帰ってきた日常
怒られる、それは人にとってとても大事なことだ。間違ったら怒られるし、いけないことをしたら怒られる。まぁその点俺に関しては怒られることが少ない人間なので、正しい人間と言えるのではないか? まぁ怒られる以前にドン引きされてしまい、起こる余地すらなかったというのが正解なのだが。なぜこんなことを話しているのかというと、今、俺がその説教という前々世以来のものに遭遇しているからだ。怒られる、これは素晴らしいものだなぁ。やはり人は怒られて成長するのだろう。
「俺は、お前をどうやってしかったらいいかわからない」
わーお、俺の成長するためのステップがなくなってしまった。これは俺が成長しなくてもいいという神からのお告げかな? じゃあしょうがない、俺はいつまでも子供の心をもっているべきだな。うん、前世と変わらないね。
「確かにお前がやったことは禁忌と呼ばれるものだ。しかも自分の命すらも危険を及ぼして発動させた。それは起こるべきことだ。しかし、リオナを救ってくれたのは事実だ。俺はどうしたらいいかわからない」
おいおいおい、それでいいのか? まぁ、人間はいつも悩み続ける生き物だからね、わからないという答えにたどり着いただけでもよしとしようか。
「はぁ」
ここは殊勝な態度で受けておこう。
「それだ、その態度だ。お前はその年とは思えない反応をとる。だから俺も、お前をどうしていいかわからなくなる」
しまった、選択肢をミスったか。割と人間らしい行動をしたと思ったが、人間らしすぎたか。人間らしすぎて、人間ぽくなくなってしまったか。
「ということで、今回のことは俺は何も言わん」
「はい」
あーあ、厳正な処罰がって、え? いいのそれで? まぁ俺にはこういうときどんな風にすればいいのかわからないから、何とも言えないがそれは正しいのか?
「でも、次にお前が自分の命すらも危険に晒すような行動にでたときは、俺も死ぬ。それがお前を自分の命を投げ打ってしまうように育ててしまった俺の償いだ」
「……はい」
どうやら俺のやったことは自分が思った以上に悪いことのようだ。親をここまで思いつめさせるのは、流石に心が痛い。そういえば前世もこんなことがあったな。小学生の頃、泣いてあなたがわからないと言われたのを思い出した。流石にあの日は応えたな、俺でも傷つくことがあると初めて知った日だ。
「もう行っていいぞ。そうだ、リオナに会っておけ、何か話したいことがあったみたいだから」
「はい、分かりました」
ゆっくりと俺は父の書斎から出る。今後は少しおとなしくしよう。そう反省した出来事だった。
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「あら、どうしたのそんな悲しそうな顔をして?」
俺は言われたとおり、母の部屋まで来ていた。そこは午後の日差しがふんだんに入り込んでおり、部屋の中なのにおひさまの臭いがしていた。そんな部屋の中心で、母は幼き双子をベッドの上に寝かせ、ゆっくりと二人の頭を撫でていた。
「父様に叱られまして」
「そうね、あなたはそれだけのことをしたのよ」
「反省してます」
あまり俺には理解できていないが、悪いことをしたというのは周りの様子で判断できる。これも長年生きてきた俺の処世術といったところか。
「こっちにおいで」
ゆっくりと母に誘われ、ベッドの近くまで行く。そうして俺は母に抱きしめられた。
「もうこんなことはしないでね。私は、自分よりあなたの方が大事なのだから、子供の命を使って生き返りたいと思う親なんていないわ。だからもう絶対にしちゃダメよ」
「……」
なぜか涙が出てきた。もしかしたら俺は初めて泣いたのかもしれない。これが何かはわからないが、何かこみ上げてくる。初めて感じた感情だ、これはなんだろうな。
「ああそうだ、この子達を見てあげて、なんだか実感がわかないんだけどね。でもわかるのよ、私の子供だって」
ベッドの上には、小さな小さな、二つの生命があった。俺によく似た白に似た金色の髪が少し生えていた。小さいながら、俺に似て、将来が有望だ。でも、流石に俺みたいな人間じゃないよね? 流石にそれは愛せない。普通の人間が転生してきたならいいが、俺みたいなのが転生してきたら流石に吐きそうだ。
「女の子がリーネ、男の子がアース。二人共可愛いでしょ?」
確かに、生まれたときに感じたあの感じ、今も二人に感じている。カワユスな、しっかり俺好みに、っていけないけない、子供は自主性を大事にしないとね。
「可愛いです」
「そうね、これがきっと愛おしいってことなんでしょうね。私はアルトも大好きよ」
「僕も母様が大好きですよ」
「あらあら、相思相愛ね」
