最終回詐欺
誰かが言った、死とは甘美なものだと。誰かが言った、死はこの世の救いであると。誰かが言った、死は絶望だと。
死というものを誰も認識は出来ない。事象として誰もが知っている現象だが、誰ひとりとして、死を体験したものはいない。故に死、誰も経験したことのないものだから、絶対の存在として人々に認識される。
誰にとっても死というものは、恐怖だ。死を認識し、平気で居られる人間が居るとしたなら、それは普通の人間とは言えないのだろう。
「あー、おはようさん。俺、生きてるっぽいね」
俺は、誰もいない虚空に話しかける。
「また助けてもらったみたいだね。死ぬっていうのは、何回やっても慣れないもんだ」
この瞬間だけを見たら、変な人間だよなぁ。まぁ、こんなことをしなかったら俺がまともな人間か? と言われれば、ノーとしか言えないのだが。
「これは最終回詐欺とでも言われそうだな。いや、俺たちの戦いはこれからだ、エンドでもいいのか? まぁどうでもいいか」
ふむ、やはり反応なしか。こうやって打てど響かずの状況は、俺としても嫌なんだよなぁ。
「理解はしてる。でも反応はなしか。意図的か? いや、どちらかというと反応しようという意志は見える」
俺は、目の前に浮遊している物体に話しかけ続ける。こいつは、俺が生まれた瞬間から、俺のそばにあるようだ。目の前に浮かんでいるのは流石に厄介だったが、慣れてしまえば何とやら、最近では意識せずに普通に暮らしている。
これは何のか全く分からない。俺が目を見えるようになったときにはもう、俺の目の前にいた。どこから来たか、なんなのかは全く想像がつかない。
姿かたちは、ゼ○ダの妖精みたいな感じだ。しかし、認識は出来るが、触れない。存在しているのに、存在していないかのようだ。
小さいころから暇つぶしに現状を報告していたのが、もう日課になってしまっている。俺が、独り言のように、近況を心の中に思っているとでも思っていたのか? それじゃあ本当におかしな人になってしまうじゃないか、もう、莫迦なんじゃない?
しかし、俺の考えが筒抜けというのも、なんか嫌な気分だな。まぁ、俺の考えていることなんて、何の意味もないようなことばかりなのだが。
「しかし、生き返るというのも慣れない」
最初生き返った時もそうだが、死ぬというのは慣れないな。でも、いずれこの感覚にも慣れてしまいそうで少し自分が怖いな。
ああん? なんで俺が生きてるのかだって? そんなの主人公が死んだら、物語が終わってしまうだろうが、主人公補正で何とかなるだろうが。主人公補正という言葉で済ませれば、小さな道理など吹っ飛ぶんじゃーい、というのは冗談だ。ちゃんとそこら辺の設定は考えてありますよ! というか厨二病の俺は、設定から入るタイプですから、設定だけ考えて満足しちゃうタイプでもあるが。まぁ、そんなどうでもいいことは置いておいて、多分だが、俺の真ん前に浮いている妖精(仮)は、多分魔機のような働きをしているのだろう、説明終わり。だってわかんねーよ、そんななんでこいつがそんな能力を持ってるか、とか、なんでそんなのが俺についてるのか、とか、そんなの俺に分かるか! もうそこらへんは、主人公補正という事にしておいてほしいのだ。
「また、助けられたのか」
俺がこの世界で死んだのは、最初に魔法を使った時だ。あの時は確実に死んだ、もうベストオブデスと言った感じだ。まぁ、それ以上は流石に無理をするのはやめたのだが、あれはビビったな。いきなりポックリだったからな。人の死などいつも身近にあるという事を、俺はあの時初めて感じたね。
「あら、目覚めたの?」
ドアの外には、寝起きに出会いたくない人物№1のアオさんが立っていた。
「目覚めは最悪だね」
「あら、じゃあ今日一日ハッピーね」
ふむ、そうなのか? 一日の最初が最悪なら、これ以上は悪くなることはないという事か。一理もねーな。
「大丈夫なの?」
「ああ、元気いっぱい、おっぱいだ」
「そうなの、じゃあ心配しないで済みそうね」
「まぁ、迷惑かけたよ」
「あら、素直じゃない」
