救うべき想い 15
反射的にそちらを向くと、いつの間に側へ来ていたのか、裕子のお母さんが泣き疲れた顔に微笑を浮かべてわたしを見つめていた。
「あ……おばさん。あの、この度は――」
咄嗟に、お母さんから教わった葬儀の場での挨拶を口にしようとしかけたわたしに、おばさんはふるふると小さく首を横に振り、こちらの言葉を制してくる。
「そんなかしこまらなくていいのよ。今日は裕子のために来てくれて、ありがとうね。きっと裕子も喜んでると思うわ」
憔悴しきった状況でも、気丈に振る舞うおばさんの姿にどんな言葉を返せば良いのか迷いかけて、そこでふとあることに気がついた。
「……?」
今更ながら、斎場内をぐるりと見回してみても、亡くなった本人である裕子の姿――と言うか、霊体――がどこにもない。
肉体こそ棺の中に寝ているが、昨日静寂堂を訪ねてきた魂の方はどこにいるのだろうか。
てっきりここに来れば会えるものだと考えていたのだが、まさかもうあの世とやらに行ってしまったわけではないかと、不安が胸の中に爪を立ててくる。
「どうかしたの?」
突然あらぬ方向へ顔を逸らしたわたしを訝しむように見て、おばさんが声をかけてくる。
「あ、いえ。何でもありません」
それに慌てて首を振り、わたしは近くに用意されていた参列者用の椅子を指差した。
「あの、もしご迷惑でなければ、暫くここにいさせてもらっても構いませんか?」
「ええ、もちろんよ。……本当なら、裕子の顔を見てあげてって言いたいんだけれど、ごめんなさい。ちょっと、事情があってできないから」
わたしの申し出に快く頷いた後、おばさんはチラリと棺の方を気にするみたいな視線を向けてから、そう言葉を付け足してきた。
「いえ、そんな……」
他に大勢の参列者がいるからかと一瞬だけ思いかけたが、わたしはすぐに別の解に気付く。
昨日、裕子は自身の身体に関して、あれは駄目だと告げていた。
あれとはつまり、一目見て悲惨な怪我をしているとわかるくらい致命的な損傷を負っていると、暗に示唆していたのだろうし、その箇所が顔であることも充分にあり得る話だ。




