運命的な出会い?
「あ、もうだめだ。倒れそう」
辺境の町の近く、二人組の旅人が歩いていた。
「ねぇ師匠! もうちょっとだから頑張ってください!」
師匠と呼ばれた男は、今にも倒れそうになっていた。
「もう無理だよ。レイス、僕はここまでのようだ」
レイスと呼ばれた女性は必至に、もう一人の男性を支え続ける。
「ちょっと、こんなのところで倒れないでください! ああもう! だから言ったじゃないですか、人は食べないと生きていけないんですよ!」
「何をいってるんだ! 僕はレイスの裸体さえ見れれば、もう三日ぐらい歩けるよ」
「もう、バカなことを言ってないで歩いてくださいよー、私だって限界なんですから!」
「いやー、もうだめかも。僕はここまでのようだ。これから先は君だけで生きてくれ。世界の謎を解き明かす使命は任せたよ」
「死なないでください! というか世界の謎なんて追ってませんし!」
「何を言ってるんだ! 僕は女性の裸体の神秘を解き明かすまで、死にはしないさ!」
「そんなどうでもいい理由で、生き返らないでくださいよー。というかそんな目的のためなら死んでくださいよ」
「なにっ!? 師匠に向かって死ねとは、酷い弟子だな。乳揉みの刑に処すぞ?」
レイスに負ぶされている状況なのに、口だけは達者な、師匠と呼ばれる男。
「知りませんよ! というか揉む元気があったら、歩いてください!」
「揉む元気はある、しかし歩く元気はない!」
「なんでそんなに誇らしげなんですか、そんなに変態自慢されても知りませんよ!」
だんだんとよろけた足取りになるレイス。男を背負って歩くには彼女は華奢過ぎた。男もあまり体格の良い方ではない。いやかなり細い方だが、流石に女性が持てるほどではないようだ。
「あ、もうだめかもしれません」
「おい、師匠を地べたに這いずらせるのか?」
「ごめんなさい、もう無理です」
そういって倒れる二人。地面に倒れて動かなくなってしまった。
「あー腹が減った。もう寝るか」
そこには二人の死体のようなものが出来上がっていた。
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さて、俺もそろそろ大人の階段を上り始めたと言っても過言ではない。と言ってもまだ三歳なんだけどね。そりゃあ人から見れば子供かもしれない。しかし、大人の資格とはなんなのだろう? 自立していること? 働いていること? ちん毛が生えること? そのどれもが俺は達成できていない。だがな、俺は違うと思う。大人とは、自分で意思決定し、先に進むもののことを言うのだと思う。だから、自分で決めた道を、自分で歩き始めたとき、人は初めて大人になるのだと思う。故に三歳児も大人と言えよう、言えないか。
うん、じゃあまずは近況報告か、魔法がばれてから一年、俺の生活はそこまで変わっていない。というより、母親も俺についてはお手上げのようだ。普通魔法というのは、呪文を唱えないとできない物であるらしく、無詠唱でする方法もないではないのだが、特別な道具が必要なようだ。こんな、自分の力だけで魔法を使えるのは、異例中の異例らしい。
故に、母親も俺について教授することは出来なかったようだ。俺を導くことは、俺以外にはできないという事か、俺は孤高の存在になっちまったようだな。
そんなこんなで、俺はまだ独自の方法で魔法の特訓を続けている。魔法の効率もかなり上がり、最近ではどんなに魔法を使い続けても、気絶することはなくなってきた。というより、頭痛がすることすらもなくなってきたのかもしれない。
あとは、なんだろう? 俺の父親が、魔法だけではなく、剣も練習するべきだ―とかいうアホな提案をしてきたことか、俺は体を動かすのが苦手なので、遠回しに拒絶しておいた。三歳児に丁重に断られ、なんか沈んでいたな。
あとはなんだろう? ああ、一番大事なことを忘れていた。おっぱいを見つけたことだ。
「おっぱいが自然に生えるとは、流石天然ものだ。素晴らしい」
俺は地面に倒れている女性と、なんかを発見していた。いや女性とかはどうでもいい、そこにはおっぱいと俺、その二つだけが存在していると言っても過言ではなかった。
俺はどうしたらいいんだ? 助ける? そんなバカな、面倒事は嫌だ。ではおっぱいを見捨てるか? それもなしだ。男としてどうかと思う、という事は、女性だけを助け、男は見捨てよう。それがいい、万が一女が目覚めても、男は行き倒れていましたと言えば大丈夫だろう。
「では、持っていく前に、テイスティングを」
俺はゆっくりと、至宝へと手を伸ばす。ゆっくりと、指の動きを確認しながら伸ばす。いや待てよ、どうやって揉んだらいいんだろう? 揉みしだくか? いやそれは下品だ。ゆっくりと弄るようにか? それもなんか下品だ。ではどうすればベストなのだろうか? どうすれば紳士としての尊厳を保ちながら、おっぱいへの愛を表現できるのだろうか?