「何を言ってるんだい? 俺はいつも素直じゃないか」
「素直って言葉がどんな意味か忘れそうになるわね」
「で、どうやって言い訳してくれたんだ?」
「うん? どういう意味?」
「アオも素直になれや、俺は純粋に感謝をしてるんだぜ」
俺はあのとき確実に死んでいた。多分反動もヤバい。小さなころに蘇生したように、すぐに生き返るというわけにはいかない。多分二、三日ぐらいは経っているんじゃないか。そんな死体を二、三日もベッドで寝かせてるわけがない。
「私が、蘇生の踊りを三日三晩踊り続けるので、三日ほど待ってくれないかと言っただけですよ」
「はいはい、素直じゃないんだから。でもまぁ、感謝するよ」
「そうね、その言葉が大事なのよ」
「しかし、お前よくわかったな。僕が生き返るって」
普通の人間だったら、誰も人間が生き返るなんて思わないだろう。まぁ、俺が直前にそんな販促をやってのけたのだが。
「あなたの事でしょう。自分勝手なあなたが、自分の身を犠牲にして、他人を助けるなんてありえないわ」
「酷いなぁ。俺は身内を大事にする方だぜ?」
「自分があっての身内でしょう? あなたの秤が、自分よりほかに傾くことはないでしょう?」
「まぁ、そりゃあそうか」
「ええ、あなたはそういう人間よ」
「まぁ、そんな僕が僕にこれ以上詳しくなるのはやめておこう、吐きそうになるし。さてどうしようか?」
「あら、これまでのように、のほほんと暮らしてればいいじゃない」
「多分、それは無理だよ。普通の人間は以上を容認できない。多分我慢は出来るが、いずれ壊れる」
「そうなの? そこらへんは、愛とかいう不思議なパワーを使えば大丈夫じゃない」
「愛なんて、そんな不確かなものには、世界は救えないんだよ」
愛なんてもので、世界は救えない。世界を救うのは何時だって利己的な理由なんだ。
「そう、世界は救う必要はないと思うけどね」
「まぁ、例えさ。こんな小規模の家族は、僕とお前という異物で、もう限界なんだよ」
日常は、徐々に壊れるのではない、一気に壊れるのだ。ふとしたきっかけ、なんでもないような仕草が、世界を簡単に壊す。世界とは、危うい均衡の上に建っているのだ。
「あら、大変ね」
「おいおい、他人事かよ」
「あら、私は自分が変な人間だとは思わないわよ?」
「そうかい、じゃあ君は人間じゃないのかもね」
「それはお互い様でしょう」
「ふむ、それもそうだな。どうするかなぁ、もう少し厄介になるのもいいんだけどねぇ。壊れてから初めて気づく大事なもの、みたいなことにはしたくないんだよね」
「無くなったら大事でも、大事じゃなくても変わらないと思うけどね、結局ないんだし」
「心の持ちようだよ。思い出は何時までも美しいのさ」
さて、どうしたものか。俺も大事なものを壊して興奮する性癖はないしな。大事なものは、いつまでも大事にしておきたいんだよなぁ。
「宝物は何時までも宝のままでおいておきたいのさ」
「ふーん、あなたの場合、大事にしてた宝物に裏切られるのがお似合いだと思うけど」
「痛いとこをつくね」
「どこまでも似ていて、嫌になるわね」
「本当に嫌な奴だよ、お互いにな」
「あれー? アルト起きたの?」
「おはようございます。起きたときに、エリナじゃなくてアオが居て、とってもがっかりしましたよ」
「ごめんねー、でも大丈夫? アルト、三日も寝てたんだよ?」
「私の扱いが酷いわね。泣きそうだわ」
ふむ、俺の見立ては正確だったようだ。まぁ、脳みそを完全に破壊して、三日で治るのであれば、いい方なのか? まぁ、生き返るという、チート級な技が使えるんだ、何も文句はないさ。
「もうおきて大丈夫だから、父様たちは?」
「今はまだ仕事、なんかダンジョン方魔物が溢れて忙しいらしいよ?」
ダンジョンか。たしかここの近くのダンジョンは危険度も最低の、そこまで危険ではないダンジョンだと思ったが。まぁ、そりゃあ一般人からすれば、魔物なんてものは全部恐ろしいのか。
「じゃあ、まだ時間はあるか。どうするかねぇ」
