成長期なのです
俺がこの世界に誕生して、約二年の月日が経った。俺もかなり成長し、喋れるようになったり、二足歩行ができるようになったりとイベント盛りだくさんだ。
会話ができるってのは素晴らしい。ホントに言葉というのは素晴らしいものだ。うんあだぶだとかあぶーとかで会話するなんて、正気の沙汰とは思えないね。
次に報告することは魔法についてか、ここ一年チョイで、魔法について分かったことは、多分魔力というものはある。しかし、どちらかというと、俺の場合は脳の処理が追いつかないと言った感じだった。だからあまり大きな魔法を使うと、頭がオーバーヒートしてしまい、無茶苦茶ヤバい頭痛と、気絶がもれなくついてくるという事だ。
しかし、どうやら成長するにつれて、脳の処理能力があがるらしく、今ではかなりの魔法を使えるようになってきた。二歳の現時点で使える普魔法は、俺が一歳前に失敗した水の魔法が、同時に十本ぐらい出せるぐらいだ。まぁ違うような手を使えばもっとできるのだが。しかし成長期って素晴らしい、俺には無限の可能性が眠っているね。でも二歳でこれぐらい出せるのは優秀なのか? この世界ではどれぐらいが普通なのかが分からない。なので、魔法についての研究は今後も続けて行こうと思う、出来過ぎて困ることなんてないからな。
後、報告することと言えばなんなのだろう? 二歳とはいえ、この世界は危険がいっぱいらしく、あまり外に出してくれない。出れたとしても、庭が精々だ。なので、あまり外の世界を知る機会があまりないのだ。
でもまぁ、この世界について分かったことは色々ある。ケントや、両親からは色々話しを聞いていたからな。まずはこの村についてか、この村リスターの村はドがつくほどの田舎だ。農業が中心で、特にこれと言った特産物はなし。本当に何の変哲もない村だ。その変哲もない村で、俺たちリングス家は、領主というか、なんというか、管理職みたいなことをしているらしい。だから、そこそこの家みたいだ。まぁ俺にはあまり実感が沸かないんだけどね。
こんなところか、この一年で分かったことなんてそんなものだ。両親は意図的に外の情報を教えないきらいがある、故におれもあまり深く聞くことはしないのだが、というかあんまり危険な目には会いたくないしね。
「というわけで、俺は新しいことを学ぶためにここ、愛の巣とかしている二階まで来ていたのでした」
俺は階段上の愛の巣前中継所からお送りしています。この番組はご覧のスポンサーでお送りいたしますって感じだ。
「何を言っってーの?」
おっと、解説のエリナさんのことを紹介し忘れていたわ。隣に居るのが、解説のエリナさんです。真っ黒で艶やかな長い髪に、くりっとした大きなお目目、まだ幼いながらも、美人の要素がこれでもかって感じに詰め込まれている。俺の見立てに間違いはなかった、三歳でもう未来が楽しみで仕方がない。
「なんでもないよ。今日は二階を冒険って言っただけ」
「ダメだよ、部屋に入っちゃ、ご主人に怒らーるよ?」
なんか舌っ足らずな感じがまたかわいいのだ。本当にもう食べちゃいたいぐらいだ。
「いいの、別にばれなきゃ大丈夫だよ。それに、今は二人とも外に出てるからバレないよ」
「いいのかなぁ?」
「いいから入るよ!」
俺は半ば強引にエリナを連れ、最初の部屋へと入る。
ここは書斎か? 確か二階には父親の書斎があると言っていたが、多分寝室には見えないので、書斎だろう。まぁ、両親が机と少しの紙がある部屋で寝るような、変な趣味があるのであれば分からないが。
「書斎かなぁ?」
「でしょうな。でも、なんもないね」
書斎というには少し貧相だ。部屋の真ん中に机が一つと棚が一つだけだ。あとは殺風景な風景が広がっているだけだ。こんなものでも書斎と呼べるなら、俺の部屋も立派な書斎と呼べるだろう。
「なんもらいね」
「ですな! 殺風景過ぎて寒くなってくるね」
「そんなことないはないよ?」
あらら、冗談が通じないようで、しかしなんもないな。書類が少しと、本が二、三冊か。しかし何を書いてあるかわかんねー。
「これ分かる?」
俺は書類を指さしてエリナへと聞く。しっかし、ハングル文字もびっくりのぐちゃぐちゃ具合だよ。なんだよこれ、文法もよくわかんねー、日本語で書きなさいよねって感じだ。
「えっへん、お姉さんに任せなさい」
なんという自信だ。なんかすごい自信に満ち溢れているぞ、後光が差しているような気がするぜ。
「これは、えっと……わかんない」
おい、自信はどこ行ったんだよ。えへへじゃなーよ。はぁ、聞いた俺がアホだったのか、しかし文字が分からないと色々困るな、これは親とかに習った方がいいのか?
