パワーアップ?
「あばばばばばばばああああああ」
俺は、何が何やら分からない状況に陥っていた。
「うるさいわね。アバアバ言ってる暇があったら倒しなさいよ」
「うるさい、倒せるなら、最初にぶっ殺してるわ。俺は手加減などしない人間なのだ」
「じゃあ、あんたは意外にしょぼかったってこと?」
俺は、奴の攻撃を必死に避け続ける。図体はでかいのに、ものすごいスピードで動くので、かなりきつい。普通でかいのは鈍いんじゃないのかよ。
「そうですねー」
俺の背後の壁が轟音と共に削れていく。
「でも、これはしょうがないっしょ」
外皮がとても固く、どんな魔法も通らないのだ。頭の部分を攻撃しても、そこは魔法に対してのバリアが張られていて、どうしようもないのだ。剣で倒そうにも、あんな高速移動する物体に、切りかかるのは不可能なレベルだ。
「しょうがないで、世の中生きて行けると思うの?」
「人生なんて妥協の連続ですよ」
「あら、その年の言葉とは思えないわね」
そりゃあそうですよ、だってこの年齢じゃないわけですら。
まぁ、そんなことは、とりあえず置いといて、これをどうにかしなくちゃな。ふーむ、何かいい案はないかな。
とりあえず、いい案を出すために、音魔法でポクポクポクチーンという効果音を出してみた。
「何も思いつかん」
「あなた、莫迦なの?」
失礼な、あの有名な坊主も愛用した効果音だというのに。
そんなふざけたことをしながらも、俺たちはミミズの攻撃を避けていく。俺は、魔法や身体能力を駆使して、無理矢理避けていく。時には自分の体に魔法をぶち当て、時には相手にぶち当て、その反動で。
アオの方は、相手の動きを予測して、何とか避けているようだ。俺よりアオの方が身体能力は高いので、直線的な動きをするミミズは何とか避けれるのだろう。
「さすがに、このままじゃじり貧だね」
「ええ、ジリ貧は不味いわ」
こんなとき漫画なら、よく分からない科学現象の説明とともに、魔法を相手にぶち込み、なんかよく分からない力で勝ってしまうのだろうが、残念なことに俺は頭が悪いのだ。科学など俺では、理解できないレベルのものなので、どうしようもないのだ。
「あーじゃあ次は土系の魔法でも撃つか」
こうやって、手当たり次第魔法を試していくしかないのだ。
何個か倒す方法は思いついたが、相手に当てられるかが問題なのだ。これほどのレベルのものを倒すには、かなりいい感じにイメージしなくてはいけない。故に、こんなに激しく攻撃をされては、発動すらできないのだ。
「なぁなぁ、アオさんや」
「何よ? ミミズのおいしい調理の仕方なんて知らないわよ?」
「僕もそんなことは知りたくないので大丈夫です」
というか、食うつもりかよ。俺は、倒した獲物は食べなくちゃいけないなんてルールは設けていないので、倒したとしても問題なしだ。というより、俺の場合目的があって殺す方が少ない気がしないでもない。
「じゃあ何よ?」
「何とかあの化け物の動きを止めてくれません? アオが身を挺して、私ごと貫くのよ! と言ってくれるとなおよしです」
「嫌よ。あなたの場合、最大火力で私だけを亡き者にしようとするもの」
あらら、酷いなぁ。僕だって、アオの体を爆弾にして、この部屋ごと吹っ飛ばすくらいしか想像してないというのに。まぁ爆発しても、多分あのミミズは倒せないので、無駄死になると思うが。
「というか、私ならそうするもの」
この娘は最低のクソ野郎だったようだな。仲間を攻撃するなんてクソ野郎だ。仲間を大事にしないやつはなぁ、ルールを守らないやつより最悪なんだぞ? まぁ俺はルールも仲間も大事にしないので、何の関係もないが。
「でもどうするかなぁ」
なんか、面白みに欠けるんだよね。なんか、このまま普通に戦ってても、普通のバトル漫画みたいになりそうなんだよねぇ。そんなのは俺の感性からしたら、ノーセンキューなんですよねぇ。
「ねぇ、そろそろ本気でやってくれない?」
「えー? なんのことやら」
「そろそろ私も避けるのが、疲れてきたのよ」
命の危険より疲労感ですか、俺が言えたことじゃないが、なんかずれてるよなぁ。
「まぁ、大体は理解できたから、もう大丈夫だと思うけどね」
「あら、じゃあ早く殺してくれる?」
「えー、もっと過程を楽しめよー」
「嫌よ。ミミズと遊ぶなんて、そこら辺の子供に任せなさいよ」
「そりゃあそうか、ミミズにおしっこなんてかけてる暇ないもんな」
いや、待てよ? こんなでかいミミズに小便をかけたら、俺のあそこもビックマグナムなんて比にならないぐらいでかくなるんじゃないか? 88ミリ砲もびっくりな感じになるんじゃないか? いや、そんな腫れてもいいことないからやめておこう。
「ほら早く殺しなさいよ」
「ヘイヘイ」
しょうがないので、俺はミミズの処刑へと行動を移す。とりあえず、適当に殺すか。
水をひたすら圧縮する。水魔法は得意な方なので、そこまで集中はせずにできた。ただひたすらに圧縮し続ける。
その間に相手が攻撃の手を緩めるわけもないので、俺はひたすら避け続けながら、魔法を展開し続ける。同時に魔法を展開するのはちょっとめんどくさい。思考を分割して、魔法をイメージしなくちゃいけないので、苦労が二倍では済まないのだ。
だがまぁ、そんな泣き言を言ってる暇はないので、俺頑張るよ!
