表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狂人転生記  作者: aki
むくむく成長編
11/55

最終回詐欺

 誰かが言った、死とは甘美なものだと。誰かが言った、死はこの世の救いであると。誰かが言った、死は絶望だと。

  死というものを誰も認識は出来ない。事象として誰もが知っている現象だが、誰ひとりとして、死を体験したものはいない。故に死、誰も経験したことのないものだから、絶対の存在として人々に認識される。

  誰にとっても死というものは、恐怖だ。死を認識し、平気で居られる人間が居るとしたなら、それは普通の人間とは言えないのだろう。


「あー、おはようさん。俺、生きてるっぽいね」


 俺は、誰もいない虚空に話しかける。


「また助けてもらったみたいだね。死ぬっていうのは、何回やっても慣れないもんだ」


 この瞬間だけを見たら、変な人間だよなぁ。まぁ、こんなことをしなかったら俺がまともな人間か? と言われれば、ノーとしか言えないのだが。


「これは最終回詐欺とでも言われそうだな。いや、俺たちの戦いはこれからだ、エンドでもいいのか? まぁどうでもいいか」


 ふむ、やはり反応なしか。こうやって打てど響かずの状況は、俺としても嫌なんだよなぁ。


「理解はしてる。でも反応はなしか。意図的か? いや、どちらかというと反応しようという意志は見える」


 俺は、目の前に浮遊している物体に話しかけ続ける。こいつは、俺が生まれた瞬間から、俺のそばにあるようだ。目の前に浮かんでいるのは流石に厄介だったが、慣れてしまえば何とやら、最近では意識せずに普通に暮らしている。

 これは何のか全く分からない。俺が目を見えるようになったときにはもう、俺の目の前にいた。どこから来たか、なんなのかは全く想像がつかない。

 姿かたちは、ゼ○ダの妖精みたいな感じだ。しかし、認識は出来るが、触れない。存在しているのに、存在していないかのようだ。


 小さいころから暇つぶしに現状を報告していたのが、もう日課になってしまっている。俺が、独り言のように、近況を心の中に思っているとでも思っていたのか? それじゃあ本当におかしな人になってしまうじゃないか、もう、莫迦なんじゃない?


  しかし、俺の考えが筒抜けというのも、なんか嫌な気分だな。まぁ、俺の考えていることなんて、何の意味もないようなことばかりなのだが。


「しかし、生き返るというのも慣れない」


 最初生き返った時もそうだが、死ぬというのは慣れないな。でも、いずれこの感覚にも慣れてしまいそうで少し自分が怖いな。

 ああん? なんで俺が生きてるのかだって? そんなの主人公が死んだら、物語が終わってしまうだろうが、主人公補正で何とかなるだろうが。主人公補正という言葉で済ませれば、小さな道理など吹っ飛ぶんじゃーい、というのは冗談だ。ちゃんとそこら辺の設定は考えてありますよ! というか厨二病の俺は、設定から入るタイプですから、設定だけ考えて満足しちゃうタイプでもあるが。まぁ、そんなどうでもいいことは置いておいて、多分だが、俺の真ん前に浮いている妖精(仮)は、多分魔機のような働きをしているのだろう、説明終わり。だってわかんねーよ、そんななんでこいつがそんな能力を持ってるか、とか、なんでそんなのが俺についてるのか、とか、そんなの俺に分かるか! もうそこらへんは、主人公補正という事にしておいてほしいのだ。


「また、助けられたのか」


 俺がこの世界で死んだのは、最初に魔法を使った時だ。あの時は確実に死んだ、もうベストオブデスと言った感じだ。まぁ、それ以上は流石に無理をするのはやめたのだが、あれはビビったな。いきなりポックリだったからな。人の死などいつも身近にあるという事を、俺はあの時初めて感じたね。