「文字が分からないと大変だねぇ」
「そだね!」
この子を見ていると将来が少し不安になってくる。いや、まだ三歳ぐらいならこんなものなのか? 俺もこんなにアホだったのだろうか? いや今でもアホだけどね。
「本があるけど読めないな。どうしよう」
「あ、でもこの本なら分かぁよ。たしかなんかのお話だよ!」
おい、そのなんかが大事なんだが。
「えーと、たしかぁ、英雄さんのお話だったと思うよ?」
あー、おとぎ話みたいな感じか、川から流れてきたモモが、マサカリ担いだ金太郎みたいな感じか。なんとも胸が躍りそうな話だな。しかしこの世界にもそういうものがあるのか、人間が形成する文化には、あまり違いがないという事か、ふふ、人間も愚かなものよのぉ。
「ふーん、読めたら面白いのにね」
「うん、そらね。お勉強しなきゃだめだね」
どうしたものかねぇ、こんなに文字が違うと思わなかったわ。日本語ですら怪しい俺が、他言語を覚えるなんてできるんだろうか? まぁ喋れるようにはなったし、案外何とかなるのかもしれない。というかこの世界で生きて行くには何とかしていくしかないよな。
「じゃあ、探検を続けようか。お次は寝室です」
俺は書斎とおさらばして、隣の寝室へと入る。
「ここは、愛の巣ですな」
「愛の巣? どおゆうこと?」
おっと口が滑った。お子様にはまだ早い情報だったか、これは何とか誤魔化さなくてはいけないな。
「両親が乳繰り合う場所ってことですよ」
やばい俺の正直者としてのこころが嘘を許さなかったようだ。クソ、こんな時に俺が嘘を付けない体質が嫌になるぜ。まぁ嘘だけど。
「わかんない」
「その方がいいよ。でもまぁ、いい部屋だな」
日差しが差し込み、ベッドを明るく照らしている、ベッドは見るからにフカフカそうで、俺の子供用のベッドが玩具に見えるぜ。
「わーい、フカフカだぁ」
俺はベッドへとダイブする。三十過ぎてもやりたいことはしょうがないじゃない。子供っぽい? 子供ですから許されるのです。ビバ子供、素晴らしき子供の日々。
「いいの? 怒られちゃうよ?」
「気にしない、しない。楽しければおっけーなのです」
面白さ絶対主義の俺としては、怒られることを考えて行動をしないなんてナンセンスだ。楽しそうが俺の行動理念だ。
「でも、これ楽しい」
エリナと一緒にベッドで飛び跳ねる。ボイーン、バイーンという効果音と共に、布団の上で飛び跳ねる二人。なんか効果音だけ聞いたらエロいな。
「でしょう? 楽しければいいのだー」
はははー、楽しいなぁ。はぁ何やってんだろう。こんなことをして何になるというのだろう、こんな非生産なことはヤメだ。
「どうしたの?」
「ううん、なんでもないよ。さて、じゃあ日課でもしますか」
「うん」
俺たちは庭の隅の方へと移動する。今から日課である魔法の練習をするためだ。なぜエリナまでついてく来ているのかというと、これは、グへへ、お前が魔法を使えることが親にばれたくなければ、私にも魔法を教えるのだ、と脅されたからだ。クソっ、汚いやつだ、こんないたいけな少年を脅すなんて、まぁ俺の妄想だけど。実際は、俺の魔法の練習風景を見て、やりたいって言ってきたので、少し手伝わさせてるだけなんだけどね。
「さて、魔法のレッスンワン、まずは右腕を天空に高く掲げ、右足をあげ、左ひざを地面につけ、左手でバランスを取るのだ」
「できないよぉ」
「ちっ、ゆとりめ。ではイメージするのだ、なんかものすごいイメージだ。俺のイメージを受け取るのだ!」
俺はエリナの手を握り、必死にイメージを送る。まぁこんなことをしても無駄なのだが、なんかできる気がするじゃん。というか、俺も何となくで魔法を使っているので、説明できない。
「こんな感じ?」
「いいイメージだ。そこからどわー、うひょー、うわちゃーって感じだ」
「分かったよ! こんなかんじ?」
そういって、指先に水の玉を出現させるエリナさん。あれおかしいな? 適当ぶっこいていたのにできちゃったよ? どういう事なの? この世界では普通に魔法が使えるの? なんか俺、舞い上がってバカみたい! 私ってホントバカ。
「おー、すげぇな。さすがは我が弟子だ。免許皆伝じゃあ」
「えへへ、すごい? じゃあもっと頑張るね」
