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act8 芽生えし恋心



 〜宇佐美琉依が俺を呼び出した目的は彼女を傷付けた元カレとその浮気相手への復讐だった〜






 彼女の元カレとその浮気相手に宇佐美流の復讐を果たした後、宇佐美が案内したのは彼女の家の前だった。

 呆然とその場で立ち尽くす俺をおいて、宇佐美は颯爽と車を発車させ去って行った。

 「夏海にはもう俺がいなくても大丈夫だからって、今の俺は全く大丈夫じゃないのですが」

 そう思っていても埒が明かないので、借りた鍵を手に門を開けて家の中に入る。玄関のドアを開けると、まるで人気の無い感じがして、本当に彼女がいるのかと思う程だった。

 「二階の奥、二階の奥っと」

 一番奥の部屋の前に立つと、一度深呼吸をしてノックをした。


 コンコンッ


 「琉依? どうしたの? 入っていいよ」

 すいません、宇佐美じゃないです。そう思いながらドアを開くと、案の定彼女は驚いた顔でベッドから飛び起きた。

 「えっ!? えっ、何で? どうしてここに? 鍵は?」

 何が起こっているのかと混乱している彼女は、次から次へと質問してくる。慌てふためいている彼女には悪いが、そんな彼女を見て思わず吹き出してしまった。

 「鍵は宇佐美から借りたんだ。ずっと大学も休んで部屋に閉じこもっているって、宇佐美も心配していたよ」

 そう言って彼女を見ると、彼女は苦笑いをしていた。そんな彼女はよく見ると、顔色も悪く痩せたような気がする。そんな彼女を俺は宇佐美のように支えてあげる事ができるのだろうか……


 「私の独り言を聞いてくれる?」

 俺が頷いたのを確認して彼女が話し始めたその内容は、やはり宇佐美との事だった。

 幼い頃から彼女は彼と一緒に過ごし、何かあると助けてくれたのは彼だったと。

 「でも、一緒にいたからこそ琉依の事は全て知ってるつもり。浅井クン、琉依に呼び出されて賢一と会ったでしょ」

 その言葉に思わず固まってしまった。何も言わなくても、彼女にはお見通しだったのか。


 “一緒にいたからこそ”


 彼女のこの一言で二人は互いを理解しあっている。それだけ二人の絆は深いものだと、俺は思い知らされた。


 “夏海にはもう俺がいなくても大丈夫だから”

 宇佐美はそう言っていたが、二人の絆はたとえ二人が離れていても繋がったまま。だから“とりあえず今”は俺に彼女を託したのだ。そう、彼には自信があったのだ。このたった一時の事で、俺がどうしようと彼女との絆に傷一つ付けられないということに。

 「参ったよ」

 「なに?」

 改めて宇佐美の存在の大きさを知り、支えようと思った俺が落ち込んでしまう結果となってしまった。そんな俺を彼女は覗き込んでいた。


  

 彼女の話によると、宇佐美がそういった行動に出たのは二人で出掛けていた時に、元カレが他の女と二人で楽しくいるのを見たからではないかと言う事らしい。

 もしかしてそれは、あの時の事ではないだろうか。東條と別れた後に見た、道路の向こう側で宇佐美が彼女を抱き締めていた時の事だ。やはり宇佐美は……


 「あのさ、一つ聞いてもいいかな?」

 「ん? 何でも聞いていいよ」

 ずっと心の中で気になって仕方が無かった事を聞くことにした。まぁ、彼女は多分質問の内容に気付いているだろうけど。

 「槻岡サンは宇佐美の事、幼馴染みとしか見てなかった?」

 予想通り、彼女は俺の質問を聞いても驚きの表情一つ見せる事は無かった。そして彼女から返ってきた答えもまた俺の予想通り、やはり彼女と宇佐美との間には幼馴染み以上の男女の関係もあった。だが、そんな関係があったにも関わらず一度たりとも恋愛関係に発展した事がないという。そんな事を淡々と話す彼女はそうでも、宇佐美は? 彼女と同じ様に思っていたのか?

 宇佐美との関係を説明した後の彼女は、俺から顔を背けていた。それはどういう意味を表しているのか? 君は俺にどんな返事を期待しているのか。


 「そうだったんだ」

 ふと口から出た言葉に彼女は俺の方をチラッと見た。その時の彼女の瞳に映った俺はちゃんと笑えていただろうか。決してそんな気持ちではない、偽りの笑顔。

 「ずっと聞こうかなと思っていたんだ。教えてくれてありがとう」

 その時の俺はただ、今すぐにでもその場から消え去りたい気分だった。これ以上彼女の話を聞いていると、宇佐美の彼女への愛情を痛感させられる。そして自覚していないであろう彼女の宇佐美への愛情も。そして……


 そんな彼女を俺もまた愛してしまったということも……




 この作品を読んで頂き本当にありがとうございます。次回からは、シリーズ1作目では出なかった琉依の闇の部分が明るみになってきます。

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