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act18 これも恋の始まり

 東條から貰った舞台のチケットは悪夢への招待券だった。次々と質問してくるメンバーも恐ろしいが、まさか紘佳さんと倉田が従姉妹だったなんて……世の中狭すぎる!



  東條たちによって仕向けられた計画(?)のお陰で、俺と紘佳さんはメンバーと共に彼の舞台を観る事になったのだが、紘佳さんはさすが彼のファンと言うだけあって、舞台を観るその瞳は真剣そのものであった。それに対して、一ノ瀬は睡魔と闘っている様子だったけれど。

  そのままメンバーと別れると思っていたが、倉田と再会できた嬉しさだったのか紘佳さんからメンバーとこれから一緒に食事をしたいという提案で、東條とも合流して食事をする事になった。


  「まぁ! それじゃあ、梓の従姉妹だったのね」

  通りで可愛らしい女性だとと、東條は目を細めて笑いながら話した。それにしても、ほんの偶然とは本当に恐ろしいものだ。お陰でさっきから一ノ瀬や槻岡サンからの痛いくらいの視線を感じてばかりいる。そんな俺をよそに紘佳さんは東條たちと楽しそうに話しているし……。先日、東條がしつこく紘佳さんの事を聞いてこなかったのも、作戦の一つだったと思うとそれを見極められなかった俺に情けなくてため息が出てくる。

  それに、こういう時は一番しつこく迫る宇佐美がここにいなくて本当に良かったと心から安心したよ。


  「それでさ〜紘佳チャンは……」

  それにしても、一ノ瀬や東條が紘佳さんと話しているのを見てなんとなくイラっとしてくるのは何だろう。さっきからこの訳の分からない感情が出てきてちっとも食事する気分になれない。このモヤモヤ感は……

  「ヤキモチ?」

  「つ、槻岡サン!?」

  俺の心を見透かせたような発言をまたタイミングよくする彼女に思わず後ずさりする。そんな俺の表情を見て、何を悟ったのか彼女は変な笑みを見せると

  「渉や伊織に取られたくなかったら、しっかり捕まえとかないといけないよ〜。特に、伊織に至っては紘佳チャンの憧れの人なんでしょ?」

  まぁ、梓ラブだから有り得ないけど〜と周りには聞こえないように話す彼女には何故か何も言い返すことが出来なかった。確かに、東條と話す紘佳さんの顔は、憧れの人と話せてとても嬉しそうなものだった。それを彼女に指摘されると、余計にまた訳のわからない感情が沸々と……。

  「浅井クンって、からかうと面白い〜」

  倉田に笑いながらそう言ってる彼女にやっと頭を軽く叩く事で反撃ができたが、確かに俺は今一番からかうのにもってこいの状況に置かれている訳だしまぁ仕方が無いけれど。それにしても、隣りで必死になって笑いを堪えている彼女の事をつい先日までは必死になって悩んでいたのに、今ではこうして冗談を言い合える仲になったというのは本当に不思議なものだと思う。彼女もまた、宇佐美の事では寂しい思いをしている筈なのにこうして笑顔を見せられるようになったのも強くなった証拠なのだろう。


     “夏海の事、見守ってやって……”


  宇佐美の一言が今でも鮮明に思い出される。もちろん彼女が弱さを曝け出してきたらその時は支えになるつもりではいるが、もう一人守ってやりたいと思うようになった子が出来たと言ったら宇佐美は怒るか? そして視線は自然と“彼女”へと向けられる。



  「あ〜楽しかった! 尚弥さんのお友達は本当に楽しい人ばかりですね!」

  食事を終えて、店の前で彼らと別れた後こうして二人で歩いている時に発した紘佳さんの一言に俺は笑顔で返した。従姉妹の倉田を始めとする個性的なメンバーは、お嬢様である紘佳さんにとってかなり刺激的なものであったのには違いないので悪影響をもたらさないか少し心配な面もあるけれど。

  「もう一人、いらっしゃるのですよね? 夏海さんの恋人とか……」

  ……誰だ、宇佐美の存在も話したのは。一番彼女にとって毒になる存在になる事間違い無しの宇佐美の話までするなんてっ。まぁ、詳しくは聞いてなさそうなので安心したけれど。

