新大陸と身体逝く
どうして仕事というと嫌々になるのだろう? 自分で進んでやるときはあんなに頑張れるというのに。やはり人間というのは人からやれて言われると、どうしてもやりたくなくなるのだろう。しかし、人間は人に任されると嬉しいと思う感情があるらしい、わけがわからないよ。自分は今その、仕事を任されてやりたくないという気持ちがすごい。もう、何もしたくない。むしろ仕事以外の事すらやりたくないのである。
「立派な船だー! わーい、エスポワールと名付けよう」
だけど、この船のワクワク感で全てが上書きされてしまうのだ。俺って単純だね!
この街は大陸最南端にある。故に海に面しているため、港などの施設も完備してある。そこには事あるごとに匠の小さなこだわりが見え隠れしていた。
そしてその匠の施設に一際大きな船が停留していた。大きな帆船で、数百人規模の客を運ぶことが出来るだろう。やはり、噂程度の情報なため、万事に備えるようにこうなったのだろう。逆に考えれば、これほどの規模の船を動かせるほどに確信を得た情報なのだろう。
「アールートー様ッ!!」
そしてそんな船を眺めていると、横方向からの強烈な衝撃によって俺は真横に水平に吹っ飛ぶ。まさか真横に向かって落ちていく事があるとは、あれは特有の表現だと思っていたが現実でもあることが今わかった。
「ああ、会いたかったわ任務を受けてる間でもあなたのことを思っていたら夜も眠れず又弄りよ! ああ、本当に会いたかった」
鈍く赤い鎧の塊が俺にまとわりついて居た。決して大柄ではないのだが、俺自身が小柄なことと、これの鎧が重鎧ということもあり、すごい圧迫感だ。
そして、この動く重戦車みたいな鉄塊はレギオンのメンバーであるフェリスだ。彼女を一言で表すと姫騎士ビッチという訳のわからない属性の女だ。外見は美しい金の髪を腰まで伸ばし、緑色の瞳が綺麗な女性だ。もう外見に至っては完全に大人のゲームの姫騎士みたいな感じである。もうなんかすぐち○こに負けそう。でも彼女は割と性についてはオープンで、下ネタだろうとなんだろうとなんでもござれだ。そこが少し残念な感じでもある。
「わーフェリスさんだー嬉しいな」
鉄の鎧に俺の無感情な声が響く。
「そうか、私も嬉しいぞ? よし、ベッドに行こう」
「行くか! バカ野郎こちとらこっから仕事の時間なんじゃい」
「私とも仕事をしよう」
「しねーよ! というか話は聞いたのか?」
「聞いたさ、船に乗ってどっかに行くのだろう?」
概ね間違っていたなかったので、訂正するのはやめておいた。
「そうだよ。そしてもう出発の準備は済んでるからさっさと乗るぞ」
「ふむ、しょうがない。では今夜は船の中ですることにしよう。船ではしたことがない、少しワクワクだ
な!」
目を輝かせながら最低なことを言う奴だな。俺としてはありがたいのだが、エリナさんの目が厳しいので、流石に怖いのだ。エリナさんなら、俺のことを簀巻きにして、海の中に投げ込むとか普通にしそうだ。というよりするな。
「ふぅ、とりあえず船長さん、出発でいいですよ。最後のメンバーも来たんで」
港の船の近くにいる屈強な男に話しかける。盛り上がった筋肉は真っ黒に日焼けしており、細かい生傷が目立っていた。口に蓄えたヒゲがダンディーなおじさんで、腕には錨のマークのタトゥをしているのが分かる。
「大丈夫なのか? こんな女子供と老人だけで、これは重大な任務なんだぞ?」
「いやー重大な任務だからこそ、十代で頑張ろうと、ってあんまり面白くないか。別に大丈夫ですよ。多分、この六人が居れば大体の国は落とせるんで、あんまり気にしないでくらーさい」
実際俺のレギオンは少数精鋭がもっとーだ。別に俺が大勢の人間が居ると縮こまってしまうとか、そもそもそんなに多くの人間を誘うことができないというのは関係ない話だ。本当に関係ないからね? 故に一人一人の力は一騎当千だといいなぁ、という希望的観測を述べることにしよう。
「まぁ、君たちが大丈夫だというなら良いが」
「まぁ多分ですけど大丈夫ですよ」
別に亜人へ会いに行くだけだ。S級のダンジョンを攻略するわけではないので、なんとかなると思う。
「じゃあ、乗ってくれ。船の上では何が起こるかわからない。準備は大丈夫か?」
ここできっとロープレなら選択肢が出てくる気がする。俺は準備万端でもいいえを選んでしまう天邪鬼なのだが、今回はいいえを選んだ後、速攻で話しかけて出発しようなんて言ったらおかしな人になってしまうので、やりたいという気持ちを必死に抑えて準備万端の旨を伝える。うん、喉まででかかったね。
「よし、乗ってくれ。じゃあ出発だ」
俺も船へと乗り込むことにする。こういう帆船に乗るのは初めてだから楽しみだ。
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「うげえええええええええええええ」
胃が飛び出るような感覚に陥る。中身を全て吐き出した筈なのに、なぜか吐き気が収まらない。どうしてだ? 頭の中はお花畑なので、こういう気持ち悪くなることは持ち前の明るさか何かで、大丈夫かと思ったがどうやらそれは無理だったようだ。
「はははは、吐きすぎだろ」
「おう、笑ってんじゃうげええええええええええ」
昔フェリーに乗ったことはあったが、ここまでの揺れじゃなかったはずだ。もう酷いなんてものじゃない。そんなに波があるわけではないのに、甲板はすごい揺れだ。二人の男の間で揺れ動く女性よりも揺れている。もうどっちかにはっきりして欲しいものだ。しかも……。
「また出たぞ!!」
海は魔物の巣窟である。本来迷宮からしか出ないハズの魔物は、海では大量発生だ。どうやら海の底で迷宮が発生して、誰も攻略も、間引きも不可能なため溢れた魔物が海を占拠しているらしい。故に海を渡るという行為は割と命懸けなのだ。そして俺も船酔いのせいで命懸けの航海を強いられているんだ!