「あら、目覚めたの?」


 ドアの外には、寝起きに出会いたくない人物№1のアオさんが立っていた。


「目覚めは最悪だね」


「あら、じゃあ今日一日ハッピーね」


 ふむ、そうなのか? 一日の最初が最悪なら、これ以上は悪くなることはないという事か。一理もねーな。


「大丈夫なの?」


「ああ、元気いっぱい、おっぱいだ」


「そうなの、じゃあ心配しないで済みそうね」


「まぁ、迷惑かけたよ」


「あら、素直じゃない」


「何を言ってるんだい? 俺はいつも素直じゃないか」


「素直って言葉がどんな意味か忘れそうになるわね」


「で、どうやって言い訳してくれたんだ?」


「うん? どういう意味?」


「アオも素直になれや、俺は純粋に感謝をしてるんだぜ」


 俺はあのとき確実に死んでいた。多分反動もヤバい。小さなころに蘇生したように、すぐに生き返るというわけにはいかない。多分二、三日ぐらいは経っているんじゃないか。そんな死体を二、三日もベッドで寝かせてるわけがない。


「私が、蘇生の踊りを三日三晩踊り続けるので、三日ほど待ってくれないかと言っただけですよ」


「はいはい、素直じゃないんだから。でもまぁ、感謝するよ」


「そうね、その言葉が大事なのよ」


「しかし、お前よくわかったな。僕が生き返るって」


 普通の人間だったら、誰も人間が生き返るなんて思わないだろう。まぁ、俺が直前にそんな販促をやってのけたのだが。


「あなたの事でしょう。自分勝手なあなたが、自分の身を犠牲にして、他人を助けるなんてありえないわ」


「酷いなぁ。俺は身内を大事にする方だぜ?」


「自分があっての身内でしょう? あなたの秤が、自分よりほかに傾くことはないでしょう?」


「まぁ、そりゃあそうか」


「ええ、あなたはそういう人間よ」


「まぁ、そんな僕が僕にこれ以上詳しくなるのはやめておこう、吐きそうになるし。さてどうしようか?」


「あら、これまでのように、のほほんと暮らしてればいいじゃない」


「多分、それは無理だよ。普通の人間は以上を容認できない。多分我慢は出来るが、いずれ壊れる」


「そうなの? そこらへんは、愛とかいう不思議なパワーを使えば大丈夫じゃない」


「愛なんて、そんな不確かなものには、世界は救えないんだよ」


 愛なんてもので、世界は救えない。世界を救うのは何時だって利己的な理由なんだ。


「そう、世界は救う必要はないと思うけどね」


「まぁ、例えさ。こんな小規模の家族は、僕とお前という異物で、もう限界なんだよ」


 日常は、徐々に壊れるのではない、一気に壊れるのだ。ふとしたきっかけ、なんでもないような仕草が、世界を簡単に壊す。世界とは、危うい均衡の上に建っているのだ。


「あら、大変ね」


「おいおい、他人事かよ」


「あら、私は自分が変な人間だとは思わないわよ?」


「そうかい、じゃあ君は人間じゃないのかもね」


「それはお互い様でしょう」


「ふむ、それもそうだな。どうするかなぁ、もう少し厄介になるのもいいんだけどねぇ。壊れてから初めて気づく大事なもの、みたいなことにはしたくないんだよね」


「無くなったら大事でも、大事じゃなくても変わらないと思うけどね、結局ないんだし」


「心の持ちようだよ。思い出は何時までも美しいのさ」


 さて、どうしたものか。俺も大事なものを壊して興奮する性癖はないしな。大事なものは、いつまでも大事にしておきたいんだよなぁ。


「宝物は何時までも宝のままでおいておきたいのさ」


「ふーん、あなたの場合、大事にしてた宝物に裏切られるのがお似合いだと思うけど」


「痛いとこをつくね」


「どこまでも似ていて、嫌になるわね」


「本当に嫌な奴だよ、お互いにな」


「あれー? アルト起きたの?」


「おはようございます。起きたときに、エリナじゃなくてアオが居て、とってもがっかりしましたよ」


「ごめんねー、でも大丈夫? アルト、三日も寝てたんだよ?」


「私の扱いが酷いわね。泣きそうだわ」


 ふむ、俺の見立ては正確だったようだ。まぁ、脳みそを完全に破壊して、三日で治るのであれば、いい方なのか? まぁ、生き返るという、チート級な技が使えるんだ、何も文句はないさ。


