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狂人転生記  作者: aki
俺、爆誕編
3/55

目覚めた朝、暇つぶしの昼

 さて、こちらの世界で目覚めてから八か月ほど経った。俺も揺り籠という名の牢屋から抜け出し、外の世界へと羽ばたいた。はいはいという希望を手に入れた俺にはなんの障害もない、俺は自由に飛べるんだ!

 という冗談はおいておいて、一応行動範囲はかなり広がった。この屋敷はそこそこ広く、毎日がアドベンチャーだ。時速にして一キロも出ないこの体では、隣の部屋まで行くのも一大事だ。全力で進んでいるのだが、カメより鈍い歩みしかできない。ウサギと勝負したら余裕で負ける自信がある。まぁこの世界のウサギがどんなものかは分からないが。


 まぁ色々分かったという事だけ話しておこう。この屋敷は二階建てとなっており、一回には俺の部屋と使用人の部屋がある。どうやら二階は夫婦の寝室と、父親の書斎があるようだ。子供と親は別ね、ここらへんも欧米スタイルのようだ。というより、子供は別の方がいろいろと便利だろう、いろいろとな。そして使用人は、メイドが一人に庭師が一人、そしてメイドと庭師の間に子どもが一人。庭師とメイドの恋か、なんかロマンスの香りがするな。そしてその子供は、女の子で、俺より年上らしい、お姉ちゃんとか言ってたし。年上のお姉ちゃんか、なんかいいな。


  庭師の名前がケント・アウラス、メイドの名前がリスト・アウラス、そしてその子供の名前がエリナ・アウラスというらしい。庭師は一言でいえば近所のいい感じのお兄さんだ。まだ若いようで、三十にはなっていないだろう。頭に巻いた手拭いが物凄く似合っていた。そしてメイドの方は、何か無表情というか、感情の起伏があまりないようだ。しかし、庭師と話しているときは、すごい生き生きとしている。こちらもまだ二十代の半ばといったところだろう。どうやらこの世界では成人する年が低いようだ。まぁ俺の親とこの二人だけしか見ていないので、確信はないのだが。

  そして俺の姉役となる人間は、俺のように活発的ではないらしく、部屋からあんまり出てこない。俺が会いに部屋に行っても、会話が出来ないので面白くないのだ。子供ながらに綺麗な顔をしており、将来が有望ではあるのだが。とまぁ使用人についてはそんなところだろう。


 次は親についてか、まぁ分かったことはあまり多くないのだが。二人とも綺麗で、優雅だ。結構いいところの人間なのかもしれない。多分ここら辺の地主か、領主ぐらいだろう。ああ、あとは名前か、父親の名前がアルバ・リングス。母親の名前がリオナ・リングスというらしい。異国人の名前は馴染みがないせいか覚えにくい。


 さて、俺が分かったことはこんなものぐらいだ。そろそろ退屈で死んでしまいそうだ。俺は口を閉じていると、死にそうになるタイプの人間らしい。喋れないと喋りたくなるのは、やはり人間というものは心のどこかで他人と繋がっていたいという事だろう。俺のような物でも、人間らしい場所があるという事だろう。


「やぁ、お坊ちゃん。どうしたんだいこんな場所で?」


 庭師のケントが話しかけてくる。どうしたもこうしたもないだろう。俺は今、床と一体化して、踏まれる喜びについて語り合っていたところだよ。うわ、なんか暇すぎて俺おかしな人間になっちまってるみたいじゃねーか。まぁ暇すぎて今は何もやることがないからしょうがないな。


「あだぁ、うだぁ」


 日本語でおk。まぁ言葉が分からないので、今喋っても日本語でしか話せないのだが。


「うんうん、屋敷を冒険していたのかい」


 ちげーよ。大人には僕たちのことが分からない! なんていう言葉があるが、このことについては本当らしい。というかなぜそんなことを自信満々に言えるんだろう? 何かしらの根拠があってそんな戯言を吐いているのだろうが、目を見れば分かるというやつか? 俺の目に何か書いてあるのだろうか? 今度マジで目玉にマジックか何かで書いてやろうか、冗談だよ。


「そうか、そうか。でもあんまりやんちゃしちゃダメだよ。アルバが心配するからね」


 ふむ、庭師のくせに自分の主人を呼び捨てか? 無礼者! 打ち首じゃあー、とまぁそんなことにはならずに、どうやらこの庭師と俺の父親は竹馬の友と呼ぶべき関係らしい。昔からの親友と言った感じか。


