act2 彼女との本当の出会い
彼女=槻岡夏海と出会ったのは、入学してしばらく経った日の事であった。
「参った……」
入学してからしばらくして、どこで聞きつけたのか知らないが国際学部の教授から是非会いたいと言われ、こうして国際学部棟に向かっている訳なのだが……これだけのマンモス大学である、迷わない方がおかしい。あまり関係ないからという理由で、キャンパス内を全て歩いた事は無かった。
「て言うか、ここがどこかも分からないし」
色々な所を回りすぎて、現在自分がいる所も把握する事が出来なくなってしまいとうとうその場で立ち尽くしてしまったその時だった。
「どうかしました?」
そう声を掛けてきたのが彼女だった。彼女は当時付き合っていた彼氏と一緒に俺の方へと近付いてきた。
「あっ、国際学部棟に行きたいのですが道に迷ってしまって……」
「国際学部なら夏海……いや、彼女が英文学科だから連れて行ってもらえばいいよ。こんなに広いからね、迷うのも仕方ないよな」
隣にいた彼氏はそう言うと、彼女の肩に軽く手を置いた。彼女は一度彼の方を見てニコリと笑うと、こちらを向いて
「そうね、口で説明するよりもその方がいいわね」
そしてその場で彼と別れると、彼女は俺を国際学部棟へと案内してくれた。これが俺と彼女の初めての出会いだった。まぁ、彼女はこれっぽっちも覚えてはいなかったけれど……。
「どちらの学部の方ですか?」
「あっ、文学部です」
そんな会話もしたのに、覚えてくれていなかったのは正直ショックだった。でも彼女にとってあの時の事は、それだけ大した事ではないものだったというわけだ。その頃の彼女にとって大切だったのは、彼の事だけ……。
しばらく歩いて彼女は立ち止まると、
「それじゃあ、ここを真っ直ぐ進んだら仁科教授の研究室ですから」
そう言うと、軽く頭を下げて反対の方向へ歩いていった。
「あ、ありがとう!」
彼女は慌てて声を掛けた俺の方を振り返ると、笑顔で手を軽く振って再び歩いて行った。しかしその時の彼女が見せた笑顔は、その前に彼に見せたものとは明らかに違い意味の無いものだった。その時はまだ彼女に対して恋愛感情すら抱いていなかったのに、何故か悲しくなったのをかすかに覚えていた。
こうして出会った彼女とはもう二度と会う事も無いと思っていたが、翌年俺は再び彼女と出会う事が出来た。それは意外な場所で、意外な形で出会った。しかもそれは最初の出会いと違って、彼女にとって忘れる事が出来ないくらい強烈な印象を残してしまう結果となってしまった。
夏海視点の話では、尚弥との出会いは“あの朝”でしたが、実はもっと早くに2人は出会っていました。それを賢一に夢中になっていた彼女はすっかり忘れていた訳です。