表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/135

救うべき想い 15

 反射的にそちらを向くと、いつの間に側へ来ていたのか、裕子のお母さんが泣き疲れた顔に微笑を浮かべてわたしを見つめていた。


「あ……おばさん。あの、この度は――」


 咄嗟に、お母さんから教わった葬儀の場での挨拶を口にしようとしかけたわたしに、おばさんはふるふると小さく首を横に振り、こちらの言葉を制してくる。


「そんなかしこまらなくていいのよ。今日は裕子のために来てくれて、ありがとうね。きっと裕子も喜んでると思うわ」


 憔悴しきった状況でも、気丈に振る舞うおばさんの姿にどんな言葉を返せば良いのか迷いかけて、そこでふとあることに気がついた。


「……?」


 今更ながら、斎場内をぐるりと見回してみても、亡くなった本人である裕子の姿――と言うか、霊体――がどこにもない。


 肉体こそ棺の中に寝ているが、昨日静寂堂を訪ねてきた魂の方はどこにいるのだろうか。


 てっきりここに来れば会えるものだと考えていたのだが、まさかもうあの世とやらに行ってしまったわけではないかと、不安が胸の中に爪を立ててくる。


「どうかしたの?」


 突然あらぬ方向へ顔を逸らしたわたしを訝しむように見て、おばさんが声をかけてくる。


「あ、いえ。何でもありません」


 それに慌てて首を振り、わたしは近くに用意されていた参列者用の椅子を指差した。


「あの、もしご迷惑でなければ、暫くここにいさせてもらっても構いませんか?」


「ええ、もちろんよ。……本当なら、裕子の顔を見てあげてって言いたいんだけれど、ごめんなさい。ちょっと、事情があってできないから」


 わたしの申し出に快く頷いた後、おばさんはチラリと棺の方を気にするみたいな視線を向けてから、そう言葉を付け足してきた。


「いえ、そんな……」


 他に大勢の参列者がいるからかと一瞬だけ思いかけたが、わたしはすぐに別の解に気付く。


 昨日、裕子は自身の身体に関して、あれは駄目だと告げていた。


 あれとはつまり、一目見て悲惨な怪我をしているとわかるくらい致命的な損傷を負っていると、暗に示唆していたのだろうし、その箇所が顔であることも充分にあり得る話だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