動画越しの執念 5
コーヒーの甘味で冷静さを取り戻したわたしは、真剣な口調で告げて深く頭を下げた。
「……はぁぁぁぁ。何だろう、きみは押しかけ女房の才能とかがありそうだな」
今日一番の重いため息をついて、水沢さんは頭を上げるよう促してくる。
それでもわたしは頭を下げたまま、もう一押し何か言葉を添えるべきかと思考を巡らせた――そのときだった。
「――すみません」
突然、入口のドアが開く音と共に、遠慮がちな女性の声が室内に響いた。
開きかけた口を閉じるより先に、わたしは反射的に声の主へと顔の向きを変えた。
「あら、お客様が来たわね」
自分の席へと戻っていた沙彩さんが、慣れた動作で立ち上がり入口へと歩いていく。
その入口を開けた姿勢のままこちらを覗き込んでいたのは、わたしと同じくらいの見た目をした女の子だった。
十六歳から、せいぜい二十歳の間くらいだろう。
白いパーカーの上に黒のテーラード、下は黒のニーソックスに代赭色のショートパンツ。
栗色に染めたショートカットは、勝気そうな表情をこの上なく際立たせていた。
「こんにちは。依頼をご希望ですか?」
中にいるわたしたちを順番に見つめていた女の子は、ドアの前で立ち止まった沙彩さんへ視線を定め、
「はい。予約はしていないんですが、大丈夫でしたか?」
と、はきはきした口調で返事をしてきた。
「ええ。別に予約制ってわけでもありませんから。どうぞ中へ。そちらのソファへお座りになってください。今、お茶をご用意します。陽奈乃ちゃん」
「え? はい」
振り返り、女の子からわたしへ視線を移してきた沙彩さんへ慌てて返事をすると、沙彩さんはにこりと微笑み
「お茶の用意を手伝ってもらえる?」
そう言って、シンクのある方向を指差してみせた。
「おい、園部」
即座に沙彩さんを窘める水沢さんの声を無視して、わたしはほとんど反射的に立ち上がっていた。
「はい! やります!」
自分のために用意されたコーヒーカップをそそくさと持ち上げ、わたしはシンクのある部屋の隅へと移動する。
「さ、じゃあそちらに掛けてください。お話はそこにいる水沢が伺いますので」