「ほいほーい、さぁカイエやるんだ」
「おい、また俺かよ、少しはアオも戦えよ」
「聞きましたフェリスさん。女の子に任せようとしてますよ?」
「ええ、酷い男ですわよね」
「あーやりゃあいいんだろ!? 糞がッ」
いつも通りののやり取りを見てムカムカするのである。なんで俺がこんなに苦しんでいるのに、あいつらはいつも通りなのだろうか。これが育ちの違いというものだろうか。これだから野蛮な人間どもは嫌なのだ。ここで繊細な人間かどうかがわかるというものだ。
「エリナは気持ち悪そうだな」
「何を言っているのかわからないん」
明らかに顔色が悪いのである。人前で履くわけにはいかないという淑女の最後の砦でなんとか我慢しているだけである。なんだろう、我慢している女の子ってすごく興奮します。
「我慢すると体に悪いぞ。こうやって全てをうげええええええええええええええ」
海に向かって養分を撒き散らすのである。もう何もない、俺には何もないのだ。なので俺から奪わないで欲しい。これ以上胃の中身を奪わないでください。なんでもはしないですけど。
「吐きすぎ、アルトは昔から根性がないね」
もう真っ青な顔である。完全にアオミドロって感じ、別にアオミドロはアオではないんですけどね! というより流石にここまで言われて何もしない訳がない。ここまで来たら、吐かせてやろう。相手が女の子だろうと関係ない。今後グッズ展開などするわけがないので、イメージ商法などはいらないのだ。今後の展開より、今の面白さだ。大丈夫、今後今回のゲロがマイナスな感じになるのなら、公式で黒歴史になって、一生触れられないから。
「もう起こった! 絶対に吐かせてやる」
「やめ、巫山戯るな」
やはり相当余裕がないようだ。これは一突きで破裂するだろう。さぁ、この大海原にゲロのアーチをかけてやろうではないだろうか。ゲロのアーチ、略してゲローチだ。さぁ、ヒロインだなんて安心しているような奴には、この世界はモブだろうとメインだろうと誰しもが汚れ役をしなくちゃいけないということを体で分からせてやろう。
「うぷ、とりあえず、動こうか?」
座っているエリナさんを全力で追い立てる。この揺れの激しい船の中を走るというのはほぼほぼ自殺行為というもので、あっちに倒れ、こっちに倒れと、まるでだるまみたに弄ばれてしまっている。そしてそれはエリナさんも一緒であった。
「やめなさい、これ以上するなら怒るよ?」
ふむ、エリナさんを追っかけても楽しいし、怒られても興奮するという一石二鳥になるのではないだろうか? ならばここで俺がやめる理由がげえええええええええ
「汚いわよ!」
「さぁ、エリナも一緒にゲロの世界へと行こうよ」
「いやよ、うぷ」
流石に苦しそうだ。後ひと押しで彼女のダムは崩壊するだろう。さぁ、さぁ吐く姿を見せてくれ
「おい、爺さんエリナを抑えてくれ」
「ほっほほっほ」
ちょうど甲板に居た我がレギオンメンバーである爺さんに手伝いを頼む。人の手助けを受けてでもエリナの吐く姿が見たいのだ。人は未知への探求が行動の根源にあるのだ。何かを知りたいという欲求が全ての行動の理由にあるのだ。人類の発展は探究心の名のもとに行われてきたのだ。ということは今俺がやっていることは人間の進化の過程と言っても過言ではないのだ。
「おい、爺やめろ!」
「ほっほっほ、うげええええええええええ」
「「お前が吐くんかい!」
今日も船の上は平和です。