出ていく、と簡単に言えればいいのだが、今の俺はまだ六歳ぐらい。子供の俺がやっていくには、世の中そんなに甘くないと思うのだが。
「何が?」
「いえ、なんでもないですよ」
あまりエリナに迷惑をかけるのも忍びない。普通の人間が、俺たちのせいで不幸になるのはもう見たくないからな。
しかし、本当にどうするか。この謎の妖精(仮)もそうだし、この世界についてももっと知りたいし。
「まぁ、悩んでもしょうがない。なるようにしかならんか」
俺は、これまでの人生、流されて生きてきたような人間だ。これから先も流されて生きて行くしかないだろう。
「あれ? もう帰ってきたみたいだよ? アルバ様! アルトが起きたよー」
「え」
ちょっとエリナさん、心の準備ができてないのですが? どうしよう、なにか喋ることでも用意しておかなくちゃ。
「ふふ、子供は大変ね。思い通りに動いてくれないし」
「俺たちも子供だよ。はぁ、どうしたもんかねぇ」
俺は頭を抱えながら、親へと喋る言葉の内容を考えるのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
食堂には、家族が全員そろっていた。エリナの両親は当然、アルバと、そしてリオナの姿もあった。
全員が全員神妙な表情をしている。いや、一人アオを除いて全員だな。
気まずい。非常に気まずい。俺はお気楽な人間だから、このようなシリアスなのは苦手なのだ。存在自体がふざけているので、真面目になるという事が出来ないのだ。
「あのー」
「黙ってろ」
アルバの一括でシュンとなってしまう俺、別にかわいさアピールではない。今反論しても無駄だと言うだけだ。べ、別に怖かったわけではないんだぞ。
「なんていえばいいんだろうな。怒った方がいいのか、褒めた方がいいのか。俺は今迷っている」
「はぁ」
そういうのが一番困るな。俺としてはどうでもいいんだ。俺は俺の思うように行動しただけで、その結果こうなっただけだ。俺には俺の矜持があるという事だ。
「まぁ、とりあえず、今は村が忙しい」
「おい、いいのかアルバ」
「しょうがないだろうケント、俺だってもう少し考えたいんだ」
語気を荒立てるアルバ、それほど余裕がないという事か。
「お前のそういうところよくないぞ。問題を先のばしていいことなんて一個もないぜ?」
「しょうがないだろう! 俺だってこんなのは分からん!」
「「あなた!」」
リオナとリストの声が食堂に響く。やはりこういう時は女性の方が強いな。
「あなたたちが喧嘩してどうするの?」
「少しは落ち着きなさい」
まぁ、ここら辺の裁量は、大人に任せよう。俺が屁理屈をこねて、なんとか納得させることもできないわけでもないが、それは得策ではないだろう。世の中、正しい手段が正解になる場合の方が少ないのだ。
「悪かった。でもどうしようか分からないんだ」
「落ち着いて考えましょう。私が救われたのも事実、でもそんな危ないことをしたのも事実。そのことを踏まえて、あなたが決めてください」
そういう事か、俺が危ないことをしたのが許せないのか。俺には生き返る確固とした手段があったから安心して発動したが、周りから見ればただの無茶にしか見えないのか。そうだな、心配されるという状態を久しく忘れていたよ。
「ああ、分からん。今は保留だ、とりあえず目前の問題を解決しよう」
「おいおい、いいのかそれ?」
「いい、村の問題を解決しながら、考える。という事で、アルト少し来い」
「は、はい。えっとどこに行くんですか?」
「ああ、そうか、お前目覚めたばっかりだったな。今の村の状況を知ってるか?」
「ああ、エリナが言ってましたね、ダンジョンから魔物が溢れてるとか」
ダンジョンから溢れる魔物、なんか想像するとかわいくないか? 小さな穴から魔物が押し出されてくるのか。なんか、水とか流したくなるな。
「そうだ、だから今は少し危ない状況だ。冒険者からすれば、ここら辺の魔物は脅威ではないが、村人にすれば、魔物ってだけで恐怖だからな」
チッ、農民風情が。NOUMINぐらい強くなってもらわなくちゃこの世界ではやっていけないぞ?
