地獄絵図、カイエの場合
さてどうするか、そうカイエが一言つぶやいた。何箇所かやばそうな雰囲気を感じるが、どこから行けば良いか迷っていた。まぁ、どこでも良いか。そう思いながら、カイエは、じいさんとは別の方向へ駆け出す。
「これは酷いな」
街は魔物等によって、かなり荒らされており、この大陸屈指の都市としての美しい景観は今や、半分以上が廃墟と化していた。
「あ、そういえばアオを見失ってたか。まぁ良いか」
見失うなと言われてた気がするが、まぁ良いか。そう、自分に納得させ、カイエは移動を続ける。
町の中心、城へと続く大通りに出る。そこには既に魔物が大量数押し寄せていた。
「はぁ、少し留めておくか」
大通りは城に繋がっているので、止めておいた方が良いだろう。城は住民の避難場所にもなるだろう。その判断の素、カイエは己の糸を張り巡らせる。
カイエの強靭な糸に、魔物たちは引っかかり、先に進むことが困難になっていた。
「はぁ、まぁないよりマシだろ」
そしてそのまま進む。城前の広場、そこには大量の兵士と、一体の魔族が居た。
「さて、どうしたものか」
なんとなこちらを選んだことに後悔をする。大量の兵士の前には真っ赤でおかしな服を着た一人の人型が居た。
「ちょっと選択を間違えたみたいだなぁ」
目の前にいるのは、アルトの目の前に居たあの変なものと同格以上の存在だった。
「これ、勝てなくね」
「そうですね。君では難しいかもしれないね」
いつの間にかこちらに気づいていたそれは、こちらに笑いかけてきた。
「こういう時の運って毎回最悪なんだよな」
これまでの行いを振り返り、自分で選んだ選択肢が良かったことがない。そう思いながらも、戦闘体勢へと入る。
手をギュッと握る。両手に装備されていたその篭手にも似た手袋は、己の魔力で糸を生成する特殊な装備だった。
「我が名は悲劇の王、十二人の王の一人です」
ゆっくりと頭を下げ、カイエにお辞儀をする魔族。その姿に、逃げたくなる気持ちを押さえつけ、なんとか立ち向かう。
「《悪夢》のカイエだ。折れて柔らかに頼むよ」
ゆっくりと、右手を降るう。その右手を振るう動作だけで、数十の岩の針が地面より出現する。
「アルトかよ!」
見たことがある分、対応が遅れることはなかった。右手から糸を飛ばし、家屋に引っ掛けなんとかその場を脱出する。
「無茶苦茶だな。でも見慣れてんだよ」
その場から、糸を飛ばし、赤服へと攻撃を開始する。
カイエの攻撃方法は、単純だ。己の手より生成した糸を使い、それをぶつけるだけ。特別身体能力も強くないカイエは、強敵に対して接近を許すのは死に近い行為だった。
「見慣れてる? ああ、無貌の王さんが見た少年の話ですね。少年は少し気になるので、紹介してもらっても良いですか?」
飛ばした糸をものともせず、ニコッと笑うその姿にカイエは怖気しか感じなかった。
目を離した訳でもないのに、カイエの目の前には赤服が一瞬で移動してきていた。
「なっ?」
糸を無理やり、生成し、なんとか防御の体勢を取る。
目の前で手を降る。そうすると糸を張った場所に目もくらむような爆発が起こる。
「チッ、右手がトリガーか」
「正解です」
チリチリとした熱を腕に感じながらも、爆発から避ける。上級以上の魔法を言葉も言わずに発動させるその攻撃。しかも、呪文がないせいで何の攻撃が来るか分からず、対処のしようがない。
「敵版アルトか、きついな」
狂人のようにふざけることがない分更に厄介になっている。
爆風に乗るようにして、再度距離を取る。
「無駄ですよ」
そんな考えを読んでいたのか、カイエへ飛んだ方向へ、悲劇の王は、追うようにして移動をしてくる。
「流石に読んでいるよ」
しかし、その移動の一瞬を読んで、カイエは周りに糸の結界を張る。普通の魔物であれば、その糸に触れるだけでその身を切り刻む程のものだが、魔族の王であるその男にはそんなものを気にもせず突っ込んでくる。体の構造、いや、生物そのもの存在自体が違うということだろう。
「これはまずいな」
決定打がなく、相手は有効な攻撃を仕掛けてくる。
今すぐに倒されるわけではないが、有効打を見つけなければこのまま殺されるだけだ。
「死になさい」
そのまま接近をし、魔族は何のひねりもない打撃を放つ。生物としての存在が違う時点で、殴るという