「あう!」


 俺は勢いよく返事をする。会話ができなくても、返答は出来る。これが俺ができる最善のコミュニケーションだ。まぁ、こんなことができても何の意味もないんだけどね。


「おう、元気だな。俺の娘もこんだけ元気だといいんだがな。んじゃあな、俺はまだ仕事が残ってるから、行くぜ。あんまりアルバに心配かけるなよ」


  そういって、どこかに消えるケント。なんなんだあいつは? ほとんどあいつ一人で自己満足してたぞ。子供相手にあんなに具体的な会話をするあいつもどうかと思うのだが。ま、まさか俺がここに潜入捜査に来ていることがバレたか? クソっ帝国もいい衛兵を雇っているぜ。まぁ冗談はおいておいて、あまり話が分かっているようにすると気味悪がられるかもしれないな。身の振り方も少し考えなくてはいけないな。


 さて、さっき話に出たし、そのエリナに会いに行くとしようかな。たしか、ここの廊下の三つ目のドアだったか。おっとミスった。ここはメイドの人の部屋だった。別にわざと間違ったわけじゃないぞ。この時間に毎日着替えてるのは偶然だ。そして俺がその部屋を空けたのも偶然、二つの偶然が重なり、奇跡が起こった! ただそれだけのことよ。眼福、眼福。


 まぁ冗談は置いておいて、本命のエリナに見に行こう。本当は四番目のドアだ。これファイナルアンサーだ。

  よし、今度は正解だった。明るい日差しが注ぎ込んでおり、部屋全体が温かい雰囲気にまとわれている。なんか俺の部屋より立地条件よくねぇか? 俺の部屋こんなに日が差し込まねぇぞ? これは日照権をかけてこのいたいけな少女と戦う日が来るかもしれんな。


「あう!」


 もうあう、だけでなんか生きて行けるような気がしてきた。あう万能説、あるな、これは学会で発表する必要があるかもしれんな。


「ああ?」


 どうやら、まだこの少女も言葉が発せないようだ。大人たちの口ぶりからすると、一年ぐらい早く生まれたようだ。二歳か、まだ喋れないか? まぁ、俺には子供を育てた経験なんてないし、全然分からないのだが。


「んあ?」


 うん、なんか今のは分かった気がする。何か用、かな。つんけんな奴だな。淑女だったら、あらいらっしゃい、ご飯にする? お風呂にする? それとも……ぐらいはやってもらわなくちゃ。いや、二歳児にそんなことを言われてもお、おうぐらいしか反応できないがな。


「あだぶー」


 別に、君に会うのに理由なんかいるかい? という意だ。なんで三文字でそんなに長くなるのか、とかは置いておけ、赤ちゃん世界には、赤ちゃん世界のルールがあるのだ。


「キモイ」


 あれ? 今なんか喋らなかったか? というかキモイって言ったよな。確実にキモイって言ったよな? 傷ついたわー、俺マジで傷ついたわ。二歳児にそんなこと言われたらおじさん立ち直れなくなっちまうよ? 二歳児に罵倒されるとか俺、この世でやっていく自信ないわ。


「ばぶぶ」


 俺は逃げるようにして、外に出る。というか会話出来てたな。赤ちゃん世界に浸り過ぎたせいか? まぁどうでもいいや。会話できるということは、俺の暇が潰せるという事だ。一日は短いようで長い。人生楽しみがないと、何の意味もないというものだ。


 さて、また暇になってしまった。今度はいつもの日課をやるか。

俺は自分の部屋へと戻り、精神を集中させる。そして手から何かを発するように、手を前に突き出す。


「あう!」


 ウォーターボールの意だ。なんで二文字なのに(ry まぁそんなことはどうでもいいか、さて、なぜ俺がそんな厨二病みたいなことをしているのかというと、この世界には魔法という存在があるようだ。呪文を唱えると、このように水の玉が出てくるというわけだ。

 俺の指先には三センチほどの水球が出現していた。


「あう!」


 そして俺はその水球を棒状に伸ばす。ここ一か月ぐらいはこのような練習をばっかりしている。まぁほかにやることもないのだが。でもこの作業が意外に楽しい。ファンタジー世界にしかない魔法というものをこの手で体現できるというのは、感慨深いものがあるな。


