救うべき想い 13
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全校集会の中で裕子の死が改めて告げられ、葬儀の日程もそこで説明された。
恵まれていたと言うべきか、これまでに一度も葬式と言われるものと縁のない生活をしてきたため、お通夜が今夜だと知らされたときはそんなに早くやってしまうものなのかと内心で動揺してしまった。
お通夜に参列しないという選択肢は、わたしの中にはなかった。
学校が終わって一度帰宅したら、今日は仕事を休ませてもらい、真っ直ぐ斎場へ行こう。
そう決めて、わたしは昼休みに水沢さんへ電話をかけ、休みを貰えるよう許可を取った。
学校が終わるまで、教室の中は困惑が支配していたように思う。
悲しみ、ではなく困惑。
クラスメイトという、身近な存在が一人欠落したという事態に対して、自分はどう振る舞えば良いのか。
いつも通りに、つまらない冗談で笑い合っていては不謹慎かもしれない。
全員がそんなことを考え、終始ぎくしゃくしていた。そんな一日だったように感じた。
「蟻塚さんのお通夜へ行く人は、気をつけて行くように」
先生のそんな一言で締めくくられた帰りのホームルームを終えてから、わたしは重い足取りで家へと帰りすぐにシャワーを浴びた。
見える景色、聞こえる音、その一つ一つが、何故だか酷く遠く感じる。
今から自分は、親友の死んだ姿を見ることになるのかもしれない。
そう考えると、頭と手足の先が麻痺してくるような緊張感が走りだし、酷く気が滅入りそうになる。
浴室から出た後、お母さんに事情を説明すると、みるみるうちに深刻な表情へと変わり、
「斎場まで送っていってあげるから」
と、普段以上に優しい声をかけてくれた。
裕子の身に何が起きてそうなったのか。わたし自身のメンタルは大丈夫なのか。
そういった質問は一切せず、お母さんは準備するわたしを黙って待ち、指定した斎場まで送ってくれた。
「終わったら、連絡しなさい。すぐ迎えに行くから」
焼香を済ませるまで待っていようかと訊ねてきたお母さんへ首を振って断ると、心配そうな顔をしながらそんな言葉を残して家へと戻っていく。
そのテールランプが曲がり角の先へと消えていくのを見送ってから、わたしは目の前に建つ斎場を黙したまま見上げた。