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羊の三題噺。

【三題噺】運命に踊らされるように。

作者: シュレディンガーの羊
掲載日:2011/07/30


「私、運命に選ばれたの」


彼女はくるりと回ってそう笑った。

真っ白なワンピースが風をはらんで翻る。


「また神様?」


うんざりと僕は眉根をよせた。

それを気にすることなく彼女は満面の笑みで頷く。

彼女は神を信じている。

信仰するのは個人の勝手だし、口を挟むことではない。

でも、この頃は「お告げ」なんて胡散臭い言葉を口にすることが増えた。


「運命って、王子様でも見つかったわけ?」

「そんなんじゃないよ」


茶化してみれば、彼女はむぅっと頬を膨らませた。

それからふっと優しい目をする。


「私の未来が決まったってこと」


肩口に揃えられた黒髪がさわさわとなびく。

そのせいで彼女のよく表情が見えない。

でも、なぜか唐突に苛立ちが募った。


「神様のお告げなんて、聞くなよ」

「でも、私は神様を信じてるから」


彼女の静かな声に余計に腹がたった。

すべて受け入れたような瞳に叫ぶ。


「神様神様って、あいつが何をしてくれたんだよっ!いつだって僕たちから奪っていくだけじゃないかっ!」


怒りをぶつけてから、あぁと思う。

僕は怒ってるわけじゃなくて、不安なんだ。

急速に冷えていく頭がそう結論を出す。

彼女があんまりにも神を信じるから、彼女が神に連れ去られていきそうだから。


「神様にやきもちを妬いてるの?」


彼女がくすりと笑った。

僕は返事が出来ずに、ただ俯く。

大丈夫よ、と彼女は言った。


「私は神様と同じくらい、私の未来を信じてるから」


僕の言葉を待たずに、彼女は軽やかな足どりで駆けて行ってしまう。

白いワンピースが遠くなるのを僕はただ見つめることしかできなかった。




翌日、彼女が死んでいるのが見つかった。

赤いワンピース姿で、教会の中で倒れていたそうだ。

傍らには林檎。

彼女が好きだったお伽話に似ていると思った。

毒林檎と姫の物語。

でも、そう思うと同時に感じた。

これは紛れもなく現実だと。

彼女は生き返らない。生き返りはしない。


「これが運命」


呟いた声は教会の天井に消えた。

僕は知っている。

昨日、彼女が白いワンピースを着ていたこと。

昨日の僕が教会に彼女を呼び出したこと。

僕の部屋に赤いナイフがあること。

みんな知っている。


「神様、僕は」


毒林檎はかじられないまま。

姫の命を始めに狙ったのは誰?


「僕はあなたになりたかった」


涙が一つ零れ落ちた。

彼女の信じた未来はもう来ない。

僕も彼女も運命に捕われたまま。

そのまま静かに幕は下りる。

さようならお姫様。さようなら神様。

三題噺として書きました。

林檎、運命、未来。


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