「まぁ、モンスターにしてはいい方だったんじゃねぇの? まぁそこそこだったけどな」
俺はその圧縮された水を、高圧で噴射した。鱗の硬度は、魔法を打ち込んでいるうちに何となく分かった。これぐらい圧縮させておけば、多分貫通するだろう。
シュっという静かな音がしたと思うと、細い水の線がミミズへと走っていく。一瞬でミミズまで到達したかと思うと、その線はミミズを貫通し、この部屋の土壁すらも貫通していった。
「さてと、じゃあこのまま切断しますか」
俺は、ゆっくりと横へとずらしていく。痛覚でもあるのだろうか、ミミズはものすごい勢いで身悶えている。だが、俺はそんな姿を見て可哀そうとも思える高尚な感情は持ち合わせていないので、なんの感情も持たず無慈悲にも、俺は切断していく。
「はい、いっちょ上がり」
俺の目の前には真っ二つにされたミミズがあった。切断面からは何か黄色い液体がとろーりの流れ出ている。
「ふむ、こんなもんか」
所詮最低ランクの迷宮ということか、まぁそこそこ楽しめたしいいか。どうも平和ボケしすぎてるんだよなぁ。まぁ平和が一番なんですがねぇ。
「終わった?」
「アオさん、あんたも少しは働きましょうよ」
「あら、良い妻とは夫の働きに何も口を出さないものよ」
「あんた妻でも何でもないじゃないですか」
「あら、それは何を持って妻とするかみたいなこと?」
「あーいいや、なんかめんどくさい話になりそうだから」
こんなところで不毛な話をしていてもしょうがないしな。さっさと外に出なくては。ここら辺の穴が外に通じてないかな。
「さっさと帰ろうぜ」
俺は何かの気配を後ろに感じる。
「ちょっと、嫌な気がするんだけど」
「ああ、僕も感じるよ」
あー、たしかミミズって切ったら二つになるんだっけ? そりゃあ死なないわな。切るのはあまり得策と言えなかったか。
ギチギチという音とともに、二つになって襲い掛かるミミズ。さきほどまでの大きさのミミズが二匹になっていた。
「あーもうめんどくさいからいいや」
「そうね、流石に私も帰りたいわ」
俺は魔力を込め、ミミズを殺す。
ドシーンという気の抜けた音と共に、ミミズが倒れていく。
「はい、こっちは終わり」
「私も終わり」
そこには風化したような感じのミミズが倒れていた。多分ミミズから水分を無理矢理奪ったな、だからミミズ自体がボロボロになっている。恐ろしい技だ、アオの残酷さが如実に表れている魔法だ。恐ろしい人間だ、いや人間の風上にも置けない屑野郎だ。
「何? 私が感情のない殺人機械だ、みたいな目」
「いやー、おっしゃる通りです」
「あら、素直な意見に私泣きそうだわ」
まぁ、完全に子供の発想ではないよね。もっと子供らしさというものを出せないのだろうか? これだからニンゲンモドキは嫌なんだよ。
「でも、あなたに言われたくないわ。あなただって体内の液体を沸騰させるなんて、鬼畜の所業よね」
「ひどい、子供故の残酷さだよ」
「え? 人間の小さい頃を子供って言うのよ?」
ん? 俺、人間じゃないの? まぁ自覚してるんだけどね。自覚してるが故の悲しさというものだよな。
「さて、まぁ出口でも探すかねぇ」
俺が戦闘モードから、探索モードへと気持ちを切り替えたとき、化け物の死体が物凄い勢いで、光りだした。
「なにこれ? パターンBですか? そんなもんはないとかいうパティーンですか」
「何をとち狂ってるのよ」
「狂わずにいられますかい、こんなの想定の範囲外ですよ」
光はどんどん眩しくなっていく。七色にも近い色を出しながら、光り続ける。
風化でボロボロになっていたミミズですら光っている。これはなんですか? ガイアが俺に輝けとでも言っているのですか?