なにか違う意味に感じるんですが、まぁ俺も人間らしい感情があったと気づけたので細かいことは気にしないようにしよう。
「そうだ、エリナちゃんも心配してたわよ。会って元気にしてあげて」
「分かりました」
俺は、ゆっくりと部屋を出て行く。なんだかお使いクエストみたいだな。まぁ心配かけた手前、文句は何も言えないのだが。
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「愛しのエリナさーん、あなたのアルトが来ましたよ!!」
エリナの部屋に飛び込む。俺の全身であいを表現したダイブに、きっとエリナさんもメロメロになるはずだ。
「あら嬉しいわダーリン、すぐにでも式を挙げましょう」
「おえええええええ」
何とも言えない嫌悪感が、俺の腹のそこからこみ上げてきた。
「嬉し吐きとは、私も貰いゲロしてしまいそうだわ」
「俺のエリナさんをどうした!?」
「どうしたの? ってアルト帰ってたんだ。心配したんだよ。顔色が悪いよ? 大丈夫?」
「このこは、生きている喜びを全身で感じてるのよ」
確かに、生きていないとこの腹の底から臓腑を握り締められるような嫌悪感は味わえないだろう。決して味わいたくない感情だが。
「やぁ、やぁ、エリナさん、僕はとても元気ですよ」
全身にアオの気持ち悪さを感じながら、俺は精一杯の元気を表現する。
「なら、いいんだけど……でももう心配かけるような事しちゃメだよ。みんな心配したんだから」
「そうよ、私なんてあなたのことが心配で、夜も眠れない気がしたのよ」
気がしただけかよ。ということはしっかり寝てるんじゃねーか、と突っ込むと完全に俺の負けになる気がする。
「あら突っ込んでくれないの? 私寂しい」
「はい、エリナ。これからは無茶をしないようにします」
「無視するのね、いいわそっちがその気ならこっちもこの気よ」
この気ってなんだよ。という突っ込みも入れない。無茶しないようにするといったので、俺は約束を忠実に守る。こいつにツッコミを入れるのは精神的な無茶になる。なので、俺はシカトを決めることにする。
「あらこれも無視? 虫は無視ってね。って誰が無私じゃい!!」
なんか、いろいろイントネーションがおかしいが、無心で無視する。
「静かにしなさい」
「はーい」
こうやって僕の平穏な日々は過ぎていくのでした。
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「驚異は排除する。それは決定事項だ」
とある時間のとある場所。暗闇の中、複数の人間が集まり、秘密の会談を行っていた。それはこの場の雰囲気と相まって、とても邪悪に感じる。
「たかがクソ田舎のクソ野郎なんてクソ殺す必要があるのか?」
「いずれ必ず驚異になる。あの問題児のアレンがこの件に関与しているようだ」
「へぇーあのアレンが、それは厄介。本当に厄介だ」
魔力の満ちた空間、そこに集まるは、魔術師達。その会議の内容はかなり物騒なものだった。
「そういうわけだ。危険対象は早急に排除するべきだ。早めに潰さなくては、我々では対処できなくなる可能性がある」
「そういうことか、確かにあの異端児が教えるとなると、成長は一気に促進され、危険域に達するか」
「そうだ、故に未だ幼いうちに潰すべきだ。それに手紙の内容から察するに、我々の存在自体を脅かす存在になりうる。それはあってはならないことだ」
手紙の内容には、無詠唱、新たな詠唱方法などが記載されていた。これが広まるのは我々にとっていいことではない。それがあんな小さな子供からとすれば、こちらの立つ瀬がない。今のうちに消し、その功績をこちらのものとしなければ。
「そういうわけだ。ではイース、カイア、この件は任せたぞ」
「分かりました」
「俺がやんのかよ。こんなクソめんどい仕事を? しかも相手は子供だろ? 村級二人もいるか?」
「それは私の勘だ。それに十人ほど魔術師も付ける」
「そんなに危険視しているのか、そのクソ野郎に。わかったよあんたの勘はよく当たる。気を抜かずに行くよ」
「では、頼んだ。ここからその村までは一年ほどかかる。準備をしておくように」
「あれ? 俺の魔法で行くんじゃねーのかよ? てっきりそのために俺が選ばれたんだと」
「お前の魔法は、一回使うと当分使えないだろう。それは奥の手に取っておけ、お前の魔法が役にたつような気がする」
「クソが、めんどい上に、一年かよ。これはクソめんどいな」
「しかし、これは放っておけない案件だ。至急頼むぞ」
「はいはい、クソ分かりましたよ。んじゃ、子供をやるのは気が引けるけど、俺たちの邪魔になるんじゃしょうがない。さっさとクソ殺しに行きますかね」