「分かった! 舐めよう!」
天才だったようだ。どうやら俺は既存の人間というレベルを超えて、天才の領域まで上り詰めて行ってしまったようだ。
「では、早速失礼して」
俺は、ダイレクトアタックをすべく、禁断の世界へと足を踏み入れようとしたときだった。そこらへんに落ちていたボロ雑巾が、動いたのだった。
「ごめんなさい、思春期なので」
こういえば、なんでも許されると聞いたことがる。でも三歳で思春期は通用するのだろうか? 男ですから! とかにすればよかったか? いや、それでは子供特有のかわいさというものがなくなってしまう。だからやはり思春期が一番ベストか。
「俺のだ」
「は?」
「俺のだああああああ」
なんだ? この力は? こいつさっきまでのボロ雑巾じゃないぞ。戦闘力が跳ね上がっている。かいなんとか拳の使い手だとでも言うのだろうか?
「おっぱいに所有権なんてない! 胸とは自由なものなんだ!」
「世界のおっぱいは、俺のものだ」
なんてオーラ量だ、目に見えるほどの闘気を奴がまとっている。
「どうやら、分かり合えないようだな。世界の半分のおっぱいをやると言っても、収まらぬか?」
なんかどっかのRPGのラスボスみたいな台詞だな。まぁ発言の内容が最低なんだが。
「いいえ」
「そうか、では死ぬがよい!」
ここに変態VS変態もとい、紳士VS紳士の戦いが始まった。というより、三歳児にがち切れする大人もどうかと思うけどね。
「あ、だめだ」
三日三晩続いた戦いも、相手の体力切れで終わるのだった、まぁ嘘だけどね。実際には三十秒ぐらいしか経ってないけど、俺にはその時間が、何十分にも感じられたぜ。さて冗談は置いておいて、本当にどうするか、流石に置いて行くのは、人としてどうかと思うし、連れて行ったら、うちでは飼えませんとか言われそうだ。
「ふーむ」
「どうしたの?」
「あら、エリナさんではありませんか、こんなところで奇遇ですね」
「一緒に出たのに、何が奇遇なの?」
あ、そうか、エリナと二人で裏庭を散歩していてはぐれたのだった。完全に忘れていたよ。
「いいや、なんでもないよ。で、これどうすればいいと思う?」
俺はボロ雑巾を、つまみ上げる。どうやら男は二十代、いやもしかしたら十代なのかもしれない。童顔で、青っぽい緑の髪が特徴だった。
「行き倒れ? 生きてるよね?」
「うん、でもこれ家で飼えるかなぁ?」
「飼うの!? 違うよ助けないと。とりあえずお母さん呼んでくるね!」
ふむ、飼わないのか、残念だ。さて、どうするかなぁ、さっきのやり取りをこいつが覚えて地たら面倒だなぁ、三歳児があんな発言をしたら、どこの世界でも変な目で見られてしまうからなぁ、現に前の世界ではおかしな目で見られたし。ふーむ、まぁ幻覚だと思ってくれてることを祈るしかないか。
「さて、本当にこれはなんなんでしょうね。冒険者にしては軽装だし、というかこんな村に来る必要はないしなー。あとはなんだろう? ま、まさか俺の存在がばれたとかか? ないか」
まぁこの世界では行き倒れなんて珍しくもないんだろう。人の家の庭で倒れるのは珍しいかもしれないが。
「連れてきたよー」
エリナが戻ってきた。その後ろには、いつもより少し険しい表情のリストさん。
「ああ、リストさん。どうしますかこの二人?」
「連れて行きましょう。さすがに庭で死なれるのはちょっとどうかと思いますし。女性の方は連れて行きます。男の方はお願いしますね」
「はーい」
そういって、女性の方を負ぶさって屋敷へと戻るリストさん。三歳児に運ばせるのか、鬼畜やね。まぁ俺が魔法を使えるのを知っているから、多分任せたんだろうけど。
「さて、どうやって運びますかねー、エリナさんいい方法はありますか?」
「うーん、持っていく?」
「それは難しいかもですねー、僕はまだ強化の魔法を使えないですし」
強化のイメージとかがいまいちまだつかめていないので、使う事が出来ないのだ。人間の体の構造などが俺には分かるはずもなく、そこらへんのイメージは出来ないので、使おうとしても処理しきれなくて気絶に一直線だ。あと、俺が僕なんて言うのは、親の教育の賜物だ、どうやらあまり子供に俺という言葉を使ってほしくないらしい。まぁ容姿が容姿だし、俺というよりも、僕っ子路線を狙った方がいいのかもしれない。
「うーん、じゃあ転がす?」
「それいい案ですな、貰った」
俺はこのボロ雑巾を転がすべく、策を考える。ふむ、どうやって転がすか、そのまま転がしたら大変そうだし、なんかいい感じに転がせないだろうか?