「なんであなたまで光ってるの?」
「いや、このビックウェーブに乗らなくちゃと思って」
「何を言ってるのか分からないのだけど」
「大丈夫、僕も混乱中だ」
さて、この発光は何を示しているのだろう? ま、まさかこの発光は宇宙との交信手段で、これから起こる宇宙大戦争の引き金だったのだぁー! な、なんだってー。とまぁ冗談は置いといて、とりあえず何か分からないから、逃げよう。
「何一人だけ逃げようとしてるのよ!?」
「いや、危ないものからは逃げるべきじゃん」
俺はダッシュで、死体から逃れようとする。
「それは正論だけど、一人で逃げ出そうとしてるところが最低よね」
人間、最後は一人なのです。群れることで、牙を抜かれた獣にはなりたくないのです。まぁこの状況とは全く関係がないのだけど。
「光が強くなってるな」
光るとともに、点滅し始めた。まさかカラータイ○―だとでもいうのか? 宇宙に帰る時間なのか?
ん? 俺は何か違和感を覚える。なんだろう? うーん、よく分からない。何か、目障りな感じがするのだが。ああ、妖精さんが少し慌ただしそうだ。この光に怯えているのだろうか? いや、違うな。なんだろうこの感じは……うん、よく分からない。
いいたことは言わなくちゃ伝わらんのやで! まぁ、喋れないんですがね。
「って、何それ?」
さっきまで光っていたミミズは、粒子みたいになっていた。いくつもの光の玉が、ふわふわと浮いている。
「わー綺麗ね」
「ミミズだけどね」
元ミミズさんは、たくさんの光となって、今もお空からみなさんを見守っているのでした。なんて、めでたしな感じで終わるわけないよな。
さて、本格的に逃げよう。よく分からない現象が立て続けに起きるということは、何か良くないことが起きるという事だ、ソースは俺。
俺が必死に出口を見つけようとしてると、さっきまでふわふわ浮いてるだけの光の玉が、何かを探してるかのように、動き出した。
「なんですと―!?」
死してなお、我が覇道を邪魔するというのか、ミミズ大将軍! とまぁ冗談を言ってるわけにも行かない。これは本格的に逃げよう。
「逃げるぞ!」
「分かってるわよ」
しかし、出口が何処だか分からん。風でも出ていれば簡単なのだが、ここまで深い穴だと、地上から風なんて来ないし、見分ける手段がない。
なんやかんやで悩んでいると、光の玉が猛スピードで俺たちの方へ突っ込んできていた。
わぁー光が綺麗、ロマンチック。なんて言ってる余裕なんてなく、訳の分からない光の偶に追いかけられるなんてノーセンキュ―。
「アオ、ここは僕が何とかしよう」
「わぁーなんて頼りになる言葉なの、私を盾にしてなかったら、なおよかったわ」
「僕のために犠牲になってくれ」
犠牲はつきものさ、人間が生きて行くためには、人の屍を土足で踏みにじるような、あまつさえぐりぐりと靴の裏に着いたガムをこすりつけるような、そんな強さが必要なのさ。
光は俺たちの数倍早い、ゆえに逃げるのは無理だ。アオには犠牲になってもらって、光をやり過ごすとしよう。
「ごめんな」
「謝るな手を放しなさい!」
それは無理な話だ。手を放したら、俺が危ないじゃないか。
「さぁ、光よ来い」
「来ないで!」
光がアオに突っ込む、いや突っ込んだように見えた。
「カーブ!?」
まさかのカーブだ。光が曲線を描き、俺の方へ突っ込んできていた。
「ふ、負けたぜ。決め球がカーブだったとはな。あんなストレート見せられた後に、このカーブ。行けよ全国に」
と、訳の分からない台詞を吐いている俺に、光は容赦なく突っ込んできた。いや、正確には俺についている妖精さんにだ。
「よ、妖精さーん!」
「は? 妖精? 光に当たって頭がおかしくなったの?」
そんな罵倒の台詞も今の俺には届かない。苦楽を共にしてきた妖精さんに、謎の光が当たってしまった。
なんか妖精さんまで光りだしたんですけど。これはどういう状況なんでしょうか? 僕にはさっぱり分からんとです。もう、頭がこの状況についていけんとです。
ひときわ大きな光を放ったかと思うと、いつものようにくすんだ黒色っぽい感じの妖精さんに戻っていた。これはなんなんだ? 何が起こったというんだ?