「おう、頑張れ、俺も頑張る。オマエガンバル、オレガンバル、ミンナシアワセ」
さて、じゃあ俺も自分の練習をするか、でもあまりやり過ぎると、頭が焼き切れそうになるんだよな。だから最近は、効率よく魔法を発動するプロセスの開発に時間を費やしている。脳は成長すれば、処理能力も上がるだろうし、今できることと言えば、脳への負担を減らすことぐらいだろう。なので、俺はとりあえず、工程から見直すことにした。
まずはどうやったら脳への負担を減らすことができるかという事だ。これはイメージをもっと明確にすることで解決できるだろう。曖昧なイメージをすると、曖昧な部分を脳が補おうと、脳の処理するべきことが跳ね上がる。だから、イメージを明確に、できればそこに至るまでのイメージをするとなお良い。
イメージする。漠然ではなく、かなり詳しくだ。水のイメージ、しっかりとした水、青、冷たく、水の分子一つ一つをイメージするかのように、いや言い過ぎたわ。さすがに水の分子はわかんねーや。まぁそれぐらいイメージしろという事だ。
俺が初めて出したときに気絶した魔法を再度出す。槍のイメージを明確にする。最初の失敗は、水をだし、槍の形にして、さらに濃度をあげ、硬度をあげようとしたから、脳の処理が追い付かなくなったのだ。これは最初から、固くて、でかい水の槍をイメージすることで、処理を少なくする。
そうして俺は水の槍を出現させる。目の前には三メートルほどの水の槍が、十個ほど出現させる。即出したので、まだ俺の頭には結構の余裕がある。どうやら出すよりも、加工する方が脳の処理を使うらしい。なぜそうなるのかは分からないが、そうなるのだからしょうがない。
俺は、出現させた槍を一気に凍らせる。温度が低下し、凍り付いていくイメージを持たせる。そしてそこに俺の魔力でサポートし、現実の水の槍を凍らせる。
「いつつ」
少し頭が痛くなる。やはりここら辺が限界か。他にも炎、風、電気、土、等大体の元素は試したが、水が一番やりやすい。初めて見たのが水だからか、というより他の人の魔法は、水ぐらいしか見たことないからな。おのずと水回りの加工が得意になる。氷や熱湯、蒸気などの魔法も最近は試し始めている。
「あれ? どおしてだろ? 出ないよ?」
「イメージしろ! イメージするのは常に最強の自分だ!」
「でないよぉ」
ふむ、まだ早かったか。だが、どうして出ないんだ? さっきは出たのに、何かさっきと違いがあるのだろうか? まぁどうでもいいや、他人が魔法を使えなかろうが、俺には関係ないしな。
「出ないよ?」
やめろ涙目で見るな、俺はそういう目に弱いんだ。出ないものは出ないんだからしょうがないじゃないか。これは世界の摂理なんだよ、出ないものは出ないんだ。出ないものが出たら、そりゃあ出るものになっちまうだろう、って俺は何を言っているんだか。
「でないよぉ?」
「うわらっちゃら」
とりあえず魔法の呪文を言ってみよう。きっとこれで何とかなるはずだ。元気が出る呪文がアララカタブラツルリンコなんだから、うわらっちゃらでも魔法が出てくるかもしれない。いやまぁあり得ないんだけど。
「どうしたの? エリナ、ってこれは何?」
やってきたのはメイドのリストさん。そして俺の周りには空中に浮く十本の氷の槍、泣くエリナ。今や家政婦は見た状態だ。完全に俺がいじめてるみたいだ、どうしようかこの状況。
「これは魔法?」
「てへっ」
俺は自分のかわいさを、全面的に押し出してみる。心どうやら俺はかなり外見がいいらしい、俺は女の子に間違われるぐらいの美しさだそうだ。心はこんなに醜いのにね。まぁ、あの両親から生まれるのが不細工だったら、俺はマジで世界を呪わずにはいられないだろう。
「てへっじゃありません! リオナ! 坊ちゃんが!」
あー、これは少しまずい。こんな小さなころからいじめっ子なんていうレッテルを貼られたら、キャラが定まってしまうじゃないか。なんかここでいじめっ子のキャラができたら、これから俺はいじめ続けなければ行けないじゃないか。そんなのは嫌だな、俺はキャラが定まっていないのが良いところなのだ。
「坊ちゃま魔法を使っています! 素晴らしいことです!」
あれ? なんか違う。これはどういう事なんだ? 分からんぞ? うん、普通の人間は考えることが分からないなぁ。