行為がどれほど驚異になるかを、この魔族は知っていた。
「くっ」
防ぐまもなく直撃を受けるカイエ。その拳の力の分だけ、後方へ吹っ飛ぶことになる。
「ふむ、手応えが違う」
「糸巻いてなくちゃ死んでた!」
体に糸を巻いて、衝撃をなんとか防いだが、それでも魔族に殴られたことに変わりはない。鈍い痛みが腹を襲っている。
「人間にもこんなものが居るんですね」
そんな対処を行ったカイエを素直に褒める魔族。
「そりゃあどうも」
無駄ではあっても、どうしようもないので、糸の結界を再度張る。今度は先ほどよりも強固にする。それでも数秒の違いでしかないだろう。
「よぉ、カイエ、蛹みたいになってどうした?」
そんな結界近く、まるでいつもの王都のように路地を歩く存在があった。
「ソーラス、早く手伝え」
「俺に命令するほど偉くなった……こりゃあキツイな」
「ちょっと俺もふざけている余裕がないわ」
「チッ、邪魔すんなよ」
「お前もな」
そのまま何の打ち合わせもなく敵に突っ込むソーラス。悪夢においてアルトに次ぐ実力の彼は、何の躊躇もなく歩みを進める。
悪夢において複数で戦う場合のルールはたった一つだ。味方の邪魔をしない。それだけが一番のルールであった。このルールにアルトとアオは適応されないのもルールであった。
「魔族の王だってさ」
「ほぅ、どれほどか俺が調べてやるよ!」
剣を抜き、一気に赤い服へこうげきを仕掛ける。
「くっ」
その一の王撃に、堪えられず、先ほどのカイエのように吹っ飛ぶ悲劇の王。
「直糸」
まっすぐ赤い男に向け糸を飛ばす。その糸は先ほどとは比べ物にならないほどの魔力が込められていた。
「くっ」
腕で防ぐも。その腕にまっすぐ刺さる糸、その糸は、まるで意思を持っているかのように、悲劇の王へと絡みつく。
「邪魔ですね!」
「じゃあ切ってやるよ」
大きく直剣を振りかぶる。その一撃は、赤い男通りすぎ、地面にまで亀裂を入れていた。
「乱れ糸」
その硬直を見逃すカイエではなく、その一瞬で地面に糸を這わせ、敵を地面に縫い付ける。
その糸は、相手の体を這うように上がって行き、最後には全てを拘束した。
「人間風情が悲しいなぁ! 我に触れるなど、糞がっ!」
先ほどまでの余裕は既に消えていた。その顔には醜くも恐ろしい憤怒の表情が浮かんでおり、
その叫びと共に、背中からは新たに二本の腕が生えていた。
そしてその二本の腕を同時に振ると、そこには空全体を覆うように、赤い槍が出現していた。
「ゴミが、皆殺しだ! 全員だ、一人も残さねぇ!」
「ヤバイ、吹き飛ばすから他のやつはなんとかしろ」
「おい、ちょっと待てって」
そんな抑止の声も聞かず、ソーラスが動き始める。
「勇者剣の一、薙ぎ払え、ソーラス!」
逆手にもった剣を、横から一気に大ぶりする。その余波はまるで町全体を揺らすような衝撃と、耳を壊すような爆音を放っていた。
「糸檻!」
なんとかその余波を糸で防ぐ。少し離れた兵士たちも守ったが、何人かは余波で糸の壁越しに倒れていた。
その衝撃は甚大で、空一面に広がっていた魔法は、今の衝撃で消え去っていた。
「チッ、二体はまずいか!」
状況が振りと悟ったのか、撤退をしようとする悲劇の王、しかしそんな王の周りには既に糸の結界が出来ていた。
「ええい、こんなもの!」
「流石に無理だよ。俺の魔力のほとんどを注ぎ込んだし、それにお前はその糸に気を取られている余裕はあるのか?」
「え?」
いつの間にか、男の近くにはサル顔の男が立っていた。
「クっ」
結界内、男が背中の腕を振るう。
「糸檻」
しかし、出現した魔法は、糸の檻によってソーラス前で弾かれる。
「じゃあ、死ね。まぁ悪夢二人相手には持ったほうじゃねーか? じゃあな勇者剣その一だ!!」
再度先ほどの攻撃を放つソーラス、その余波は真っ二つになった魔族の王を吹き飛ばす程だった。
「まぁあの世で魔王に宜しくな」
「はぁ、しんど。きついわこれ」
「しかしきついわこれ、王って全員こんな感じか?」
「まぁな。多分この間あった奴のほうが強いな」
「やばいな、奥の手使ってこれかよ」
「ああ、結構やばいかもな」
疲れきったカイエは、二体目に行くのをやめ、今日はこのまま休むことに決めたのだった。