「あ、いい案見っけ」
「どうするの?」
「こうしましょう」
俺は、魔法で屋敷までの水の道を作り出した。屋敷まではそんなに距離はないので、そこまでの労力はなかった。そして俺はさらにその道を凍らせる。
「氷の道です。この上を滑らせましょう」
「おー楽しそうだね」
俺とエリナで、男を氷の道の上まで運ぶ、そして、滑りやすいように、水で道を湿らせ、勢いをつけて滑らせる。
ものすごい勢いで、屋敷まで走っていく男、その姿はなんというかシュールだった。
「なんか冷凍マグロみたいですね」
「何それ?」
「いいえ、忘れてください」
あーなんか喋っていて、自分の口調が気持ち悪くなってくる。良いところの坊ちゃんっていうのも考え物なのかもしれない。
「あ、いいこと思いつきました」
「ん? なに?」
俺はダッシュで、屋敷まで滑らせたボロ雑巾を再度滑らせ、元の位置へと戻す。
「どうしたの? 戻してきて」
「これをこうしましょう」
俺とエリナは、そのボロ雑巾(改)へと乗り込んだ。そして勢いよく発進する。
「わぁー、楽しいね」
ものすごい勢いで滑る俺とエリナ。周りの風景が、ものすごいスピードで過ぎていく。
「ホントだーすごーい」
楽しんでいる俺とエリナ、そして下でなんか声にならない声を出している乗り物。
「わぎゃがややぎゃあだ」
「ねぇーなんか聞こえない?」
「気のせいでしょー」
楽しさ至上主義の俺としては、俺が楽しければいいのだ。世界は俺を中心に回っているのだ。
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「なんか遅かったですね」
俺たちはやっとの思いで、屋敷へとやってくる。楽しすぎてやめるタイミングが分からなかったぜ。
「いやーちょっと色々大変で」
やめるタイミング的な意味だが。
「なんかボロボロになってませんか?」
「気のせいです」
あれから三往復ぐらいまでは覚えているが、あとは楽しすぎて回数を覚えていない。途中で風の魔法とかでブーストしたりしてたからな。
「まぁ、いいでしょう。とりあえずご飯を作っておきました。目覚めたら食べさせてあげましょう。女性の方はもう食堂で食べていますから」
「飯?」
のっそりと立ち上がる男、あんなに痛めつけたというのに、まだ起き上がるとは、こいつ不死身か?
「ああ、起きましたか。食堂の方にご飯が……って行っちゃいましたね」
ものすごい勢いで走る男、どこにそんな力があったんだよ。さて、俺たちも二人の後を追って、屋敷へと戻ることにする。
「うま、うま!」
がっつきながら食べ続ける二人の男女、もうお行儀が悪いなー。
「ちょっと師匠、それ私のですよ!」
「うるさい! 弟子のもは師匠のもの、師匠のものは師匠のものじゃーい」
まさに戦場、食事とは戦い、本来人間とは食べ物を奪うために戦わなくてはいけないのだ。人間は昔から何も変わっちゃいないのだ!
