とは裏腹に一人しか隠れないようなちいさなものだった。
風間くんの背が大きめの方なので、傘のギャップに思わず、プッと笑ってしまった。
「はは、これ、風間くん一人でもきつそうだよ。」
「笑いすぎ。今はこれしか無いんだから、贅沢言うなよ。」
そういって傘を私の上にさしてくれた。
「私右だけど、かざまくんは?」
「俺も右。」
「それだと、風間君かなり濡れちゃうよ。」
「いいよ。レディファーストで。」
「ははは。紳士なんだね~。」
「なんか馬鹿にしてる?」
ちいさい傘をさして、私たちはスーパーを出た。
風間君はすごい濡れてた。私も濡れたが、風間くんのおかげで最小限にとどまっている。
そして、たわいもない会話をしているうちに私の家についた。
「ありがとうね。ここまで送ってくれて。」
「いや、俺もこっち帰り道だし。じゃあ」
「あ、待って。そんなに濡れてたら家着く前に風邪ひいちゃうよ。うちのシャワーかしてあげるから、あがりなよ。」
「いや、大丈夫。」
私はとっさに、背を向けて帰ろうとする風間君の腕をつかんだ。
「いーから。いーから。」
「おねーちゃんおかえり!・・・て!ええええ。誰だれだれ?誰そのひと!」
「クラスメート。」
「あ、お邪魔します。(なんかごめんなさい、なりゆきで)」