表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/135

救うべき想い 3

          3


「……おはようございます」


 静寂堂のドアを開け、陰鬱な気分を隠せぬままに挨拶をしたわたしへ、水沢さんと沙彩さんは即座に怪訝な視線を向けてきた。


 出勤して僅か一秒でこちらの異変を察知されたわたしは、目線を床へ固定しながらとぼとぼと自分のデスクへ移動し腰を下ろす。


 声に出さぬよう静かにため息を一つついて、わたしはそこでようやく水沢さんへと顔を向ける。


「あの、今日のお仕事は何をすれば良いでしょうか?」


 アカリさんの件が解決してから、まだ新しい依頼は入ってきていない。


 故に、調査などの仕事もないということになる。


 ただ何もせず座っていても、仕事をしていることにはならないし、身体を動かしていた方が気持ちが紛れるため、雑用でも構わないからやらせてほしい。


 そう思って訊ねたわたしの問いに、水沢さんは硬い表情のまま


「瓜時くん、何かあったのか?」


 と、心配そうに声をかけてきた。


「あ、いえ……」


 さすがに詳細を語るのも場違いかと考え、どう答えるべきか逡巡してしまうわたしの返事を待つことなく、水沢さんは更に言葉を続けてくる。


「普段の元気がないし、表情もあからさまに暗い。悩みがある感じに見受けられるが、あまり軽いものではなさそうだ。何か、深刻な事態に陥った空気を放っているよう感じ取れる。もし迷惑でなければ、俺たちで相談くらいには乗ってあげても良いぞ。どんな内容かはわからないが、一人で抱えていても辛いだけだろう」


 ぐらりと、心が揺らいだ。


 この人はいったい何者なのだろうと、水沢さんを直視したまま、改めてそんな疑問が頭に浮かんだ。


 わたしは、裕子の名前すら出していない。


 ただ職場に来て、自分の席に座っただけで。


 たったそれだけのことで、ここまでわたしの胸中を救いにくるのは、もはや神仏レベルの域なのではないか。


「……アイスココア、作ってあげるね」


 わたしが生み出した沈黙の隙間を埋めようとするかのように、沙彩さんが柔らかな声でそう言って、席を立った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