 この一か月で分かったのは、この世界の魔法は、ある手順が踏まれているという事だ。ウォーターの呪文で、水を出現させ、ボールの魔法で球状にする。そのような手順を踏まないと、魔法は発生しないようだ。最初から水球を発生させるのは呪文によるものでは不可能みたいだ。

 しかし、呪文を使わないのであれば、その手順は要らない。水の玉をイメージして、そのまま発生させればいいのだ。多分呪文自体に何か力があるようだ、だから呪文の場合は、その呪文の力に縛られるようだ。まぁ、俺は無詠唱でできるので、そんな手順はどうでもいいのだが。

 ここ二、三日はコツも覚えてきたので、無詠唱による魔法を練習している。というより、ほかに本当にやることがないのだ。両親は共働きのようで、使用人は毎日忙しそうにしている。だから子供にかまっている暇なんてないようだ。このような家庭環境が、近代のグレた若者を量産すると分からないのだろうか? 我々赤ちゃんに愛情を! 愛情をください! おっと話が逸れちまった、まぁそういう事なので、いくらでも時間はある。この機会に魔法への理解を深めておくのもいいことだろう。


 しかし、魔力というものがこの世にはあるのだろうか? RPGではMPが切れると魔法は使えなくなる。この世界ではMPという存在があるのか? 今のところ限界は見えてこないが、もしかして俺はたぐいまれなる才能を持って生まれてきたのかもしれない。やべぇ、二度目の人生にして、俺の春がやってきたのかもしれない。

 やべぇな、そんなことなら、俺、少し調子に乗っちゃうぜ。

 俺はさらに集中させる。これまでにないぐらいほど集中させる。そうして、でかい水の槍を出現させる。全長三メートルほどの突撃槍に似た、水の槍を出現させる。そして、それに硬度を持たせるために、さらに水の濃度をあげようとして、集中する。とそのとき、俺の頭に激痛が走る。

 その瞬間水が形を保てなくなり、地面へと落ちる。俺の部屋は水浸しのびっしゃびっしゃとなる。


「あぶぶっぶうぶぶぶぶ」


 悲鳴まで、ふざけた感じになる。これはどうしようか、一生シリアスな場面に会わないようにするしかないか。というより頭が痛い。割れるように痛いのだ。いや、むしろ割れているような気がする。俺の頭から脳漿さん、こんにちわしている可能性がある。この場合は初めましてなのか? でも死ぬ前に一回脳漿さんとは会っているので、また会いましたね、でいいのか? ふむ、どちらの方が脳漿さんに失礼がないのだろうか? とどうでもいいことが頭の中をぐるぐるとまわる。もう他のことを考えてないと、俺は頭の痛さでどうにかなっちまいそうだぜ! 

 いや、これはかなりやばい。new俺始まって以来の危機だ。まぁ一年も生きていないので、そんなに危機ではないともいえるのかもしれないが。いや、危機じゃない! ピンチはチャンスだ。今こそ一番の好機なのかも、いだだだだだ。チャンスってなんだよ。この状態のチャンスってどういうことだよ!

 あーこれは本当にヤバい! 死にそうだ!


「どうしたの!? アル!」


 おーう、女神様だ。女神様がいらっしゃったぞ。どうにかこの頭の痛みを抑えてくだせー。


「頭を抱えてどうしたの? ねぇ! アル!? それになに? この水浸しの部屋は!」


 いやー赤ちゃんに状況説明を求めても無理でしょう。いいから早く、なんかおばあちゃんの知恵袋的なものでどうにかしてー! Y○hooの知恵袋でも可。


「あーもうどうしましょう! あ、治癒魔法を使えばいいのか」


 わーお、うちのお母さんは天然でした。というか治癒魔法なんてものまであるのか、一つ勉強になったね、じゃねーよ! 早く治せよ! もう頭が割れるとかではなく、取れそうだよ。もとれちまったかもしれないよ! 俺の頭がフライアウェイ! だよ。


「柔らかなる愛よ、すべてに等しき癒しを与えたまえ、ヒール」


 柔らかな光に包まれる俺、なんかその図は神々しく、俺爆誕といったサブタイトルでもつきそうな勢いだった。しかし治癒魔法すごいな。痛みが全くない。


「アル!? ねぇアル!?」


 しかしなんか頭が疲れている。頭が正常に働かない。ああ、だめだ瞼がゆっくりと落ちていく。ああ、深き眠りの世界へようこそ。

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