  「今日は尚弥さんと二人で出掛ける予定でしたけれど、梓ちゃんや尚弥さんのお友達とこうして楽しく過ごせたのでいい一日でした!」

  「そう? じゃあ、また今度会おうよ」

  笑顔で話す紘佳さんに、俺はそう答えると彼女はそのまま笑顔でハイっと返事した。

  「今度は、二人で……」

  「ハイっ! ……えっ?」

  その場で立ち止まった俺の一言に、紘佳さんは返事したが少し進んだところで振り返って俺の方を見てきた。俺はそんな紘佳さんの方へとゆっくり進んで行って彼女の前に立ち止まる。

  「あの?」

  さっきまでの笑顔はどこへ行ったのやら、紘佳さんは何か言いたげな感じで俺の顔を覗き込んでいた。こういう時、東條や宇佐美はどうやって乗り越えたんだろうか、俺はただ必死に頭の中で考えていた。

  「俺は、紘佳さんと二人で会いたいな。だって弁護士の勉強が手につかなくなる位、いっぱいいっぱい君の事が頭の中を占めているんだ」

  ここまで俺は上手く言えているだろうか? とりあえず紘佳さんの顔を改めて見るが、彼女はただ大きい瞳を更に大きく開かせて呆然としていた。……頑張れ、俺。

  「一ノ瀬や東條に対してヤキモチを焼いた時にきちんと自覚したよ、君への気持ちに」

  「尚弥さん……」

  「俺、紘佳さんの事……好きになっちゃった」

  やっと言えた俺の一言に、紘佳さんは夜道でも分かるくらい顔を赤くさせていた。この人ただでさえ赤面症なのに、また真っ赤にさせてしまいましたよ。けれど、きっと俺もまた彼女に負けないくらい顔を赤く染めてしまっているのだろうけど。

  とりあえずは言う事言ったので、後は彼女の返事を待つだけなのだが当の紘佳さんはまだ顔を赤くして呆然と立っていた。何故に……


  「あの〜、紘佳さん?」

  「……嬉しい」

  小声で俯きながらそう呟いた紘佳さんの瞳からは涙が流れていた。何故に!? 紘佳さんの涙に思わずオロオロと動揺してしまう俺を見て、彼女は涙を流しながら笑っていた。今度は何?

  「紘佳さん?」

  「ごめんさい、笑ってしまって。でも、本当に嬉しくてつい涙が出ちゃった」

  そう言いながら涙を拭く紘佳さんは、一度小さく深呼吸すると俺の方を見上げてきた。その何かを言おうとする口から出る言葉は……


  “Yes”or“No”?


  「私は尚弥さんの事、お兄さんのような存在だと最初は思っていたんです。けどそれがだんだんと憧れになって、それが今度は好意になってそして今では一人の男性として好きになっていました」

  ……え?

  「私も好きです、尚弥さん」

  その言葉と同時に俺の腰に手を回して抱き締めてきた紘佳さんに、今度は俺が呆然としてしまった。思いもよらなかった返事に嬉しさの余りの行動だけれど、すぐに我に返った俺はそのまま紘佳さんを抱き締めていた。

  「ありがとう。ひ、ひーろーか?」

  ぎこちない呼び方に、紘佳さんは俺を見上げて笑っていた。自然に“紘佳”と呼べるようになるのだろうか? そう心配しながらも、俺は今はただ大好きな彼女を抱き締めるだけだった。


  忘れ物を届けに追いかけてきた東條と倉田の存在に気付く事もないまま……。




 こんにちは。いつも作品を読んで下さりありがとうございます! とうとう尚弥が恋をして紘佳に想いを伝える所まで書くことが出来ました。最初は梓との従姉妹という設定は無かったのですが、世の中の狭さを少し入れてこういう風にしてみました。第1弾と、この作品の最初の部分と比べると尚弥の性格が変わっているような気もしますが、このメンバーと付き合ったらこういう風になるのです……。

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