「ねぇ、あなたの肩の上あたりにふよふよしているのは何?」
「え?」
なんのことを言っているんだ? 俺の肩の上あたりには、妖精さんしかいませんよ?
「見えとるの?」
「ええ、なんか気味の悪い変なのが」
どういう事だ? これまでは俺しか認知できていなかったのに、あの変な光を浴びてから、妖精さんが、他人のも認知できるようになった?
ま、まさかあの光は妖精さんをパワーアップさせるための、オプションパーツだとでもいうのか? そんなことがあるのか? というか妖精さんは何者なの? 俺の体を蘇生したり、変な光を吸収したりで、マジでよく分からん。
「まぁ、これは僕の使い魔とでも思ってください」
「使い魔? でもそんな変な生物見たことないわよ?」
この世界では召喚が禁止されているため、使い魔というと、普通の動物を魔術で改造するのが一般的だ。なので、基本は見たことあるような動物しか使い魔はいないらしい。
「あーこれは、アマゾンの奥地で百年に一度だけ咲く花を餌としている、チュパカブラーンです」
われながら、完璧な嘘だ。なんとか探検隊が発見したとかも入れた方が良かったか?
「まぁいいわ。あなたが理解してるということは、危険なものではないんでしょう」
「そうなのです、ワタシウソツカナイ」
まぁ、こんなどうでも良いことは放っておいて、早く出口を見つけなければ。そろそろ子供の体力ではきついものがある。家に帰って、そこまでフカフカでもないベットで寝たいもんだ。
「って、なんか揺れてない?」
なんか地響きがしている気がする。
「ええ、揺れてるわね」
これは完全に地震ですよね。地震によって引き起こされる事象はなんだろうか? ここは地中、しかもただ穴が掘られているだけの脆い穴だ。
「こりゃあ崩れるな」
「ええ、崩れるわね」
天井の土がボロボロと崩れてくる。段々と揺れが強くなってくる。
「どうしよっか?」
「どうにかしなさい」
「そんなー僕にはそんな力ないですよ?」
「力がないなら捻りだしなさい」
「無理だよ」
「無理じゃない」
まぁ死にたくないのは俺も同感だ。何とかしなくちゃなぁ。
「まぁ、適当にしましょうか」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「おい、アルト! 返事をしてくれ!」
声が聞こえる。地上がもう近いってことか。もう少し頑張りますか。
俺はもう少し魔力を込める。ガガガガという騒がしい音が俺の耳を支配する。
「おい、アオ起きろ。もうすぐ地上だ」
「もう、この世には私とあなたしかいないのね」
「やめろ。世界系の終わりみたいな台詞を吐くんじゃない」
「冗談よ。もう地上?」
「ああ、お待ちかねの地上だ」
ボコ、という音と共に、ガガガガという音がやんだ。どうやらやっと地上に出たようだ。
俺は魔法を解除する。
「やっと地上ですか」
俺は土魔法を使い、球体を作り、その先にドリルのようなものを付け、地中をひたすら上に向かって歩り続けた。風魔法を使い、中の空気を作りながらだったので、かなり疲れた。もう尋常じゃないぐらい疲れた。
「ふー、疲れた」
「ア、アルト?」
「た、ただいま」
「どこ行ってたんだ!」
「えっと地中?」
他に説明のしようがないんだよなぁ。何処にいたのかは俺自身でも分からない。
「アオも! 二人していなくなって心配したんだぞ!」
「すいません」
ものすごい勢いで怒られる俺とアオ。まぁ、その気持ちは分からないでもない。心配かけたのは事実だしな。ここはおとなしく怒られよう。
「まぁまぁアルバ、二人とも無事だったんだし、よかったじゃないか」
「本当に心配したんだからな!」
涙でぐしゃぐしゃのアルバに、俺たち二人は抱きしめられる。まぁ、心配されるのは悪い気分ではないし、おとなしくしていよう。
「帰ったら説教だからな!」
やっぱりおとなしくするのはやめて逃げようかな。