「食事のさいは無礼講って決まりでしょう! この肉もらいますよ」
「あ、それはとっておいたものなのに!」
男のさらから、肉を盗っていく女性、しかし人間とは浅ましいな、いやというほど痛感するよ。
「師匠が好物を最後まで取っておくのはお見通しです。あーおいしい」
「ちっ、この糞弟子め!」
「やりますか!? 変態師匠!」
「あのー、落ち着いてください」
二人の間に割って入るリストさん、さすがやー、俺だったらあんな中に入りたくもん、知らないふりして逃げるね。
「失礼、助けてもらったのにお礼もしてなかったですね。このたびは命を救っていただきありがとうございます」
「いえいえ、そんなのは別にいいんです。庭で死なれるのも困りますしね」
あらーはっきりというお方だこと。
「まぁそりゃあ、そうですね。つかぬ事を聞きますが、ここは何処でしょう?」
「エレク領、リスターの町です」
「リスターか、変な場所まできちゃったもんだな。ん? そこの坊主?」
「?」
なんだ? 俺の方をじっと見て、まさかバレてるのか? いいやそんなわけない、これは……まさか恋!?
「ふっ、まぁいい。僕の名はアレン・グラスです。街級の魔法使いです」
街級の魔法使い、たしか魔法使いは色々なランクに分けられる。一般的には、初級、中級、上級といった振り分けされる。そこらへんの魔法使いのレベルは、初級から中級といったレベルだろう。上級にもなればほぼ一流と言っても過言ではない。しかし世の中には、そのランク分けでは足りない人物がいる。
そのものたちは、危険指定されており、そのレベルを聞くだけで、どれだけ危険なのかが分かるようになっている。まずは村級、これは単体で村が滅ぼせるほどの魔法使いであるという事だ。大きな村を基準にしているので、大体百人力と言ったところだろう。そしてその上が街級、この男がいった街級とは、町ひとつと単体でやり合って勝てるという事だ。村と街ではレベルが天と地ほどに違うらしい。まぁ、村を滅ぼすのと街を滅ぼすのを比べれば当たり前と言えるだろう。
次に国級、大陸級、世界級と続いていくらしい。さすがにここらへんまで来ると、もう伝説上の人物ぐらいしかいないらしく、人間の事実上の最強は街級と言うことになる。そして最後にもう一つだけ、創世級というものがあるらしい。これも伝説というより、神様をランク付けしたようなものだから、俺たち人間にはあまり関係ないらしい。
「街級? なぜそんな方がこんな辺鄙な村に?」
「いやー、ちょっと探し物の途中でして、まぁあるかどうか分からないものなんですが。あ、ついでに紹介しとくと、これが僕の弟子で、レイス・アーデです」
「私はおまけですか!? ゴホン、私が紹介されました、レイス・アーデです。一応上級魔法使いです」
赤っぽい髪に、かわいいけどもなんか抜けた感じの顔、放漫な体つき、うん、あんたいい仕事してるよ。さすが変態魔法使い、弟子を見る目は確かだ。
「じゃあ、おなかもいっぱいになったことだし、出ますか」
「ちょっと師匠、なんかお礼とかしないと!」
どうやらアレンとやらに常識はないようだ。まぁ、天才と呼ばれる人間は、何かネジが飛んでしまっている人間が多いらしいし、まぁ納得ともいえるのか。
「そうかー、まぁ命の恩人だし、なんかしてやろうか。雨でも降らすか? それともエロいことか?」
「師匠! 子どもたちの前で!」
「ああ、そうか。こいつは子供だったか」
本当に常識がないな。というか俺バレてね? 多分大丈夫だ、きっと大丈夫なはずだ。念のため、目をうるうるさせておくか。
「もう師匠ったら、でも恩人であるあなたたちには、できうる限りのことをしたいですから」
この子ええこやー、ええこやでー。エッチなお願いしたら叶えてくれるのか?
「では、一つだけお願いしてもいいですか?」
「おう、この街級の魔法使いがなんでもかなえましょう」
なんでこいつこんなに偉そうなんだよ。というかさっき俺たちが遊び過ぎたせいで、ボロボロのまんまなせいで、なんかすごく滑稽だな。しかし、お願いとはなんなのだろう?
「この子に魔法を教えてあげてくれませんか?」
へぇー、魔法ね、そっかー魔法かー、って俺?