天使の食欲
よく晴れた秋の日に、天使が空から降りてきた。
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「見てください、見てください! 天使です! 背中に白い羽根を生やした、ヨーロッパの絵によく描かれてるような、かわいい子どもの姿をした天使たちが、空から次々と舞い降りてきます! これは終末感たっぷり漂わせていた人類を救ってくれる存在なのでしょうかーーっ!?」
「ちょっとお姉さん、興奮しすぎ。天使を見るの初めてかい?」
「私はもちろん初めてですが……おじさん、もしかしてよく見るの?」
「いやぁ、僕だって初めてさ」
「あっ、見てください! 天使が一匹、地上に降り立ちましたよ!」
「一匹じゃねーだろ。一人って言ってやれ」
「ああっ! かわいく体をくねらせて、かわいい微笑みを顔に浮かべて──」
「かわいいねぇ。全裸だねぇ。ロリコン心をくすぐっちゃうねぇ……」
「笑顔で近づいていったお兄さんの肩に飛び乗って、おおきく口を開けました! 口の中にはサメの歯のようなものが並んでいます!」
「サメの歯ねぇ……。あれ、触っただけでスパッ! と切れちゃうんだよねぇ」
「ああっ……! 天使が! お兄さんの頭に齧りつきました!」
「おおっ! 美味しそうに食べてるじゃないか」
「脳味噌を引きずり出し、もっちゃもっちゃと音を立てて食べています!」
「ウニみたいな味がするのかな?」
「どんどん天使たちが地上に降りてきました!」
「みんないい笑顔だねぇ」
「人間たちを襲って食べはじめました! 次々と!」
「今日はごちそうかな?」
「あっちの天使たちは白い羽根をナイフみたいに振り回して、通行人の体を横真っ二つにしていますっ!」
「アハハ、アハハと笑ってるねぇ」
「斃れた人間のモツを引きずり出してオモチャのように遊んでいます!」
「これは僕たちも逃げたほうがよさそうだねぇ」
「あっ! 空を見てください、おじさん!」
「どうした、お姉さん?」
「でっかいの来ましたよ! あれは大天使ミカエルでしょうか?」
「あぁ……。美形だけど……大人の男には興味ねーな」
ミ・カ・エ・ル〜……!
「あっ! 大地を揺るがすほどの声で大天使が名乗りました! やはりミカエルのようです!」
「うるさい声だなぁ。いい加減にしてくれよ」
どーん!
「ミカエルは異食症のようです! ビルを食べはじめました! 次々とビルが食べられ、バラバラになって倒壊していきます!」
「これは壮絶な景色だ!」
「それでは私たちは逃げたいと思います! さような……」
「あっ、お姉さん、食べられちゃったねぇ。かわいい天使さんに……ハハハッ」
「うえらぶるるひひひ……!」
「顔の左半分をなくしながらお姉さんが喋っています。気持ち悪」
「おひはんほ、たへられてふ」
「あ、ほんとだ。いひひひ」
「まほふふふ!」
「げらげらげら!」