「でも、いいのですか? 僕の処分とかは……」
「お前が心配することじゃあねぇ。ほら、さっさと行くぞ」
なんだろう、こういう時は結構剛毅だというか、いつもはめんどくさいやつなのに、なんかさっぱりしてるというか。
「ほら、ケントも行くぞ」
「はいはい、アルトもこんなめんどくさいやつが親で大変だな」
「そうですね」
まぁ、俺も考える時間ができて良かったというものか。
「ほら、いいから行くぞ。リスター洞窟に」
ああ、なんでこうも世の中は、俺にやさしくできてないんだろうね。
「私も行こうかしら」
「うーん、アオちゃんは危ないから、家にお留守番しててな」
「ええーなんで? アルトも行けるのに、私はダメなの?」
寒気がする。こいつのこういう縁起は俺が吐きそうになる。まぁ、俺がいい子ぶっていたら、多分こいつが吐きそうになるんだろうけど。
「アルトはちょっと特別だからね」
「私だって、魔法なら使えるよ?」
まぁ、俺たちと一緒に多少は練習していたから、初級ぐらいの魔法ならできるだろう。でも、そんな人間がダンジョンに行っても邪魔になるだけだろう。
「そうだね、でも危ないから」
「じゃあ私も特別だったら大丈夫なの?」
「え?」
そういってアオは、無詠唱で火の玉を完成させる。
「は?」
唖然となる俺、俺以外のみんなも開いた口がふさがらないと言った感じだ。
「おいおい、俺の息子以外にもこんなことできる奴がいたのかよ」
マジかよ。あいつも無詠唱でできたのか? だったら詠唱の練習とかいらないじゃねーか。
しかし、こんなことができるのが、近場に二人も居るなんて、あんまり無詠唱は特別じゃないんじゃないか? ん?
俺は、アオの手に何か違和感を感じる。これはなんだ?
よく目を凝らしてみると、アオの手には、俺がアレンからもらった宝石が握られていた。そういえばあれは魔機の役割もするとか言ってたな。しかし、なんであいつがあの存在を知ってるんだ? 誰にも言ってないというのに。まぁ、貰ったのすら忘れてたからなんだが。
チクッてあいつの焦る顔を見てやろうかと思ったが、そこまで俺も下種じゃない。俺は広い心で奴の嘘を見逃すことにした。
「でもなぁ」
アルバとケント、二人で顔を見合わせながら困惑の表情を浮かべる。
「アルトが特別だから、連れて行くんですよね? 私も特別なのでお願いします」
何が彼女をそこまで駆り立てるのだろうか? 俺だったら、自らそんな危険な場所に行こうとは思わないが。
「はぁ、分かった。俺とケントが、できうる限りのフォローをしよう」
「わぁーい、ありがとうございますアルバ様、ケント様!」
そういって、二人に抱き着くアオ。あーあそこまで思い切った感じの演技をされると、悪寒というより、嫌悪感を覚えるな。まぁ、子供という武器を、最大限に使った攻撃方法ではあるのだが。
「はぁ、じゃあ、準備をして出かけよう。いいか二人とも、ダンジョンは遊びじゃない。心してかかるんだぞ?」
「「はーい」」
はぁ、ダンジョンに行って、そのあとには親の説教が待ってると思うと、俺は頭を抱えずにはいられなかった。
こちらも更新を再開します。更新が遅くなってすいません。誤字、脱字報告、感想などお待ちしております。




