Newマジック……めんどいなぁ
異分子というものがある。これは、自分たちの領域を侵し、しっちゃかめっちゃかにしていく存在のことだ。境界内に入ったが最後、俺たちはその存在に蹂躙されるしかないのだ。
今回の件については、アオと呼ばれる少女の存在が、異分子に当たる。この間の二人組については、旅人という事もあって、そこまで深く踏み込んでくることもなかった。しかし、今回は違う。というか、立場的な感じが違う。二人は教師、今回は家族という感じに組み込まれたのだ。これは全然違う、全く持って違う。何もかも違う。
境界内に、人が入ってくるという事だけでも、かなりの負担になる。それが、変な人間となると、段違いだ。それは俺の元の世界でも証明されている。俺の家族は、耐えられなくて、壊れてしまったようだし。
俺と、アオ、二人の人間が入ることで、この家族に与える影響は、考え付かない。俺は、学習したので、今は抑えているが、アオは天然だ。天然の害悪だ。これはどうしようもない。
だから、俺が、どうにかしてコントロールしなくちゃだめだ。そうしないと、この家族はいずれ崩壊する。二回も家族を崩壊に導くのは俺としても嫌なものがある。
さて、どうしようか? でもどうしようもなくね? あんなの俺にはコントロールできる気がしないしね。そうは思わんかね?
「今日は、どうしようかねー」
午前の剣術を終え、午後の時間を持て余してた。ふーむ、部屋でうだうだしていても埒が明かない。外にでも出てみようか。
「ふーむ、そういえば、エリナが伸び悩んでいるとか言ってたな」
魔法で分からないところがあるとか言ってたな。まぁ、今日はエリナさんに一日を使うのもいいのかもしれない。
じゃあ、今日はエリナの手伝いでもしますか。だったら、エリナの部屋にでも行くのが良いかな。どうせ部屋に居ると思うし。
「あら、私には構ってくれないの?」
「お前は、ないな」
「あら、酷いわ。こんなに近くに居るのに、遠くに感じるわ」
「もう、お前とは関わりたくないんだよな。お前が嫌すぎて夢に出るぐらいだよ」
「あら、夢の中でも、現実でも一緒だなんて最高じゃない」
「最悪だよ。現実でも会いたくないのに、夢でも会わなくちゃいけないなんて」
「あら、それは私に夢中ってことかしら?」
「僕自身が霧中って感じだよ」
「それは自分を見失いそうぐらい、私が好きってことね」
「その、ポジティブさが何処から来るのか、僕は本当に謎だよ」
「で、今日は、何をするの?」
「今日はエリナさんの教師役でもしようかなと思いまして」
「あら、教師と生徒のいけない関係なのね」
「そうなればいいんだけどね。僕たちまだ子供なのよね」
「そうね、いつだって子供は蔑にされるのよ」
「嫌な時代だぜ」
「ええ、でもあなたに出会えたからハッピーよ」
「僕もハッピーだぜ。マイハニー……うえ」
吐きそうになる。俺も冗談は選んでやらないとダメだな。相手をからかうための冗談で、俺がダメージを喰らっていてはしょうがない。
「さて、エリナの部屋までついたわけだが、どこまでついてくる気なん?」
「墓場まで」
「ごめんな、僕の墓一人用なんだ」
「あら、それは一人用に、ぎゅうぎゅう詰めで、一緒に入ろうという、間接的な告白?」
「いや、直接的な拒絶って母様、どうしたんですか?」
俺たちの前には、この世界の俺の母親である、リオナ・リングスの姿が見えた。
「あら、アルトとアオちゃんじゃない。あなたたちこそどうしたの?」
「いえ、僕は、エリナの魔法でも見てあげようかと」
「あら、それはいいことねぇ。私も一緒に見ようかしら」
「あの、母様は、たしか今日は大事な用事があるとか言ってませんでしたか?」
「うーん、あったような気がするけど、多分大丈夫よ」
今日は、村長との会談があるはずだ。それのために、夫婦そろって、午後は村に集合だったでしょう。
「本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫よー」
ああ、かわいそうに、アルバは、一人でお話合いに行かなくちゃいけないようだ。まぁ、アルバもこういう事には慣れているだろうが。
「じゃあ、リストも誘っていくわねー」
「はい、庭の方で、待っていますね」
さて、どれくらいの確率で来るだろう? 俺の予想では、リストのとこまでに忘れるのが半分、リストと喋りながら忘れるが半分かな。あれ? 来る確率ゼロじゃね?