「もうおきて大丈夫だから、父様たちは?」


「今はまだ仕事、なんかダンジョン方魔物が溢れて忙しいらしいよ?」


 ダンジョンか。たしかここの近くのダンジョンは危険度も最低の、そこまで危険ではないダンジョンだと思ったが。まぁ、そりゃあ一般人からすれば、魔物なんてものは全部恐ろしいのか。


「じゃあ、まだ時間はあるか。どうするかねぇ」


 出ていく、と簡単に言えればいいのだが、今の俺はまだ六歳ぐらい。子供の俺がやっていくには、世の中そんなに甘くないと思うのだが。


「何が?」


「いえ、なんでもないですよ」


 あまりエリナに迷惑をかけるのも忍びない。普通の人間が、俺たちのせいで不幸になるのはもう見たくないからな。

 しかし、本当にどうするか。この謎の妖精(仮)もそうだし、この世界についてももっと知りたいし。


「まぁ、悩んでもしょうがない。なるようにしかならんか」


 俺は、これまでの人生、流されて生きてきたような人間だ。これから先も流されて生きて行くしかないだろう。


「あれ? もう帰ってきたみたいだよ? アルバ様! アルトが起きたよー」


「え」


 ちょっとエリナさん、心の準備ができてないのですが? どうしよう、なにか喋ることでも用意しておかなくちゃ。


「ふふ、子供は大変ね。思い通りに動いてくれないし」


「俺たちも子供だよ。はぁ、どうしたもんかねぇ」


 俺は頭を抱えながら、親へと喋る言葉の内容を考えるのだった。





          ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 食堂には、家族が全員そろっていた。エリナの両親は当然、アルバと、そしてリオナの姿もあった。

 全員が全員神妙な表情をしている。いや、一人アオを除いて全員だな。

 気まずい。非常に気まずい。俺はお気楽な人間だから、このようなシリアスなのは苦手なのだ。存在自体がふざけているので、真面目になるという事が出来ないのだ。


「あのー」


「黙ってろ」


 アルバの一括でシュンとなってしまう俺、別にかわいさアピールではない。今反論しても無駄だと言うだけだ。べ、別に怖かったわけではないんだぞ。


「なんていえばいいんだろうな。怒った方がいいのか、褒めた方がいいのか。俺は今迷っている」


「はぁ」


 そういうのが一番困るな。俺としてはどうでもいいんだ。俺は俺の思うように行動しただけで、その結果こうなっただけだ。俺には俺の矜持があるという事だ。


「まぁ、とりあえず、今は村が忙しい」


「おい、いいのかアルバ」


「しょうがないだろうケント、俺だってもう少し考えたいんだ」


 語気を荒立てるアルバ、それほど余裕がないという事か。


「お前のそういうところよくないぞ。問題を先のばしていいことなんて一個もないぜ?」


「しょうがないだろう! 俺だってこんなのは分からん!」


「「あなた!」」


 リオナとリストの声が食堂に響く。やはりこういう時は女性の方が強いな。


「あなたたちが喧嘩してどうするの?」


「少しは落ち着きなさい」


 まぁ、ここら辺の裁量は、大人に任せよう。俺が屁理屈をこねて、なんとか納得させることもできないわけでもないが、それは得策ではないだろう。世の中、正しい手段が正解になる場合の方が少ないのだ。


「悪かった。でもどうしようか分からないんだ」


「落ち着いて考えましょう。私が救われたのも事実、でもそんな危ないことをしたのも事実。そのことを踏まえて、あなたが決めてください」


 そういう事か、俺が危ないことをしたのが許せないのか。俺には生き返る確固とした手段があったから安心して発動したが、周りから見ればただの無茶にしか見えないのか。そうだな、心配されるという状態を久しく忘れていたよ。


