救うべき想い 7
「わたしに呼ばれたって、裕子……どうして、そんな――」
掠れた声を必死に絞り出すわたしの呻きを止めるように、困りきった顔をしていた裕子が、不意に微笑を浮かべた。
それから、引き結んでいた口を小さく開き、こちらの頭の中へ直接語りかけてくる不思議な声で
“――いやぁ、ごめんねヒナっち。私、ちょーっと駄目だったみたいで。いやはやホント、ドジっちゃったよ”
そう、言葉を紡いできた。
まるで普段通り、学校で無駄話をしているときと同じ、おどけた口調で話す裕子は、身体が透けてさえいなければ本当にそこにいて会話をしているんだと錯覚してしまいそうなくらい、リアルな感じがした。
「駄目だったって……裕子、そもそもどうしてここに? それに、その姿……」
水沢さんの言葉を聞いてもなお現実を受け入れられず、わたしは震えそうになる声で、親友へと話かける。
“んー、私もまだ実感が湧いてないし、正直なところ戸惑ってはいるんだけどさ、どーも死んじゃったみたいで”
白い歯を見せ――透けてはいるけど――恥ずかしそうに笑って、裕子は更に話を続けてくる。
“三十分、くらい前かな。私たぶん、集中治療室って所に入ってたんだと思うんだけど、目を開けたらさ、天井の近くに身体が浮いてて。何これ!? って思いながら慌てて下見たら、呼吸器とかチューブを付けられた私が寝てて、病院の先生とか看護師かな? そういう人たちが私の身体を治療しようとしてくれてるのも見えちゃってさ。それで、あーそう言えば私、トラックとぶつかったんだって思い出してね。改めて寝てる自分の身体見たけど、あれは駄目だね。さすがに死ぬし、むしろよく夕方まで耐えてたなって感心した。まぁ、それだけ先生たちが頑張ってくれてたってことなんだろうけどさ”
時刻を確かめたのだろう、裕子の目が一瞬だけ壁に掛けられた時計へと向けられた。
“それで、私死んじゃったんだなぁとか、本当に死ぬと幽霊になるんだとか考えてたら、ヒナの気配……って言えば良いのかな? 何か、うまくは言えないんだけど、急にヒナが私のことを呼んでるような感覚が伝わってきてさ、その感覚の出どころを探ってきたら、ここに辿り着いたっていうわけ。幽霊ってすごいよ。本当に壁とかすり抜けられるの。すっごい変な気分”