まぁいっか、別にいても居なくでも一緒だし。さて、そろそろ、エリナの部屋だが、どんな誘い方をすべきか。
「さて、エーリナーちゃん、あーそびまーしょ!」
昔懐かしく、由緒正しい方法で、エリナを誘ってみました。うん、やっぱなんかしっくりくるね。携帯で遊びの日時を決めるなど言語道断だ。お昼食ったら、公園集合でいいのだ。
「もう、うるさいな。そんなに大声出さなくても分かるよ」
「ほら、行くよ」
「え? どこに?」
「まだ見ぬ宇宙の果てを見にだよ」
「えっと? 何言ってるのかわかんないよ? 宇宙って何?」
「はぁ、冗談は置いておいて、魔法の練習でもしに行こうか」
「なんだ、じゃあ最初から言ってよ。ってアオちゃんも一緒なんだ」
「うん、なんか気づいたら後ろに居た」
「うん、気づかれないように後ろについて行った」
道理で、気づいたら後ろに居るわけだ。まぁナチュラルに受け入れる俺も俺だが。
「じゃあ、レッツらゴー」
俺たちは庭に向かって歩き出す。
「ねぇ、アオちゃん。この家には慣れた?」
「ええ、とてもよくしてもらっているから大丈夫よ」
「よかった。みんな優しいもんね」
「一人優しくない子もいるけどね」
おい、なんで俺を見る? こんなにも慈愛に満ちた人間は居ないぞ?
「まぁ、アルトは意地悪だもんね」
おい、泣くぞ? そんなに俺は酷い人間か? 別に、少しぐらいふざけるぐらいいいじゃないか。それが、一般人には受け入れられないってだけで、ただのジョークなのだ。冗談も言えない大人にはなりたくないね。
「そうね、でもまぁ、そんなところもかわいいと思うけどね」
「そうかなぁ?」
なぜ疑問形なんですか、エリナさん。こんなに愛くるしい人間は他にはいないと思いますよ、ええ。
「まぁ、アルトのことは置いておいて、どう? 何か思い出したことでもある?」
「いいえ、ちょっと思い出しそうにはないわね」
「そう、無理しないでね」
「ええ、ゆっくり思い出すわ」
俺としては、さっさと思い出して、どっかに行ってほしいのだがなぁ。
「ほら、もう着いたよ」
俺たちは、屋敷の庭へと着く。この家の庭は結構広い。そりゃあ、サッカーは出来ないけど、ドッジボールぐらいならいけるだろう。そして、裏は、雑木林となっていて、さらに広さが際立って見える。
「じゃあ、どこで詰まってるの? 別に中級ぐらいなら、難なく発動ぐらいできるよね?」
一応、エリナも優秀な方らしい。六歳にして、中級魔法を使えるのなんてのは、一掴みぐらいらしい。まぁ、俺が優秀過ぎただけってことだな。
「初級とか魔法を発動させる呪文があるよね?」
「うん、ウォーターボールとかだろう?」
「そう、でもあれって無駄が多くない?」
まぁ、無詠唱でできる俺からしたら、無駄だらけとしか言いようがないけど、それ以外にやりようがないんだから、しょうがないと思うけどな。
「アルトの魔法を見てるとそう思うんだよね」
「でもしょうがなくない? 呪文以外だったら、魔機を使わなくちゃいけないんだし」
「でも、同じ魔法だよね? 何とかならないかなぁ」
前も言われたが、魔法の呪文が長くなるのは、魔法を処理するために、言葉の力を使わなければいけないからだ。故に、大きな改変を行う、高度な魔法になっていくと、言葉の数が増えていくのだ。
ウォーターで水を発生させ、ボールで玉状にする。これはどうしようもない発動手順なのだ。これも魔法の処理手順に関係することだしな。ウォーターボールで、水玉を発生させることは出来ないのだ。
「うーん、難しいんじゃない? 言葉を言わないと、魔法はどうしようもないんだから」
言葉がなければ、魔法を処理できない。処理できない分は、術者に降りかかる。最悪の場合は死に至るとも言ってたな。だから、適切な言葉で、適切な魔法を発動させなければいけないのだ。
初級は一言、二言。中級以上は、二語以上。上級に至っては十程度の言葉を紡がなくてはいけない。魔法は、大きく分けると、基本呪文と呼ばれるものと、強化語と呼ばれるものがあって、ウォーターボールなどが基本呪文。中級以上になると、その前に一言つき、爆ぜろ、ファイヤーボム、降り注げ、サンダーレインなどその呪文に対応した強化語を付けなければいけない。
この法則に例外はなく、単純と言えば、単純なのかもしれない。だが、単純すぎて、何の小細工もいれる余地がない。
「無理だと思うよ?」
「そうかなぁ?」
「無理じゃないんじゃない?」
「え?」
いきなり、口を開くアオ。どういう事だ?
「だから、別に処理さえできればいいんでしょう? だったら、ウォーター、の魔法を処理できる言葉を探せばいいじゃない?」
ふむ、要するに、魔法を発動させる意味と、処理能力さえあればどんな言葉でもいいという事か。一理あるな、しかし、それは不可能に近い。
「言葉なんて、何十何百って無限にも近いぐらいあるんだぜ? その中から、ぴったしの意味を見つけるのは不可能だろう」
見つかってないから、今の呪文以外ない訳で、他の言葉でいいなら、もっと色々な方法で、魔法は発展しているだろう。
「そこらへんは頑張りなさい」
何とも適当な女だ。しかし、無理だろう。そんなのは不可能に近い。う○こが、ウォーターとかだったらどうするんだ? 俺はそんな呪文認めたくないぞ?