「ああ、分からん。今は保留だ、とりあえず目前の問題を解決しよう」


「おいおい、いいのかそれ?」


「いい、村の問題を解決しながら、考える。という事で、アルト少し来い」


「は、はい。えっとどこに行くんですか?」


「ああ、そうか、お前目覚めたばっかりだったな。今の村の状況を知ってるか?」


「ああ、エリナが言ってましたね、ダンジョンから魔物が溢れてるとか」


 ダンジョンから溢れる魔物、なんか想像するとかわいくないか? 小さな穴から魔物が押し出されてくるのか。なんか、水とか流したくなるな。


「そうだ、だから今は少し危ない状況だ。冒険者からすれば、ここら辺の魔物は脅威ではないが、村人にすれば、魔物ってだけで恐怖だからな」


 チッ、農民風情が。NOUMINぐらい強くなってもらわなくちゃこの世界ではやっていけないぞ?


「でも、いいのですか? 僕の処分とかは……」


「お前が心配することじゃあねぇ。ほら、さっさと行くぞ」


 なんだろう、こういう時は結構剛毅だというか、いつもはめんどくさいやつなのに、なんかさっぱりしてるというか。


「ほら、ケントも行くぞ」


「はいはい、アルトもこんなめんどくさいやつが親で大変だな」


「そうですね」


 まぁ、俺も考える時間ができて良かったというものか。


「ほら、いいから行くぞ。リスター洞窟に」


 ああ、なんでこうも世の中は、俺にやさしくできてないんだろうね。


「私も行こうかしら」


「うーん、アオちゃんは危ないから、家にお留守番しててな」


「ええーなんで? アルトも行けるのに、私はダメなの?」


 寒気がする。こいつのこういう縁起は俺が吐きそうになる。まぁ、俺がいい子ぶっていたら、多分こいつが吐きそうになるんだろうけど。


「アルトはちょっと特別だからね」


「私だって、魔法なら使えるよ?」


 まぁ、俺たちと一緒に多少は練習していたから、初級ぐらいの魔法ならできるだろう。でも、そんな人間がダンジョンに行っても邪魔になるだけだろう。


「そうだね、でも危ないから」


「じゃあ私も特別だったら大丈夫なの?」


「え?」


 そういってアオは、無詠唱で火の玉を完成させる。


「は?」


 唖然となる俺、俺以外のみんなも開いた口がふさがらないと言った感じだ。


「おいおい、俺の息子以外にもこんなことできる奴がいたのかよ」


 マジかよ。あいつも無詠唱でできたのか? だったら詠唱の練習とかいらないじゃねーか。

 しかし、こんなことができるのが、近場に二人も居るなんて、あんまり無詠唱は特別じゃないんじゃないか? ん?


 俺は、アオの手に何か違和感を感じる。これはなんだ?

 よく目を凝らしてみると、アオの手には、俺がアレンからもらった宝石が握られていた。そういえばあれは魔機の役割もするとか言ってたな。しかし、なんであいつがあの存在を知ってるんだ? 誰にも言ってないというのに。まぁ、貰ったのすら忘れてたからなんだが。

 チクッてあいつの焦る顔を見てやろうかと思ったが、そこまで俺も下種じゃない。俺は広い心で奴の嘘を見逃すことにした。


「でもなぁ」


 アルバとケント、二人で顔を見合わせながら困惑の表情を浮かべる。


「アルトが特別だから、連れて行くんですよね? 私も特別なのでお願いします」


 何が彼女をそこまで駆り立てるのだろうか? 俺だったら、自らそんな危険な場所に行こうとは思わないが。


「はぁ、分かった。俺とケントが、できうる限りのフォローをしよう」


「わぁーい、ありがとうございますアルバ様、ケント様!」


 そういって、二人に抱き着くアオ。あーあそこまで思い切った感じの演技をされると、悪寒というより、嫌悪感を覚えるな。まぁ、子供という武器を、最大限に使った攻撃方法ではあるのだが。


「はぁ、じゃあ、準備をして出かけよう。いいか二人とも、ダンジョンは遊びじゃない。心してかかるんだぞ?」


「「はーい」」


 はぁ、ダンジョンに行って、そのあとには親の説教が待ってると思うと、俺は頭を抱えずにはいられなかった。

こちらも更新を再開します。更新が遅くなってすいません。誤字、脱字報告、感想などお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