生きる
短編小説です。水野あつさんの歌を元に書いています。
僕は、どうして生きているのだろう________________。
僕は、自分の家に引きこもっている。
もう、2年間もずっと、。
朝も昼も関係なくカーテンを閉め、扉や窓は当然開かない。
目には光が映っておらず、濁っている。
パーカーを深く被り、布団をかぶっている。
なぜ、こんなことになったのだろうか。
あれは、小学6年生の時だった。
僕は、親の転勤で転校してきた。
初めはとても優しく接してくれたクラスメイトたちだった。
だが、クラスメイトの中で圧倒的上位者の佐藤くんが僕をいじめの標的にした。
始まりは、ゴミ箱を僕に向かってひっくり返した時だった。
「何するの、佐藤くん」
僕は、ゴミを被りながら佐藤くんの方をみた。
「うざい。転校生でそこまで仲がいいわけじゃないのに、調子に乗りやがって」
そう、佐藤くんは転校生なのにみんなに囲まれている僕に腹が立ったのだ。
佐藤くんはクラスの中でも上位者だった。
当然誰も逆らえるわけもなく、僕はそれからいじめを受け続けた。
親には心配をかけたくなくて隠した。
先生すら、何も言わなかった。
その頃、僕は我慢すればどうにかなると思い込んでいた。
けれど、一向に終わる気配がない。
さらにはいじめがヒートアップしていった。
僕には自分をこんなにもいじめる理由がわからなかった。
「なんで、僕をいじめるの?」
僕は、ついに聞いてしまった。
「うざい。死ねばいいのに」
佐藤くんが僕に向けるその目は殺意そのものだった。
そこから、いじめも増えていった。
そして、僕は我慢し続けた。
だが、佐藤くんは僕がいじめを受けても何もしないことからか、いつもイラついていた。
「そろそろ、いなくなれよ」
いじめを受けて弱りきっていた僕の心にその言葉は鋭利な刃物のように突き刺さった。
そして、ギリギリの状態で我慢していた僕の心がついに壊れた。
心が壊れてしまった僕は、いつの間にか家にいた。
その日から、僕は引きこもるようになった。
親は心配してくれた。
だが、僕は知っていた。
夜中にどうしようと困り泣いている母さんとそれを慰める父さんを。
両親は、共働きで忙しかった。そして、僕の将来が見えないと困っているのだろう。
壊れた心には修復する代わりにドス黒い闇が溜まっていった。
引きこもってから1週間立った頃、家のチャイムがなった。
この家には今、幼い妹と僕しかいなかった。
宅配便だと取りに行かなければならないと思い、外を見た。
すると、佐藤くんとその取り巻きだった。
僕の心は、もう恐怖で塗りつぶされていた。
佐藤くんたちは僕を呼んで、家を蹴ったり、怒鳴ったりしていた。
僕は耳を塞ぎ、しゃがみ込んだ。
そして、その時、妹が僕の部屋にやってきた。
「お兄ちゃん、怖いよ」
そこには、涙目になっている人形を抱えた妹がいた。
僕は妹を守らなければと一生懸命取り繕った。
「大丈夫だよ。そのうちいなくなるから、」
僕は妹の頭を撫でて、佐藤くんたちがいなくなるまで一緒にいた。
一年後、僕は中学生になった。
一応入学はした。
だが、僕の心の恐怖と闇は消えることなく溜まっていた。
僕は入学式以外は学校に行かなかった。
佐藤くんも同じ学校だったからだ。
けれど、僕はこれだけ辛くてもまだ生きていられる理由があった。
妹だ。
今、妹は小学1年生になった。
僕の心の支えは妹ただ1人だった。
そんなある日、妹がボロボロで帰ってきた。
何度も自分の体で見てきたものだった。
殴られたり蹴られたりした跡だ。
「どうしたの、これ、…」
嫌な予感がした。
「佐藤…?って人たちに、殴られた…」
妹は幼いながらも泣くのを我慢して話してくれた。
だが、その瞬間僕の心という心が跡形もなく崩れ落ちた。
妹を僕の事情に巻き込んでしまった。
妹が僕のせいで傷ついてしまった。
親も僕のせいで困っている。
僕は、、生きていたらいけない。
僕は、何も聞こえなくなった。
その日の夜中。
家族全員が寝静まった頃、ごめんというメモだけ残して外に出た。
その日は満月だった。
満月の光は僕には眩しくて、綺麗で、美しくて、手が届かないもので、この世の何もかもを忘れさせてくれそうだった。
けれど、僕は生きてはいけない。
僕は、近くの崖に向かった。
下には広大な海が広がっている。
僕は少し躊躇った。
だが、ふと頭に傷ついた妹が浮かび上がった。
そして、決心した。
僕は、思い切って海へ飛び込んだ。
不思議と、怖さは感じなかった。
海の中に沈むと、水を挟んで眩しく綺麗な満月が見えた。
妹は悲しむだろうか。
両親も悲しむのだろうか。
それとも、喜ぶのだろうか。
もし、明日も生きていたらどうなっていただろうか。
少し悲しいような気がした。
僕は明日のことを考えながら静かに目を閉じた。