「ねぇ、できないの?」
上目遣いはやめてくださいエリナさん。できないことは出来ないんです。無理なんです、できなくなくなくないんです。あれ? これじゃあできるのか出来ないのかわかんねーな。
「はぁ、しょうがない。頑張るよ、頑張ればいいんでしょ」
でも、どうすればいいんだ? どうやったら、もっと効率よく、スピーディーに発動できるんだ? どうすれば呪文を変えられるんだ? 呪文? 今の呪文はなんで英語なんだ? いや、正確には違うだろう。しかし、俺の耳には、俺の世界の英語のように聞こえる。同じような世界だから、文字体系も同じような進化を遂げたという事か? じゃあ、このウォータボールを、俺たちの言葉にしてみればいいんじゃないか? わざわざ、長くウォーターボールなんて言う必要ないんじゃないか?
「試してみるか……水玉!」
俺は呪文を唱え、魔法を発現させる。そうすると、俺の目前には一つの水の玉が出現していた。そうか、同じような意味ならば、大丈夫みたいだ。クソッ、俺の脳はかなりRPGに侵されていたようだ。いや、でも思うよね? 呪文なら英語だよね? なぜか違う世界のはずなのに、英語っぽいと納得しちゃうよね? ね?
「また呪文を唱えないでやったの?」
「違うよ、唱えたじゃん呪文」
「え? だって呪文らしきものは……」
「水玉って言ったじゃん」
「水玉? それでいいの?」
「うん、ウォーターボールは水の玉って意味なのに、失念してたよ」
「え? ウォーターボールって水の玉って意味なの?」
え、この世界では違うのか?
「え、だって、ウォーターボールって言ったら水の玉が出てくるじゃん」
「出てくるけど、そういう意味だっては知らなかったよ」
ふむ、やはり、英語が存在している訳ではないようだ。まぁ、そりゃそうか、こんなに違う世界なんだから、同じような言葉はあっても、同じような国はできないか。
「ふむ、まぁいいか。多分発動できると思うから、頑張って」
「うん、じゃあ唱えるよ。水玉!」
エリナの指の先に出現する水の玉。どうやら魔法は正解したようだ。しかし、なんかカッコよさが半減以下だな。いや、効率的でいいんだけど、なんか腑に落ちないなぁ。
「あら、頑張ってるのね」
「私は、まだ仕事があるんだけど、ってリオナ聞いてるの?」
「聞いてるわよぉー、で、なんだっけ?」
「はぁ、もう」
リオナに引きつられ、屋敷の奥からやってくる二人。やはり、二人ともかわいい部類だな。これが親だというのがもったいない感じだ。まぁ、そういう感情は生まれてこないのだが。
しかし、なんか、振り回されてるなぁ。でも、その姿が似合っているというか、なんというか、多分昔から苦労しているんだろうなぁ。
「ねぇねぇ、お母さん! アルトが凄いんだよ!」
「ん? どうしたの?」
「アルトがね、呪文を短くしちゃったんだよ!」
「え?」
驚きの表情を浮かべるリスト。え? そんなにヤバいことしちゃった? 俺としては、別に普通のことをしただけなんだけどなーチラッ、あれ? そんなにすごいことしちゃったの? まぁ俺には普通の事なんでけどなーチラッ(ミ○サワ風
「見ててね、水玉!」
またさっきと同じように、魔法を発動させるエリナ。
「は?」
なんかすごい顔をしてらっしゃるよ? そんなにヤバいことしちゃった? 俺、マジでいけない感じなの?
「これは……」
「ええ、これは大変ね」
「どうしましょう?」
「私たちには、どうしようもないわ。うーん、アレンさんが居ればよかったんだけどね」
「本当に機会が悪い人間ですね。一応、有名人らしいので、手紙でも出して、意見をもらいますか?」
「そうね、多分そのうち見つかるでしょう。冒険者ギルドの方に手紙を送っておきましょう。魔法使いのギルドの方にはいかないでしょうね、でも一応出しておきましょう」
「ええ、じゃあ、早速手紙を出しておきます」
なんか、思った以上に大ごとだな。これは、アオのせいにでもしておこうか。
「ごめんなさいアオがやれって……」
「これは誰にも見せてないですよね?」
「え? あ、はい」
「いいです。これは絶対に人の前ではやっちゃだめですよ。分かりましたね?」
「はい」
「エリナもです。良いですね」
「はい、分かりました」
リストに強く釘を刺される。ふむ、これはヤバいらしい。俺も、あまりめんどくさいのは嫌なので、黙っていよう。
「では、少しその魔法を聞かせてください」
「はい、りょーかいです」
あーあ、俺は普通に暮らしたいだけなのに、なんでこうなるかなぁ。クソッ、これはアオのせいだ。アオのせいなんだ。
あーあマジでめんどくさい。